3月30日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で少子高齢化時代における大学の生き残り戦略について取り上げていたのでご紹介します。
少子化が進む日本、2016年の出生数は98万1000人(推計)で、統計開始以来初めて100万人を割り込みました。
既に小学校や中学校では統廃合が進んでいますが、大学もこれから押し寄せる少子化の波の影響から逃れることが出来ません。
大学の数も2012年の783校をピークに少しずつ減少に転じています。
一方で、ここに来て大型投資で施設を充実させて学生の囲い込みを目指す大学が増えています。
東洋大学が120億円以上を投じて開設する新たな赤羽台キャンパス(東京・北区)を教育研究の拠点とするのは新設される情報連携学部(通称INIAD)です。
ちなみに、建築家、隅 研吾さんのデザインで、外壁の木目調の装飾が特徴です。
新年度のスタートに先駆け、報道陣向けの内覧会が開かれました。
その場で、情報連携学部の学部長、坂村 健さんは次のようにおっしゃっています。
「最近IoTとかが注目を浴びていますし、更には人工知能やビッグデータ解析とかオープンデータとかそういうことを専門を問わず教えるというのがこの学部の非常に重要なものですね。」
校内には様々な仕掛けがあります。
例えば、ロッカーにはどこにも誰のロッカーとは書いてありませんが、扉にはカードセンサーが付いているのでスマホでも開けられるし、カードをかざしても開けられます。
また、スマホを使ってエレベーターを呼び出すことも出来ます。
更に、「照明を消して下さい」と言うと証明が消える仕組みになっています。
モノとインターネットがつながったIoTのスマートキャンパス、その使い方を考えるのはこれから入学してくる学生自身です。
このキャンパスを手掛けたのが30年以上前からどこでもコンピューター「ユビキタスコンピューディング環境」を提唱してきた坂村さんです。
東洋大学は文部科学省が指定する「スーパーグローバル大学」に選定されたことから、海外で活躍する人材の育成にも力を入れています。
その構想はキャンパスだけに止まりません。
坂村さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「特色のない大学はみんな消えちゃうと思いますね。」
「ここはかなり強い特色を出して、これからの少子高齢化時代の大学とはこうあるべきだというようなことを私はやりたい。」
「よく大学は「地域経済を活性化する」といろんなところで言われているんですけど、現実に本当にそういう効果が出たというようなことを達成するのはなかなか難しいですよね。」
「ですから、そういうことにチャレンジしたいと私たち思っていまして、地域の会社の方と一緒に共同研究してとか、お助けして新しいビジネスを活性化することを助けるとか・・・」
なお、少子高齢化の中で生き残るために、東洋大学では情報連携学部は学生の割合を社会人を半分くらいにしたいといいます。
特徴ある施設で学生を集める、その原点と言えるものが金沢工業大学(石川県野々村市)にあります。
その施設では春休み中というのに、多くの学生が集まっていました。
学生たちが口にする“夢考房”は、1993年に金沢工業大学が学生の夢をかたちにする空間としてスタートし、今年11億円かけて施設を新築しました。
こうした工作機械を使って学生たちが作っているのがソーラーカーやロボット、あるいは人力飛行機です。
事務局長の谷 正史さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(夢を)かたちにするのに必要な機械はおおよそそろえてあります。」
「学校の授業ではなくて、学生さんの自主・主体的な活動になっております。」
学生たちが立ち上げるプロジェクトを学校側が場所や工作機械を提供することで支援、それに応えるように学生たちは様々な大会に出場し、優秀な成績を上げています。
それが新たな入学志望者を集めるきっかけになっているのです。
地方の大学には珍しく、県外から進学する学生が7割を超えています。
ある学生は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「ただ勉強を学ぶだけでなく実際に実践出来るので、その実践が将来に向かっても役に立つということがかなり大きいですね。」
大学側も特徴ある一つの施設がもたらす効果は想像を超える大きなものだといいます。
谷さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「学生が集うキャンパスとしてつくったものが、副次的に学習・勉強にも一生懸命取り組む。」
「その結果として就職にも良い効果が20年ちょっとで表れてきた。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
当然のことながら、少子化が進むということは大学においても入学者数、すなわち需要の減少をもたらします。
ですから、大学間の競争が激化し、生き残り戦略でつまずいた大学はつぶれる運命にあります。
そうした中において、番組から見て取れる大学の取るべき生き残り戦略には大きく以下の6つがあると思います。
1.独自の特色を持った学部の新設
・製造業でいうところの多品種少量生産のように、入学者数は従来に比べて少ないが、確実に入学者数を確保出来るだけの需要の見込める魅力的な学部を新設すること
2.常に時代の変化を読んだ魅力的な授業内容を取り入れること
3.独自の特色を持った大学運営
・ネットを活用した通信教育など、誰でも好きな時間に何処でも授業を受けられるような環境にすること
・例えば、番組でも取り上げられていたように学生が自由に研究出来るような場所や機材を提供すること
4.世界最先端の専門研究者を教授陣に加えること
・ただ独自の内容の授業を受けられるというだけでなく、世界最先端の研究者の授業を受けられるようにすること
5.入学者数の増加
・入学対象者を高校卒業者に限らず、社会人、退職後の高齢者、あるいは外国からの留学生なども対象とした魅力的な大学づくりを図ること
6.魅力的な大学環境
・校舎や校内のゆったりした環境、あるいは美味しい食堂など、学生はこうした環境の中で学びたいと思わせるような環境づくりを図ること
要するに、質、量という両面からの生き残り戦略がこれからの大学には求められるのです。
質的には、学生が「是非あの大学で学んでみたい」と思わせるような授業内容、そして量的には年齢を問わず、あるいは国際的な視野からの新たな学生の掘り起こしです。
こうした生き残り戦略が個々の大学において効を奏してこそ、少子高齢化時代においても大学は存続することが出来、更には優秀な留学生がそのまま国内企業に就職してくれれば、少子化を補う貴重な人材となってくれるのです。
そのためには、大学のみならず日本全体が海外の人たちから見て、”是非一度日本に住んでみたい”と思わせるような”魅力的な国”にならなければなりません。
そういう意味で、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックはこうした様々な取り組みを進めるうえで、またとないきっかけ、あるいは目標の期限だと思うのです。
更には、今後ともAIやロボットなどテクノロジーの進化のスピードはとても速いですから、それにつれて新しい製品やサービスが普及していき、人々の暮らしも変化していきます。
ですから、働く人たちに求められる能力やスキルも変化していきます。
そうした状況において、働く人たちは新たな能力やスキルを学べる場を求めるようになります。
そうした受け皿を提供する場としての役割がこれからの大学には求められているということを大学の首脳陣は自覚する必要があると思います。
同時に、これからの人たちにはテクノロジーの進歩とともに、求められる能力やスキルを身に付けるうえでの変化への適応力が求められるという意識がとても大切になると思います。