2017年06月09日
アイデアよもやま話 No.3725 進化するGPSの活用 その3 日本版GPS衛星「みちびき」が切り拓く未来!

3月6日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)、および6月1日(木)放送のニュース(NHK総合テレビ)で進化するGPSの活用について取り上げていました。そこで、1回目と2回目は「ワールドビジネスサテライト」から、そして3回目はNHKテレビニュースからと、3回にわたってご紹介します。

2回目は宇宙産業の負の連鎖を断ち切る対策についてお伝えしましたが、3回目はその具体的な対策の一つとして、日本版GPS衛星「みちびき」が切り拓く未来についてです。

 

6月1日、鹿児島県種子島からの打ち上げが成功したH2Aロケット34号機、搭載されたのは日本版GPS衛星「みちびき」です。

この衛星により地上の位置を特定する精度が飛躍的に高まり、私たちの暮らしを大きく変えるかもしれません。

 

GPS(衛星利用測位システム)はもともとアメリカが軍事用に開発したシステムで、地球全体を31機の衛星でカバーしています。

衛星から届いた電波をもとに位置を特定しますが、高い建物に電波が遮られたり、大気の層の影響で電波が乱れたりしておよそ10mの誤差が出ます。

カーナビで道路から外れた場所を走っているように表示されたことがある人も多いのではないでしょうか。

「みちびき」は、一つの機体が1日当たり8時間程度、日本付近の上空に留まる特殊な軌道を飛行するため、電波を受けやすくなります。

GPS衛星と「みちびき」を組み合わせて利用すれば、誤差はわずか数センチ程度になります。

 

「みちびき」から得られるデータを活用しようという取り組みが既に始まっています。

その一つが道案内です。

従来のGPSでは誤差が大きく、敵わなかった目の不自由な人のための歩行者用ナビゲーションが進んでいます。

曲がるタイミングをピンポイントで教えてくれます。

物流の分野では「みちびき」を利用してドローンを自動飛行させる研究が進められています。

熊本県の天草諸島では約6.5km離れた場所への輸送に成功、船を運行しなくても輸送出来る手段として期待されています。

建設業界も期待を寄せています。

ある建設現場のショベルカーはアメリカのGPS衛星を利用し、操作の一部を自動化しています。

データと図面を組み合わせてオペレーターは基準に合わせた設計どおりの作業が出来るようになっています。

GPSを利用することで作業が軽減され、工期の短縮にもつながっているといいます。

しかし、課題もあります。

アメリカのGPS衛星だけでは誤差が大きく、正確な位置情報に補正するため、現場周辺に電波の発信機を設ける必要があり、コストがかかります。

「みちびき」が実用化されれば、こうした設備が必要なくなると期待されています。

 

位置情報を得られる衛星は、中国やインドなどでも開発が進められています。

特に中国は「北斗」という名前の衛星をこれまでに20機打ち上げました。

中国は2020年までに35基体制にすることを目指していて、アジア各国でサービスを普及させようとしています。

 

日本版GPS衛星の「みちびき」は、7年前に試験的に1機(参照:アイデアよもやま話 No.1627 G空間EXPO 2010に行って来ました!)、そして6月1日に1機が打ち上げられました。

そして今年中にあと2機が打ち上げられる計画で、これらは日本からオーストラリア上空にかけて周回し、4機体制が整えば、常に1機以上が日本付近の上空を飛行するようになり、電波を受けやすくなります。

更に、大気の層の影響を修正する機能もあるため、より正確な位置情報を得ることが出来るのです。

来年の春以降に実用化する予定で、活用に向けて企業などの動きが活発になっています。

 

なお、この「みちびき」のために投じられる予算の総額はおよそ2800億円、まさに国家プロジェクトです。

「みちびき」を運用する内閣府は、2020年には経済効果が1年で2兆円に上ると試算しています。

内閣府の守山 宏道参事官は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「無人化や省力化を進めていくことを通じて新しい産業創出の起爆剤になるんじゃないかと。」

「加えて、「みちびき」はアジア太平洋地域を飛んでいますので、こういった地域における新サービスの創出につなげていくことが出来ますし、重要な取り組みだと考えています。」

 

しかし、こうしたサービスに向けた課題もあります。

トラクターなどの自動運転で求められる誤差数センチという精度を出すためには、受信機の価格がまだ100万円を超えているといいます。

これをどれだけコストダウン出来るかが普及のカギを握っているといいます。

 

また、「みちびき」は日本国内のみならずアジアやオセアニアでの活用も検討されていますが、GPSの国際展開を巡っては日本はやや出遅れているといいます。

最大のライバルは中国です。

先ほどもお伝えしたように、中国はアジアでのサービスの普及のため国を挙げて取り組んでいるのです。

野村総合研空所の八亀 章吾さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「中国も独自の衛星測位網を日本よりも速いスピードで構築していて、ただ単に衛星を打ち上げるだけじゃなくて、重要になってくる地上のインフラの部分も彼らの国費を使いながら、新興国に対して整備を進めていると。」

「場合によっては東南アジアなど新興国の学生を中国の大学に入れて、測位衛星の技術を学ばせて彼らを自国にまた戻してというような人材育成にも力を入れていると。」

「ここら辺の差というのを今後日本がどう埋めていくのかというのが大きな課題になるのかなと思っております。」

 

位置情報の精度は日本の方が高いのですが、中国は各国への取り組み方がとても戦略的だといいます。

最近盛んな宇宙ビジネス全体に言えることですが、打ち上げの成功はあくまでもスタート地点で、肝心なのはその後だと番組では指摘しています。

国内外でサービスをどう広めていくのか、また巨額の予算をつぎ込んだ「みちびき」の可能性をどう引き出していくのか、今後の戦略が重要になっていくといいます。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

「みちびき」により、誤差数センチの精度で位置が特定出来るのですから、ドローンの自動運転など明らかに新たなビジネス分野が開拓され、私たちの暮らしを便利にしてくれます。

一方、トラクターなどの自動運転で求められる誤差数センチという精度を出すためには、受信機の価格がまだ100万円を超えているといいますが、これについてはアイデアよもやま話 No.3723 進化するGPSの活用 その1 現在位置を誤差数cmで把握出来る低価格のGPSシステムの登場!でもご紹介したように既にコストダウンが実現されています。

 

また、番組でも指摘されている課題として、中国とのビジネスの各国への取り組みの違いがありますが、残念ながら中国の戦略的な取り組みの方が優れているように思います。

個々の技術の進化を追い求めるのではなく、国内外を問わずどのような暮らしを提供するのか、そしてその暮らしをどのようなプロセスで実現させるのかを戦略的に、あるいはシステムとして明確に描いたかたちでビジネスを展開することが日本政府、あるいは個々の企業に求められているのです。

 

一方、誤差数センチの精度で位置が特定出来る技術は、軍事面への応用も当然考えられます。

ですから、こうした技術に対しての軍事的利用の制限を国際的に加えることも求められるのです。

いつの世にあっても、便利な技術は私たちの暮らしを豊かにしてくれる一方で、私たちの暮らしを脅かす存在となり得ることを忘れてはならないのです。


 
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