4月6日(木)放送のニュース(NHK総合テレビ)で現在、国会で法案審議が進められている“テロ等準備罪”法案について取り上げていました。
そこで、リスク管理の観点からご紹介します。
現在の刑法では、原則として犯罪は実際に起きた後に処罰されるのに対し、“テロ等準備罪”では“犯罪実行前の段階でも処罰可能”としています。
それには以下の要件があります。
テロ組織、暴力団などの「組織的な犯罪集団」が犯罪を計画し、その実行のための準備行為をした時です。
以下は暴力団による殺害という具体的なケースについてです。
1.暴力団の組員らが対立する暴力団の組長の殺害を計画
2.資金の用意
3.拳銃の購入
4.組長を撃つ
現在の刑法では上記の4の他、3も殺人の予備罪として罪に問われる可能性があります。
今回の“テロ等準備罪”法案はより早い段階、2の資金を用意した段階で処罰される可能性があります。
犯罪の実行前に処罰出来るようになることで、無関係な人物が巻き込まれる恐れが高まる可能性も論点の一つとなっています。
一方、法務省は、「組織的犯罪集団」は“一定の犯罪の実行を目的とし、犯罪行為を継続的に繰り返すような団体”を指しているため、一般的な殺人のケースはテロ等準備罪の対象にならず、“犯行計画への合意が明らかでない場合、適用されることはない”としています。
この件について、菅官房長官は以下のように表明しております。
「一般の会社・市民団体・労働組合など、正当な活動を行っている団体が適用対象にならないことは明確にしております。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
現在の状況は、与党はこの法案を来週中の衆議院通過を目指すとしています。
一方、民進党は廃案を目指し、徹底抗戦する構えを見せているといいます。
さて、ご存知のように現在、IS(イスラム国)など世界的なテロ組織が海外では多くの一般国民に被害を与えています。
こうした中で、2020年に東京オリンピック/パラリンピックを開催する日本としてもこうしたテロ活動の阻止対策として、今回の“テロ等準備罪”法案が出てきた背景と言われています。
そこで、リスク対応策の観点から見ると、この法案における与野党の争点は、テロの動きがあった場合、どの時点から取り締まるかということです。
例えば、「どこそこでテロを起こしたら面白い」、あるいは「あの人はとても嫌な奴だから、殺してやりたい」と言っただけで、逮捕されるような事態になったら、個人の発言の自由に抵触してしまいます。
現実に、普段の会話でも、若い人たちの間では冗談半分に「死ね」というような言葉が飛び交っています。
あるいは、作家が原発やコンサートホールなどへのテロを題材にした作品を発表した場合に、そのことが実際のテロにつながるからと罰せられるようなことがあれば、まともな作家活動は出来ません。
そうした意味からすると、実際にテロ活動を計画するだけでは罰せられませんが、実行に移すために資金を用意した段階で罰するというところまで踏み込んだ議論がなされるのは理に適っていると思います。
拳銃などの武器を入手した時点での逮捕はタイミングを逸してしまうリスクが高まるからです。
いずれにしても、一般国民の表現の自由、そしてリスクは出来るだけ早いうちに摘み取るのが得策であるという相反する要件のバランスを考慮したうえで十分に国会の審議をしていただきたいと思います。