2月2日(木)放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)で“肥満”と“飢餓”を解消する日本発のソーシャルビジネスについて取り上げていたので3回にわたってご紹介します。
1回目は、寄付金による開発途上国の学校給食支援についてです。
世界人口の約70億人のうち、開発途上国では約10億人の人たちが食糧不足で飢餓に苦しむ一方、先進国を中心に約20億人が過食による肥満や生活習慣病を抱えているといいます。
この“飢餓”と“肥満”という食の不均衡を解決するために立ち上がったのが、NPO法人のTFT(TABLE FOR TWO 二人のための食卓)です。
TFTの仕組みはとてもシンプルです。
社員食堂や学食などで、低カロリーのヘルシー料理を作ってもらい、その代金のうち20円を開発途上国の学校給食(1食20円)の支援に充てるというものです。
2007年に始まったTFTの仕組みを導入する団体は年増え続け、現在では650団体にまでなっています。
その寄付金をもとに、この9年間で海外7ヵ国に4300万食の給食を提供しました。
日本初の社会事業であるTFTの動きは今、いろいろなかたちで世界に広がり始めています。
現在、TFTの仕組みを取り入れた企業や官庁はおよそ360に上っています。
その拠点は東京ミッドタウン(東京都港区)のほど近くにあるマンションの一室にあります。
設立は2007年、常勤スタッフの3人だけであらゆる仕事をこなしています。
その寄付金は年々増え続け、2007年には113万円だったのが2015年には1億3600万円にまで達しました。
さて、ケニアでは1日約200円以下で暮らす人たちの割合、いわゆる貧困率が人口の43.4%に達しています。
このケニアのある小学校では、TFTの資金により提供された給食が4年前に始まると、それまで学校に来ていなかった子どもも登校するようになりました。
また、4割だった出席率は8割にまで増え、更に中学に進学する子どもも増えました。
給食が教育の普及にもつながっているのです。
この学校では現地でも安くないお米もメニューに加えていますが、生徒の親が水汲みや給食の調理などを手伝い、人件費を浮かせるなどしてやり繰りしているのです。
TFTの代表、小暮 真久さん(44歳)は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「日本ではたった20円だけど、ここでは価値が何十倍にも大きくなりますよね。」
「だから大げさに言ってしまえば、こういう子どもたちの未来をつくっている食事だと思います。」
TFTはこれまでアフリカの6ヵ国とフィリピンの世界7ヵ国の子どもたちに給食を届けてきました。
しかし、こうした支援を求める声は後を絶ちません。
さて、TFT立ち上げのきっかけは、世界を変えたい若者たちが集うカナダで開かれた国際会議、2006年
ヤング・グローバル・リーダーズ会議にあります。
ここでTFTのアイデアが発表されました。
このアイデアを考えたのは、小暮さんがコンサルタント会社、マッキンゼーに勤務していた時の元同僚など日本人たちでした。
この時の気持ちについて、小暮さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。
「すごい仕組みだなと。」
「これはすごい。」
「これが本当に回り始めたら大きな世界の問題も解けるかもしれない、というくらい威力を持っている、しかも日本人が考えた。」
事業化を託された小暮さんは35歳の時に会社を辞め、NPO法人TFTを立ち上げました。
しかし、寄付を頼むべくアポを取ろうと電話をかけ、NPOと名乗ると電話を切られたり、ようやく担当者に会えても寄付金の一部を給料に回すと聞いただけで断られました。
小暮さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。
「社会的に信用が全くないってこういうことなんだなっていう。」
「今までの人生でそんなこと言われたことなかったので、これは大変だなっていう。」
それでも小暮さんは粘り強く企業回りを続けました。
そこに思わぬ追い風が吹きました。
2008年に“メタボ検診”が義務化され、企業による健康への取り組みが前向きになったのです。
これを機に協力企業や団体は一気に増え、その数は2015年には650にまで増えました。
無印良品では、3年半前にこのTFTの仕組みを導入しました。
全国に423店舗を展開する無印良品では、そのうちの24店舗に買い物ついでに食事や飲み物が楽しめるレストラン「カフェ&ミール
ムジ」があります。
お客は女性が中心で、その理由はメニューにあります。
彼女たちの心を捉えているのは野菜中心の体に優しいヘルシーな惣菜です。
こうしたTFTに協力するレストランは80社に広がっているといいます。
もっと寄付金を集めている企業があります。
伊藤忠商事の本社(東京・青山)の社員食堂では1日に約1300人が利用するといいます。
ここにもTFTコーナーがあります。
ある日の日替わりのヘルシーメニュー、「豚肉と1日分野菜の塩炒め」(TFT20円込みで税抜き480円)だけで1日分の野菜が取れます。
週に3日ヘルシーメニューを利用している女性社員は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「ヘルシーでバランスが考えられているので、これだけ食べればいいっていう。」
「寄付出来る方がいい、せっかく食べるなら。」
社会貢献が出来るヘルシーメニューは人気が高く、この日のヘルシーメニュー、120食は完売しました。
現在、TFTの仕組みを取り入れた企業や官庁は360に上ります。
今では大学からも寄付金が集まっています。
上智大学の学生食堂では、火曜日限定のヘルシーメニューが導入されています。
しかも、TFTから寄付を依頼したわけではなく、学生たちが自主的に動いたのです。
支援サークルをつくり、学校と交渉、学園祭などで寄付を呼び掛けてきました。
こうした動きは全国約120の大学に広がっています。
更に支援が目的のイベントも出てきました。
学生が運営するフットサル・フォー・ツーによるフットサル大会、アディダスフットサルパーク横浜金沢での大会では17チームが出場、参加費は1チーム1万3000円、そこからいくら寄付するか、決め方がユニークです。
試合で出た1ゴールが10食につながり、これがアフリカなど支援国の子どもたちに給食として届くのです。
この大会の結果で支援する給食数は4063、金額にして約8万円分となりました。
フットサル・フォー・ツー代表の長谷川 一馬さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「一見遊んでいるようでも実は国際貢献は気軽に出来るんだよというのをTFTを知らない方々にも知っていただくために我々は行っています。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
それにしても世界人口の約70億人のうち、開発途上国では約10億人の人たち、すなわち世界人口の7人に1人以上の人が食糧不足で飢餓に苦しんでいるという現実は同じ人間ととしてとても重たい気持ちになります。
そうした状況下において、TFTの活動の狙いはとても理に適っていると思います。
さて、一般的に社会貢献活動、あるいはソーシャルビジネスというと自立したビジネスともいうべき一般的な企業活動とは異なり、企業などからの寄付金を元手に利益の獲得は二の次で活動するNPO法人というようなイメージがあるのではないでしょうか。
ところが、今回ご紹介したTFTの取り組みには、代表の小暮さんもおっしゃっているように以下のような優れたメリットがあります。
・“肥満”と“飢餓”を解消するという、寄付をする側にとっても寄付を受ける側にとってもメリットがあること
・社員食堂や学食などでヘルシー料理を注文することにより、あるいはフットサル大会に参加するといった日ごろの生活の中で誰でも手軽にわずかなお金を寄付出来ること
こうした寄付をする側にとっても寄付を受ける側にとってもメリットがあるという前提でのソーシャルビジネスはとても無理がなく、寄付をする側にとってとても寄付をし易い環境を提供していると思います。
ですから、小暮さんもおっしゃっているようにTFTの活動の基本的な考え方は様々な分野で適用出来、世界規模で展開出来る大きな可能性を秘めていると思います。