最近、偽りの情報、すなわちフェイクニュースが話題を呼んでいます。
そうした中、2月7日(火)放送の「クローズアップ現代+」(NHK総合テレビ)でフェイクニュースについて取り上げていました。
そこで2回にわたってプロジェクト管理の観点から番組を通してご紹介します。
2回目はフェイクニュース発信のリスク対応策についてです。
番組ゲストでネットメディアの最新状況の研究者で法政大学准教授の藤代 裕之さんは次のようにおっしゃっています。
「せっかく一生懸命取材をしてもお金が儲からない、そういう仕組みではなくて、きちんと取材して丁寧な記事を書く人にお金が回るビジネスモデルの構築が求められると思いますね。」
また、番組ゲストのジャーナリスト、池上 彰さんは次のようにおっしゃっています。
「とにかくプラットフォームの責任ということですよね。」
「これからはこんなフェイクニュースを放置してていいんですかと言われるその対策がまさに求められるようになってきていると思うんですよね。」
フェイクニュースの拡散をどう食い止めるのか、インターネットの入り口となるプラットフォーム企業の対策が始まっています。
1月、世界的なネット企業と大手メディアが一堂に会し、“フェイクニュースをどう排除するか”について議論を戦わせました。
フェイスブックの参加者は、次のようにおっしゃっています。
「この2ヵ月報道機関と議論してきましたが、解決は簡単ではありません。」
「まるで“モグラたたき”のような問題です。」
「私たちは力を合わせなければいけません。」
フェイスブックは今、他のメディアと連携し、アメリカなどで新たな対策を始めています。
利用者が事実かどうか疑わしい投稿を通報出来るシステムです。
利用者が画面上のボタンを押すと、フェイスブックに通報が届きます。
通報が一定数超えた投稿は、外部の機関が事実かどうか検証します。
フェイクが疑われる投稿は、連日持ち込まれます。
「オバマ大統領がホワイトハウスに銅像を建てた」という記事が銅像の写真とともにフェイスブックの利用者から投稿されていました。
担当者は記事の発信者を直接取材、カリブ海のプエルトリコにある実際の銅像の写真を加工したことなどを突き止め、フェイクと断定しました。
検証によってフェイクと見なされた投稿には、フェイスブック上で“虚偽が疑われている”と警告が表示されます。
ABCニュースのデジタル部門所属のザナ・オニール編集長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「私たちはジャーナリストのスキルを使って、正確な情報を導き出していきます。」
「重要なことは、常にフェイクニュースに目を光らせて、何が間違っていて何が正しいのか、真実を示していくことなのです。」
この他にも2月3日、グーグルは他のサイトから借りてきた文書を切り貼りしたような品質の低いサイトの検索順位を下げる仕組みを導入したと発表しています。
こうした対策について、藤代准教授は次のようにおっしゃっています。
「今まさに始まったばっかりと思うんですね。」
「しかし、インターネットの社会的な影響が高まるにつれて、こういう対策も少しずつ進んでいるわけなので、これはみんなの力でどういうふうな社会、インターネットの利用を進めていくのかってことを考えながら進めていけば必ず解決策は見つかっていくんじゃないかと思います。」
「(例えばどういうアイデアがあるのかという問いに対して、)オリジナルのコンテンツを作っていく人たちにしっかりとお金が回る仕組みを考えていくことが一つ、もう一つはジャーナリズムがキーワードかなと思うんです。」
「ジャーナリズムってことをあまりインターネット企業は考えてこなかったと思うんです。」
「しかし、これからはネット企業はジャーナリズムの一翼を担っているんだという自覚を持ってしっかり社会の中で取り組んでいくことが必要になってくるんじゃないかなと思います。」
なお、検閲について、池上さんは次のようにおっしゃっています。
「公的機関がフェイクニュースと断定するか、認定するかということになりますと、まさに検閲そのものになります。」
「それはやっぱりそれぞれのジャーナルズムが自主的に「これはフェイクニュースですよ」という意見を表明するというかたちしかないんだろうなと思うんですが。」
「もう一つはプラットフォームだけではなく、特にインターネットの場合、広告収入を目的にしてフェイクニュースを書く人もいますよね。」
「そうすると、特にインターネットの場合、広告が無作為にいろんなところに出てきたりするわけですね。」
「そういう広告主というのは、例えば新聞や雑誌の場合、あるいはテレビの場合、こういう新聞に公告を出して下さい、この雑誌に出して下さい、あるいはこの番組にやります、ということでやっていますね。」
「インターネットに関しては、そういうことをやっていないからいろんなところに出てしまう。」
「結果的にフェイクニュースのところに広告がワッと出るわけです、現時点では。」
インターネットの世界での広告というのは、自分がどこに出しますというのは表明しないのかという問いに対して、藤代准教授は次のようにおっしゃっています。
「仕組み的には可能なんです。」
「しかし、非常に複雑な仕組みがあってブラックボックスのようになっているんですね。」
「しかし、それをある意味インターネットの広告会社は言い訳にしてきた部分があると思うんです。」
「しかし、実は仕組みでいろいろ出来るんです。」
「今は人工知能、AIみたいなものが言われていますから、フェイクニュースを拡散するようなサイト、もしくは発信源に対して広告を止めていく、もしくは広告主がそういうところに出していくのを自覚して止めていくというようなことも当然求められていく。」
これについて、番組ゲストで放送プロデューサーのデーブ・スペクターさんは次のようにおっしゃっています。
「インターネット広告は、無作為のシステムがありながらバナー広告やきちんとした具体的にこのサイトに(広告料を)払って載せるという2種類あると思うんです。」
「ただ、フェイクニュースが難しいのは、今トランプ政権にフェイクニュース管理して下さいって言ったら何が無くなるか不安ですよね。」
「だからアメリカの大統領(による)記事でさえフェイクニュースを利用してきてる面があるので、しかも(自分に)不利なものはヤダって言ってるから、このレベルじゃどうにもなんないですよね。」
番組の最後に、では私自身は何をすればいいのかということについての藤代准教授の提言をご紹介します。
それは「家族や友達とニュースについて話そう!」です。
友達や家族と話すと当然意見が違ってきます。
こうした違いを気付けるのは、リアルでニュースを見て話すのが一番良いのではということです。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
番組の内容を参考に、フェイクニュース発信のリスク対応策を以下にまとめてみました。
その大前提は、フェイクニュースの取り締り、および管理責任はツイッターやフェイスブックなどプラットフォームを提供する企業にあるということです。
・フェイクニュースかどうかの識別システムを構築すること
以下はその具体例です。
利用者が事実かどうか疑わしい投稿を通報でき、通報が一定数超えた投稿は外部の機関が事実かどうか検証出来るシステムの導入(フェイスブックでは既に導入済み)
AI(人工知能)を活用したフェイクニュース自動識別/警告表示システムの導入
・フェイクと疑われるニュースの検索順位を下げる仕組みの導入(グーグルでは質の低いニュースについて導入み)
・同時にフェイクニュース発信者に警告を与えること
・フェイクニュース発信の常習者には、ニュース発信の権限を一定期間与えないようにすること
こうしてまとめてみると、多くの投稿数から人海戦術でフェイクニュースを識別するには限界があります。
更に、外部の機関が事実かどうか検証出来るようにするためにはかなりの労力と費用がかかります。
ですから、早急にAIを駆使したフェイクニュース自動識別/警告表示システムの開発が求められます。
また、リスク対応策の観点からみると、フェイクニュース自動識別/警告表示システム、およびフェイクと疑われるニュースの検索順位を下げる仕組みの導入以外は、フェイクニュースがある程度拡散してしまった後の対応策、すなわちコンティンジェンシープランという位置づけになります。
なお、公的機関がフェイクニュースを取り締まるための検閲については、池上さんのおっしゃるように言論や表現の自由とのからみで大変難しいので、やはりプラットフォームを提供する企業の責任において取り締まることが望ましいと思います。
また、藤代准教授の提言である「家族や友達とニュースについて話そう!」については、フェイクニュースに限らず、身の回りの人とニュースについてお互いの意見を聴くことによって自分とは違った見方、あるいはものの考え方をお互いに知ることが出来ます。
また、コミュニケーションを図るうえでもとても大切な時間だと思います。
さて、リスク対応策とは関係ありませんが、藤代准教授のおっしゃっている、きちんと取材して丁寧な記事を書く人にお金が回るビジネスモデルの構築の必要性については全くその通りだと思います。
ネット社会においても、時間や期間を要するような質の高い、あるいは価値の高い情報を提供するジャーナリストについてはそれなりの対価が支払われるべきだと思います。
ジャーナリストが活動出来ないような社会は民主主義を危うくし、健全な社会とは言えないのです。