2017年03月18日
プロジェクト管理と日常生活 No.480 『早急に求められるフェイクニュース対策 その1 ソーシャルメディア時代の問題!』

最近、偽りの情報、すなわちネット上のフェイクニュースが話題を呼んでいます。

そうした中、2月7日(火)放送の「クローズアップ現代+」(NHK総合テレビ)でフェイクニュースについて取り上げていました。

そこで2回にわたってプロジェクト管理の観点から番組を通してご紹介します。

1回目はソーシャルメディア時代の問題についてです。

 

塩水1リットルを一気に飲めば痩せられるという、若い女性の間で話題のダイエット法、ネットで検索すると安全な方法として紹介されていますが、実は全くのウソなのです。

このダイエット法について、総合診療医の徳田 安春さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「胃腸に穴が開く。」

「大量の血液を吐き出す、吐血といいますけど。」

「緊急搬送になることもあります。」

 

今、フェイクニュースが世界中に溢れています。

アメリカのある男性は、“面白ければよい”とアメリカ大統領選挙中にフェイクニュースを大量に発信しました。

この男性は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「真実なんか信じない、そういう時代なんだ。」

 

日本でも毎日のようにフェイクニュースが発信されています。

例えば、「海水温の急激な変化はM7の大地震の予兆だ」とか「福岡の陥没事故でできた穴は、放射能で汚染された土で埋められた」、「マイナンバーは役所で手続きすれば抹消出来る」、あるいは「WHOは大麻が有害だという根拠はないと発表した」というようなフェイクニュースが発信されています。

 

ところが、私たち自身が知らないうちにフェイクニュースの拡散に加担しているかもしれないのです。

熊本市に住む10代の女性は、昨年の熊本地震の直後、余震におびえながら避難している時にツイッターに投稿されていたある偽の情報を信じてしまいました。

それは「おいふざけんな、地震のせいでうちの近くの動物園からライオン放たれたんだが」というフェイクニュースでした。

動物園の近くに住んでいるこの女性は、友人に危険があってはいけないとこの投稿をすぐに拡散しました。

偽りの情報だと気付かずに善意で拡散した女性、一方で深く考えずに拡散させた人もいました。

5000人以上のフォロワーのいる東海地方の男性はNHKの電話取材に対して以下のように答えました。

「見てすぐに面白いと思ってリツイート・拡散しました。」

 

また、10万人のフォロワーのいる都内のある人物は、次のように答えています。

「拡散したかどうかは記憶にありません。」

 

ライオンが逃げ出したというデマの対応に追われた動物園では、不安を覚えた住民などからの問い合わせが100件を超えました。

対応に当たったこの動物園の職員、大木 昌之さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「地震にあっているところで、皆さんそれ時点で不安がっているのに、そういった情報を流して更に混乱させている。」

「どう考えても許せない話ですよね。」

 

偽りの情報を拡散させた人は1時間で少なくとも2万人に、更に大きな不安を広げることになりました。

 

こうした状況について、番組ゲストでネットメディアの最新状況の研究者で法政大学准教授の藤代 裕之さんは次のようにおっしゃっています。

「(フェイクニュースを見抜いて拡散させないようにすることは)非常に難しくなっていると思います。」

「それはスマートフォン(スマホ)特有の理由があるんですね。」

「私たちは東スポ(東京スポーツ新聞)とか雑誌を見る時は、東スポだなと思いながら見るわけです。」

「これをパッケージというふうにいいます。」

「しかし、発信者と拡散する部分が分離しているというのがソーシャルメディアの時代の特徴なんですね。」

「そうなると、パッケージというものが分からなくなるわけです。」

「(誰が書いたのかということと切り離されて情報だけが独り歩きしていく、拡散されていくということかという問いに対して、)そうなんです。」

「簡単にシェア出来てしまう仕組みがあるので、そこまでしっかり見るというのは、さっき例えば地震とかで心配がつのっている場合はなかななユーザーにリテラシー(*)を求めるというのは難しいという側面もあると思います。」


原義では「読解記述力」を指し、転じて現代では「( 何らかのカタチで表現されたものを)適切に理解・解釈・分析し、改めて記述・表現する」という意味で使われている。(Wikipediaより)

 

なお、さきほどの熊本でライオンが逃走したというフェイクニュースを流した男性は、逮捕されたものの釈放されているといいます。

これについて、番組ゲストのジャーナリスト、池上 彰さんは次のようにおっしゃっています。

「(法的なルールについて、)この場合は偽計業務妨害ということで、動物園の業務を妨害したからという容疑で逮捕したということになるわけですが、それではたして裁判になった時に有罪に持ち込めるかどうかって検察側が判断したということでしょうね。」

「明らかに社会に悪い影響を与えているわけですから、何らかの処罰する法的な仕組みが必要じゃないかという議論がある一方で、しかしそれをやると言論の自由、表現の自由とかそういうものを妨げることになるんじゃないかっていうこういうこともあって、本当に難しいんですよね。」

 

さて、フェイクニュースがどんな動機で作られているのかについて、番組では以下の3つを挙げています。

・面白がってフェイクニュースを流すこと(愉快犯)

・アメリカ大統領選挙の時に問題になった自分の政治的意図を広げるためにフェイクニュースを流すこと

・ビジネスとしてフェイクニュースを流してお金を稼ぐこと

 

事実かどうかはっきりしない話題を自分のブログで発信していたフリーライターの山本 大輔さんは、NHKの取材に対してその実態を次のように明かしました。

「お金も稼がないといけないという理由で、悪魔に魂を売るようなかたちで(事実かわからない)ガセネタなども書いてしまっていました。」

 

山本さんが事実かどうかはっきりしない記事を書くようになったのは、ネットのある仕組みにあります。

記事には広告が掲載されており、1回クリックされるたびに数十円が支払われ、記事を書けば書くほど増える収入、内容が事実かどうかは問われません。

人々の関心を集めるため過激なタイトルをつけると、アクセス数と広告のクリック数が増加、1日数千円の山本さんの収入につながりました。

次第に罪悪感を感じるようになった山本さん、現在は出来る限り自分で調べて記事を書くようになったといいます。

しかし、お金のために不確かな記事を書き続ける人は後を絶ちません。

山本さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「情報が多少正確じゃなくても「赤信号みんなで渡れば怖くない」じゃないですけども、周りもやっているんだから自分も多少はと考えてしまうんですよね。」

「今思うとちょっと情けない感じですけど。」

 

昨年、記事の間違いが連日指摘されて、事実上閉鎖された医療情報サイトの「WELQ」は、大手IT企業のDeNAが手がけていました。

記事の中には、例えば「肩こりには幽霊が関係している」とか「日焼けには濡れタオルで冷やすのがいい」といった誤った方法が紹介されていました。

今や組織的にフェイクニュースが提供されるような事態になっているのです。

こうした事態について、藤代准教授は次のようにおっしゃっています。

「インターネット上でつながった人に仕事を出すクラウドソーシングという仕組みを使って安い単価で、それこそ1記事100円とか500円とかそういうような単価で大量に書かせて検索エンジンの上位に表示させる。」

「それによってアクセスが沢山集まることでお金が儲かるという仕組みになっているんですね。」

「記事というのが見出しが派手であったり、写真が実は本文とは違うけれどもちょっと派手な写真が付いているというようなものがアクセスが増えるってのは分かっているんですね、経験上。」

 

また、池上さんは、次のようにおっしゃっています。

「今回の場合は、アメリカの大統領選挙に影響したとも言われているんですよね。」

「選挙の最中に、ヨーロッパのマケドニアでヒラリー(候補)の悪口を書き、トランプ(候補)が有利になるような記事を、まさにフェイクニュースを作ってニュースサイトを作った大学生がいまして。」

「そうすると特にアメリカのトランプ支持者たちが競って見るわけですね。」

「で、沢山の人が訪問してきたことによって広告収入がいっぱい入って、それで大儲けをしたという事実があるんですね。」

「(本来正しさを求められるニュースが収入と合致していることが非常に大きな歪みを生んでいるという指摘に対して、)そういうことですね。」

「だから、いわゆるプラットフォーム、様々なインターネットニュースを提供して下さいという会社がありますよね。」

「昔は、私たちは中身に関してはタッチしませんと言ってきたのですが、そこで明らかな間違いだったり、あるいはそれが政治に大きな影響力を与えるようなことになった時に、うちは関係ありませんて言っていられるのかということです。」

 

そして、藤代准教授は次のようにおっしゃっています。

「今や子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで(ネットを)使うようになってくると、リテラシーをユーザーに求めるのは非常に難しいと。」

「誰もが簡単に気軽に使えるようなものの中にフェイク(偽り)が混じってくるという状況は社会的に問題だというふうに思いますね。」

「(ではフェイクなものに誰が責任を取るべきなのかという問いに対して、)これ非常に難しい問題だと思うんですよね。」

「やっぱりインターネットって誰でも発信者になれる、マスメディアだけじゃなくて私たち個人も発信出来てすごくいいところがあると思うんですね。」

「その一方で、こういうビジネスが回ってしまっていると。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

インターネット、およびソーシャルメディアが普及するまでは、人々の主な情報源は新聞、雑誌、あるいはテレビニュースなどでした。

これらの情報源は情報の送り手が明らかで情報源も限られていたので、情報の送り手である新聞社、発行者、あるいは放送局はそれなりに精査した情報を提供しておりました。

そして、もしフェイクな情報を発信すれば、ねつ造と言われて社会的批判を受けました。

ですから、小さな誤りはたまに生じても、意図的に誤った情報を流したり、あるいは大きな間違いが表面化することはめったにありませんでした。

 

しかし、今やインターネットは世界中の多くの人々の暮らしに欠かせない存在となっています。

そして、現時点では自動車に衝突事故が避けられないのと同じように、ソーシャルメディアも使い方によっては人々の気持ちを混乱させたり、精神的な危害を加えたり、金銭的な損害を与えたりと、様々なマイナス要因を抱えています。

 

そこで、番組の内容を参考にツイッターやフェイスブックなどに代表されるソーシャルメディア時代の特徴、および問題点をフェイクニュースとの関連で以下にまとめてみました。

・今や新聞や雑誌などの有料の既存メディアよりも無料のネットメディアの方が発信力、すなわち影響力が増しつつあること

・誰もが容易に発信者になれること

・発信者と拡散する部分が分離していること

・従って、記事の正確性よりも刺激的なタイトルなど、人々の気を引く記事の方が拡散力、すなわち人々への影響力が大きいこと

・プラットフォーム企業が投稿記事へのアクセスが沢山集まることでお金が儲かるというサービスを提供することにより、記事の投稿者とプラットフォーム企業がともに儲かるようなシステムになっていること

・従って、記事の投稿者もプラットフォーム企業も投稿記事の正確性よりも収益性を重視しがちであり、フェイクニュースの生まれ易い環境が出来上がっていること

・フェイクニュースが作られる動機には以下の3つがあること

愉快犯

自分の政治的意図などを広く伝えること

お金儲け

 

2回目では、フェイクニュース発信のリスク対応策についてお伝えします。


 
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