2017年03月07日
アイデアよもやま話 No.3644 世界が注目するベストセラー「サピエンス全史」の指摘 その2 農業革命!

1月4日(水)放送の「クローズアップ現在」(NHK総合テレビ)のテーマは「“幸福を探して” 人類250万年の旅〜世界的ベストセラー〜」でした。

番組では世界が注目するベストセラー本、「サピエンス全史」を通してこれまでにない新たな視点から人類のこれまでの歴史、そして将来を取り上げていたので4回にわたってご紹介します。

2回目は、人類の2番目のターニングポイント、“農業革命”についてです。

 

イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリさんの書いた「サピエンス全史」は、人類250万年の歴史を斬新な視点でひも解く壮大なストーリー、世界的なベストセラーとなっています。

そして、世界のトップランナーたちも口々に賞賛しているといいます。

 

1回目では人類の最初のターニングポイント、“認知革命”についてご紹介しましたが、この本の斬新な視点はこれだけではありません。

文明の発展が人間を幸せにするとは限らないとこの本は指摘しています。

およそ1万2千年前に始まった農業革命、集団で力を合わせて小麦を栽培することで食料の安定確保ができ、人口が増加、社会は大きく発展したというのが通説です。

ところが、この本はここで全く新しい考え方を持ち出します。

集団としては発展したけれど、人間一人一人は狩猟採取時代より働く時間が長くなり、不幸になる人が増えた、しかも貧富の差まで生まれたというのです。

「サピエンス全史」には次のような記述があります。

 

食糧の増加はより良い食生活やより長い余暇には結びつかなかった。平均的な農耕民は平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに。見返りに得られる食べ物は劣っていた。農業革命は、史上最大の詐欺だったのだ。

 

著者のハラリさんは更に大胆な仮説を展開します。

小麦という植物からみれば、人間を働かせて小麦を増やさせ、生育範囲を世界中に広げた、つまり農業革命とは“小麦に人間が家畜化された”とも言えるというのです。

今までの常識をひっくり返す数々、ホリエモンこと、実業家の堀江 貴文さんは、人間の本質という点で自分自身の考えと共通する部分があると語ります。

「別に書いてあることは当たり前のことなんですけど、みんな当たり前とは思ってないのかな。」

「今でも満員電車で会社に通っている人たちも農耕社会の名残みたいなものじゃないですか。」

「何千年も続いた社会規範をなかなか捨てることが出来ないから。」

「サピエンスとは矛盾をはらんだ生き物である。」

「矛盾を受け入れる柔軟性がサピエンスのサピエンスたるところ・・」

 

ジャーナリストの池上 彰さんは、これまでの歴史書は国家や権力者を描いたものが多く、この本のように“個人の幸せ”から歴史を見るのは新鮮だと感じています。

番組の中で「サピエンス全史」の著者、ハラリさんは池上さんの質問に対して次のように答えています。

「(こういう人類史の本で、幸せかどうかを問題に立てるような本に初めて出会ったが、どうしてこういう発想が出てきたのかという問いに対して、)実は幸せかどうかを考えるのは最も大事なことなのです。」

「歴史を振り返ると、人間は集団の力や権力を手に入れても、それを個人の幸せと結びつけるのは得意ではありません。」

「現代人は石器時代より何千倍もの力を手に入れていますが、一人一人はそれほど幸せには見えません。」

 

「(この本を読むとむしろ農業を定着してやることになって私たち人類は、実は生きていくのに大変危険なリスクを背負い込むようになったというが、)これまでの歴史書の多くは個人の幸せには目を向けず、国家や権力にだけ注目してきました。」

「幸せを軽んじると「国家や権力の発展は必ずしもみんなの幸せにつながらない」ということを忘れ、拡大や成長ばかりを追い求めることになってしまうのです。」

 

会社やお金だけでなく、宗教、法律、国家もこれらは全て人間が生み出したフィクションであり、それをみんなが信じることで人間は発展してきたというのはとても新鮮です。

また、一人一人の幸せから歴史を考えるという視点もとても新鮮です。

農業革命で確かに人間の集団全体や一部の権力者たちは豊かになりましたが、一人一人はむしろ不幸になった、これだけ文明が発展した現代でも過労死や貧困が問題になっていることも、この本を読むと納得がいく気がします。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

「サピエンス全史」の著者、ハラリさんのおっしゃるように、世界中の一人一人が幸せかどうかを考えることこそが最も大事なことだと思います。

一人一人が幸せを考慮せずに単に経済成長を続ければ、格差は増々広がってしまうからです。

ところが、ハラリさんの指摘しているように、歴史を振り返ると、人間は集団の力や権力を手に入れても、それを個人の幸せと結びつけるのは得意ではありませんでした。

そして、次の言葉こそ世界的に広がりつつある格差社会の是正に向けての大きなヒントになると思います。

 

「(一人一人の)幸せを軽んじると「国家や権力の発展は必ずしもみんなの幸せにつながらない」ということを忘れ、拡大や成長ばかりを追い求めることになってしまうのです。」

 

どうも、今の世界各国の大勢は、このような状況にあるように感じられます。

そして、アメリカのトランプ大統領の誕生は、まさにこうした問題が多くのアメリカ国民の

格差に対する我慢の限度を超えた結果ということに納得がいきます。

トランプ大統領は、不満を抱えた多くのアメリカ国民の担ぐ言わば“みこし的存在”なのです。

アメリカばかりでなく、EUのフランスやイタリアなどでもこうしたアメリカの状況に同調した動きが出て来ています。

 

ここでとても心配なのは、こうした現状打破の動きがあるべき姿を曖昧なまま進んでしまうと、かつてのヒトラー政権のような暴走を招いてしまうことです。

ですから今こそ、世界各国がまず一人一人の幸せありきで、政治、経済、そして社会システムなど全てをこのことを大前提に再構築することの必要性を切実に感じまます。


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています