2017年02月15日
アイデアよもやま話 No.3627 世界的に広がる“保護主義”へのジャック・アタリの警告!

トランプ政権誕生と共に「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ大統領の強引な政策に早くも世界的に波紋が広がっています。

そうした中、1月30日(月)放送の「国際報道2017」(NHKBS1)で「緊急提言 欧州随一の知性が語る トランプと世界の今後」をテーマに取り上げていました。

そこで、番組を通して世界的に広がる“保護主義”へのジャック・アタリさんの警告についてご紹介します。

ちなみに、ジャック・アタリさんについては、これまでプロジェクト管理と日常生活 No.441 『ヨーロッパを代表する知性の指摘する課題・リスクとその対応策 その4 強くあるためには懸念材料を持つことが唯一の方法』などで何度かご紹介したことがあります。

 

保護主義的な政策を掲げるトランプ大統領のアメリカ、EUからの離脱を決め、単一市場からの撤退を表明したイギリス、そして反EUを掲げる極右政党が躍進を続けるフランスなど、今世界各国で内向きともいえる姿勢、すなわち“反グローバル化”の動きが強まっています。

 

こうした動きに警鐘を鳴らすのは“ヨーロッパの知性”と呼ばれているジャック・アタリさんで、このままでは世界は再び戦争に突き進む可能性があると指摘します。

なお、アタリさんは、ヨーロッパ復興開発銀行の初代総裁、そしてEU設立の立役者でもあるフランスの思想家です。

 

ヨーロッパ、そして世界はどこに向かうのか、番組はアタリさんにインタビューしました。

アタリさんは、インタビューの中で次のようにおっしゃっています。

「(アメリカやヨーロッパで広がる保護主義的な動きについて、)今世界は岐路に立たされています。」

「グローバル化に反発する動きが多くの国々で広がっていますが、それは自己防衛であり、アイデンティティを守る方法でもあるのです。」

「市場のグローバル化と民主主義の間で戦いが起きているのです。」

 

「(今フランスでも保護主義的な動きが広がりを見せていることについて、)フランス国民は“静かな革命”を望んでいます。」

「国民は既存の政治家を追放し、新たな政治家の登場を望んでいるのです。」

「アメリカやイギリスのように保護主義の道を選ぶ人が多ければ、ルペン氏が選ばれるでしょう。」

 

ちなみに、ルペンさんは今年4月から5月にかけて行われる大統領選挙で“反EU 反移民”を掲げる極右政党、国民戦線の党首です。

最新の世論調査では25%の支持を集め首位に立っています。

 

更にこうした動きがヨーロッパで今後も広がれば、最悪のシナリオが想定されるとアタリさんは語ります。

「(“反EU 反グローバル化”を掲げる新興政党「五つ星運動」が躍進しているイタリアで、今年中に行われる可能性がある議会選挙で「五つ星運動」が勝利し、)「五つ星運動」の政権がユーロ(ヨーロッパの共通通貨)離脱を問う国民投票を実施すれば、勝利する可能性があります。」

「イタリアがユーロ圏から離脱すれば、ユーロが崩壊しかねません。」

 

アタリさんは、このまま保護主義的な動きが世界に広がれば戦争につながる恐れすらあると警鐘を鳴らします。

「これは非常に危険な状態です。」

「1世紀前、人類は保護主義が戦争につながっていくのを目の当たりにしました。」

「時に国家は“自殺”を図ります。」

「20世紀はじめ国家が“自殺”を図りました。」

「第一次世界大戦は絶対に不必要でした。」

「無知が戦争や危機を招きました。」

「私たちは今(当時と)同じ状況に置かれているのです。」

 

保護主義的な動きが世界に広がる背景にあるのが格差の拡大です。

グローバル化に伴って、これまで経済を支えてきた中間層の雇用が減り、不満を募らせているとアタリさんは指摘します。

「(最悪のシナリオを回避するにはどうすればいいのかについて、)中間層に広がる貧困はこれまで常に独裁政治を招いてきました。」

「中間層に広がる貧困への対策を見い出せなければ“戦争”につながる可能性すらあります。」

「各国政府が中間層に広がる貧困に対処することが出来るのかがカギになるのです。」

 

アタリさんは各国で保護主義や孤立主義への動きが強まれば、国内に溜まった不満が外に向かい、それが暴力的な行動を引き起こす可能性があると語りました。

トランプ大統領が率いるアメリカが軍事面でも影響力を増す中国を敵対勢力と見なせば、アメリカと中国の間の緊張が高まる可能性があり、国際情勢全体が不安定化すると強い懸念を示しました。

そのうえでアメリカと中国の対立が激しくなった場合には、日本、中国、韓国、北朝鮮と複雑に各国の利害が絡み合う東アジアで部分的な軍事衝突が起きる恐れも否定できないと指摘しています。

 

このように保護主義や孤立主義が加速している現状に対して、現在のヨーロッパ各国のリーダーたちが保護主義に代わる代替案を示すことが出来ず、アタリさん自身も国民全体から支持が得られる代替案を示すのは容易ではないと認めています。

注目のフランス大統領選挙では、国民戦線のルペン党首がグローバリズムかそれとも愛国心かの選択だと主張して支持率でトップとなっています。

その一方で、世論調査で依然3分の2近くの人がルペン党首の保護主義的な政策は受け入れがたいと答えています。

フランス国民の意見は大きく分かれ、また日々揺れ動いているのが現状といいます。

大西洋を挟んで保護主義的な動きが共鳴し、ヨーロッパの枠組みを更に揺るがすことになるのか、それとも保護主義の誘惑に陥らず第三の道筋を描くことが出来るのか、今年ヨーロッパ各国で行われる選挙で問われることになると番組では解説しています。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組の内容を以下に要約してみました。

・グローバル化に伴い、中間層の雇用が減り、格差が拡大している

・中間層は不満を募らせ、保護主義的な動きが世界に広がっている

・中間層に広がる貧困はこれまで常に独裁政治を招いてきた

・市場のグローバル化と民主主義の間で戦いが起きている

・各国政府が中間層に広がる貧困への対策を見い出せなければ“戦争”につながる可能性すらある

・1世紀前、人類は保護主義が戦争につながっていくのを目の当たりにした

・これまで無知が戦争や危機を招いてきた

・私たちは今第一次世界大戦前と同じ状況に置かれている

 

このようにまとめてみると、私たちはどのような道をたどるべきかがうっすらと見えてきます。

その心は、私たち一人一人は国民である前に霊長目のヒト(類人類)上科のヒト科に属する動物であり、地球上に暮らす生物の一種であるということです。

 

なお、前回、あるゼロ戦乗りの遺言を通して戦争の悲惨さと平和の大切さ、そして戦争勃発の懸念についてお伝えしましたが、“ヨーロッパの知性”と呼ばれているアタリさんもこのままでは世界は再び戦争に突き進む可能性があると指摘していることを私たちは無視してはならないのです。

ここ最近から戦争勃発の懸念が出て来ているのではなく、じわりじわりとこうした潮流が世界的に進行しているということです。


 
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