2017年02月09日
アイデアよもやま話 No.3622 中国独自のEV戦略!

1月21日(土)放送の「経済フロントライン」(NHKBS1テレビ)で中国のEV(電気自動車)事情について取り上げていたのでご紹介します。

 

今、中国でEVの販売が急増しています。

世界最大の自動車市場、中国の昨年の新車販売台数はおよそ2800万台で日本の5倍以上に上ります。

北京など大都市で深刻化する大気汚染、その対策の一環として中国政府が打ち出したのが排ガスが出ないEVの普及です。

 

中国の大手自動車メーカーのある販売店で展示されている自動車は全てEVです。

連日大勢のお客が訪れ、この店だけで1ヵ月に100台以上売れています。

背景にあるのは、政府の思い切った政策です。

1台につき、最大70万円あまりの国からの補助金が出ます。

更に、他の補助金も合わせると北京の場合、400万円のEVがおよそ200万円で購入出来るのです。

 

去年11月にこのお店でEVを購入したある男性は、補助金で購入価格が手ごろになったことに加え、ガソリン車より便利なことがあるといいます。

大気汚染の警報が出ると、ガソリン車の使用は一部規制され、市内中心部に自由に乗り入れることが出来なくなります。

通勤と子どもの送迎に自動車が欠かせないため、EVを買うことにしたのです。

この男性のような子育て世代にEVは人気があるといいます。

この男性は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「(EVは)使用制限もなく、便利で維持費も安く済みます。」

 

昨年11月に中国の広州で開催されたモーターショーでは中国の自動車メーカーが開発したEVが数多く並びました。

 

中国政府には更に将来を見据えた戦略があります。

国内メーカーの育成を図り、技術で先行する日本や欧米のメーカーに追い付き、追い越そうというのです。

 

こうしたEVシフトで中国独自のモデルが全土に広がる可能性も生まれています。

中国のバッテリー・メーカー、SKIO ENERGYではEVのバッテリーをわずか2分で交換するシステムを開発しました。

バッテリーは専用のシステムで一斉に充電し、充電したいEVがやって来ると、使い切ったバッテリーと入れ替えるだけです。

普通に充電すると長い時間がかかるというEVの欠点を解消するビジネスです。

この会社のCEO、陳 峰さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「3年かけて中国全土で10万台以上のEVにこのシステムを広めたい。」

 

こうした状況に厳しい対応を迫られているのが日本の自動車メーカーです。

トヨタ自動車はEVよりも航続距離が長いハイブリッド車の販売に力を入れてきました。

しかし、ハイブリッド車は新たな制度では優遇の対象から外れる可能性が強くなっているのです。

こうした中、昨年11月に中国でのEVの販売を検討すると発表しました。

一方、ホンダは昨年12月に湖北省でEVも生産出来る工場の建設を始めました。

 

こうした状況について、三井住友銀行中国のコーポレートビジネス推進部長、曽根 淳史さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「全て中国の主導権というか中国の流れによって事が決まってくると。」

「ここでどういうかたちで5年、10年後のEVに向けて、日本企業として対応していくかが勝ち組に残る一つの大きな条件だと考えています。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

どうも中国では大気汚染対策の一つとしてEVの普及に国を挙げて取り組んでいるようです。

ですから、当面日本より速いスピードでのEVの普及が進むと見込まれます。

 

また、気になるのはSKIO ENERGYで進められているバッテリー交換システムです。

このシステムが万一中国国内でデファクトスタンダードになるようなことがあれば、日本や欧米の自動車メーカーは中国国内でのEVの販売に際し、対応を迫られることになります。

ちなみに、アイデアよもやま話 No.1202 電気自動車普及の鍵 - スタンドでバッテリー交換!などでベンチャー企業、ベタープレイスによるバッテリー交換システムについてお伝えしたことがあります。

しかし、プロジェクト管理と日常生活 No.302 『ベタープレイスの破産にみる”依存関係”の考慮不足!』でもお伝えした通り、バッテリーの形状の標準化などがネックとなって普及半ばでベタープレイスは倒産してしまいました。

 

しかし、中国の事情は異なります。

共産党による一党独裁の中国では、こうした標準化は習近平主席の一声で決定されます。

また、一旦このようなバッテリー交換システムが中国国内の各地に設置されれば、確かに充電インフラとしては便利になりますから、このシステムに慣れたEVユーザーはこのシステムに対応していない海外自動車メーカーのEV購入には抵抗を感じるようになってしまいます。

しかし一方で、世界的にバッテリー交換システムの標準化を進めることは各メーカーの思惑もありかなり難しそうです。

ですから、こうした中国製のEVを輸出する際には逆のハードルになってしまいます。

ということで、中国政府がバッテリー交換システムに対してどのような判断を下すのかには注視する必要がありそうです。

 

いずれにしてもまだまだ当分の間、世界的なEVの普及に向けては航続距離を伸ばすためのバッテリー容量の増加、バッテリーの充電時間の短縮、およびEV本体の低価格化が大きな課題です。


 
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