2017年02月04日
プロジェクト管理と日常生活 No.474 『世界が理性よりも感情により左右される危うさ!』

1月30日から5回にわたって「格差社会アメリカの実態」をテーマにお伝えし、その中でもトランプ大統領の反グローバル化、保護主義政策がこれまで営々と築いてきた外交、あるいは自由貿易の歴史の針を大きく揺り戻そうとしています。

 

歴史的にみて、自由貿易が世界各国の経済を成長させ、人々の暮らしを豊かにしてきたことは明らかです。

お互いの国が自国にない商品を他国から輸入し、あるいは自国よりも安い部品を輸入して商品の低コスト化を図り、より安い商品として消費者に提供することが出来ます。

ところが、残念ながらトランプ大統領は“アメリカの製品を買い、アメリカ人を雇用する”政策を唱え、強硬に推し進めようとしています。

ですから、中長期的にみれば、アメリカ国民はこの政策によりこれまでよりも高い価格の商品を購入することになるのです。

しかも、こうしたアメリカの政策への対抗上、他の国もアメリカに対して同様の措置を打ち出すようになります。

まさに貿易戦争です。

その結果は明らかです。

こうした状態になってから、多くのアメリカ国民がその政策の誤りに気付いても後の祭りです。

こうした簡単な論理をトランプ大統領が理解していないはずはありません。

ですから、トランプ大統領はポピュリズム(大衆迎合主義)をベースに、短期的な人気取り政策の連続で政権運営をしていると思われます。

しかし一方で、トランプ政権の支持率は誕生時でさえ50%を割っています。

ですから、ポピュリズムをベースにしたはずの政権ですが、トランプ政権は発足当初から半数以上の国民の支持を得られていないのです。

ところがこのトランプ政権の誕生はヨーロッパ各国にも影響を与え、トランプ政権と同様の政策を唱える政治団体が台頭しつつあります。

 

一方、一連の報道によると、最近、韓国・釜山の日本総領事館前に新たな慰安婦像が設置され、大きな波紋を呼んでいます。

日韓両政府は一昨年末の合意で慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決されたことを確認した」との認識で一致しました。

そして日本側はこの合意に基づき昨年、元慰安婦支援などに10億円を拠出するといった合意内容を着実に履行しました。

ところが、日韓両政府によるこの合意から1年となった昨年12月28日、地元の市民団体によって釜山の大通り沿いの歩道に少女像が設置されました。

しかし地元の釜山市東区が設置を許可せず、いったんは撤去されました。

ところが区には抗議の電話やメールが殺到し、区側はこれに屈し、わずか2日後に設置を許可し、30日午後、像は再び設置されました。

そして、翌31日、大みそかの夜には、日本総領事館の前で像の除幕式が派手に行われました。

 

韓国政府はソウルの日本大使館前の少女像は「地方自治体の責任」などと主張し、撤去に動かなかったどころか、釜山の日本総領事館前に2つ目の慰安婦像が設置されたことを容認したのでした。

こうした韓国側の一連の行為や対応は、外国公館前での侮辱行為を禁じたウィーン条約を無視する立派な国際法違反に当たります。

ですから、当然ながら日本政府は駐韓大使を一時帰国させるといった対抗措置に出たのです。

要するに、韓国政府は一部の市民団体による強硬な少女像設置の声に負けて設置を阻止することが出来なかったのです。

韓国政府は今回の件で世界各国からの信頼を失ったはずです。

 

では、客観的に見ておかしい今回ご紹介したトランプ政権の保護主義政策、および韓国による日韓両政府の一昨年末の合意を無視した少女像設置の背景には何があるのでしょうか。

それは、一言で言えば、世界が理性よりも感情に大きく左右されるような状況を迎えつつあるということで、まさに時代の逆行です。

今回ご紹介した内容は、それを象徴していると思います。

こうした状況は世界的な社会不安、更には国家間の紛争のリスクを高めます。

リスクにもいろいろありますが、こうしたリスクは極めて世界的な影響が大きく、放置しておくことは出来ません。

社会不安が非常に高まり、国民の不満が爆発しそうになると、その不安を最大限に生かして国外に敵を見つけて国民の目をそちらに向けさせるというのは政治家の常とう手段だからです。

しかも、一旦こうした流れが出来てしまうと、今度は逆に国民感情による大きな力が働き、政治家やマスコミも国もこうした流れに逆らえなくなったしまうということをこれまでの歴史が示しています。

 

そこで、こうしたリスクの対応策を以下に挙げてみました。

・国民は常に感情に流されずに、データなどによる事実に基づいて様々な情報に対する妥当性を判断すること

・マスコミはポピュリズムに流されて国民の声に迎合することなく、常に事実に基づいた報道をするという社旗的使命を果たすこと

・国の指導者もマスコミ同様にポピュリズムに流されることなく、また短期的ではなく中長期的視点に立ち、かつ国際的な視点から政権運営を遂行すること

 

いずれにしても、国民、マスコミ、および政治家が常に感情に押し流されずに理性を保つことが社会の安定、あるいは世界平和の根底にあるということを忘れてはならないと思うのです。

中でも特に各国の国民の意識が重要です。

なぜならば、ポピュリズムという言葉があるように、マスコミにとっても政治家にとっても国民はお客様であり、国民の声に応えようとする習性があるからです。

そういう意味では、トランプ政権の誕生は多くのアメリカ国民の声を反映した結果であり、民主主義、あるいは自由主義のリーダーと目されてきた大国から保護主義を唱える政権が誕生したことにはチョッピリ残念で悲しい気持ちになってしまいます。


 
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