2017年01月20日
アイデアよもやま話 No.3605 デイサービス&スポーツジムの融合で介護制度の壁を突破!

高齢化が進む中で膨らみ続ける社会保障費をどう削減するかが国家レベルの大きな課題となっています。

そうした中、昨年11月14日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でデイサービス&スポーツジムの融合による介護制度の壁の突破について取り上げていたのでご紹介します。

 

現在、高齢者の介護保険サービスは重度の軽い順に要支援1〜2、要介護1〜5まで7段階に分かれています。

これに合わせて訪問介護やデイサービスなど、基本的に全国で一律のサービスが提供されています。

このうち要支援2については2017年4月以降は各市町村が独自にサービスの内容や事業者の報酬などを決めていくことになります。

これらをチャンスと捉えて介護予防を進めることで社会保障費を削減しようという取り組みがあります。

 

青森県八戸市の中心街にある「ライフジム ニューフィットネス」は一見すると普通のスポーツジムですが、実はある目的で作られました。

こちらのジムはデイサービスも兼ねているのです。

一般的なデイサービスでは、介護師などがついて体操や入浴をしたり、栄養士が考えたメニューの食事を取ったりして1日をゆっくり過ごします。

ところが、ライフジムでは利用者一人一人が率先してトレーニングをしています。

デイサービスではほとんど見られない光景です。

ライフジムを経営する下沢 貴之さんは、デイサービスとスポーツジムを融合させることで社会保障費の削減につながると考えており、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「社会保障費も安く出来る。」

「安く出来る仕組みは、リハビリからトレーニングというパラダイムシフト・シフトが一つと、リハビリと言っちゃうと医療保険だ、介護保険だお金がかかってしまうのでトレーニングということにしてしまおうと。」

 

例えば「要支援2」のリハビリ料金は月額およそ3万3000円(自己負担金は1割)と決められています。

しかし、下沢さんはリハビリではなくトレーニングにすることで介護福祉士の人件費などを上乗せしても1万5000円〜2万5000円(自己負担額は市町村の判断)くらいに減らせるというのです。

下沢さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ここに来て健康になって自立支援という介護保険の大きな柱をまさに実践出来るんです。」

「事業者もウィン、お年寄り、利用者もウィン、自治体もウィンという状況を作れるので。」

 

しかし、これには次のような問題があると、下沢さんは指摘します。

「一般の人はデイサービスに入ってはダメ、その反対(デイサービスの利用者によるスポーツジムの利用)もダメです。」

 

スポーツジムとデイサービスを隔てる見えない壁があるのです。

介護保険制度上、要支援者がいるスペースはデイサービス施設のため、一般の人は行き来が出来ません。

 

下沢さんは、将来この壁を無くし、スポーツジムとデイサービスの利用者が交流出来れば、介護予防意識が高まり、介護給付費の削減につながっていくと考えています。

 

これを可能にするのが2017年4月から始まる総合事業です。

総合事業とは、介護度が軽い人が受けるサービスの内容や価格を市町村ごとに決められるようになる制度です。

既に総合事業に移行している自治体もありますが、全国でまだ3割しかありません。

そこで下沢さんが訪れたのは日本財団(東京都港区)です。

スポーツジムとデイサービスの融合を総合事業として全国に広めるため、各地の社会福祉法人に太いパイプを持つ日本財団に相談しに来たのです。

日本財団は下沢さんの取り組みが社会的課題を変えていく可能性があるとして、2016年に1000万円を助成しました。

 

既に総合事業を始めているのは千葉県松戸市です。

ここでは昔ながらの地域コミュニティを復活させることで社会保障費を削減していこうとしています。

毎週火曜日、近所の高齢者が集まるのは町内の施設です。

こうしたご近所付き合いは心身を活性化させる効果があり、中長期的な介護予防につながるといいます。

松戸市は、運営費として3年間で20万円を補助、条件は週1回2時間以上集まることと、そのうち10分は介護予防体操を行うことです。

町内会長の佐藤さんは、このような集まりがきっかけで高齢者各々に社会参加の意識が生まれてきているのを感じています。

 

更に、松戸市は総合事業で新たな試みを始めました。

2016年11月2日、千葉大学予防医学センターと組み、自治体などの住民活動が介護予防にどれだけ効果があるか科学的に分析し、3年かけて「都市型介護予防モデル」を開発すると発表しました。

松戸市は、このプロジェクトが長期的に介護費用削減に大きな効果をもたらすと考えています。

松戸市の介護制度改革課の中沢 豊課長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ご自身がやる気にならなければ自分の健康が管理出来ないのと一緒ですね。」

「地域のことを自分事として考えられない限りはこれは発展していかない。」

「私たち(松戸市)が今やろうとしていることは、まず(介護)需要を少しでも抑え込む、抑制出来るような仕組みを作ろう。」

「そして、(住民と)一緒に考えながらやることが重要です。」

 

番組コメンテーターでA.T.カーニー日本法人会長の梅澤 高明さんは、どの市町村でも出来そうな方策について次のようにおっしゃっています。

「多目的、マルチユース、これが一つのキーワードじゃないかなと思います。」

「デイサービスとスポーツジムを一つの施設で、あるいは一つのチームで出来たら施設の利用効率も上がるし、世代間の交流も始まるからプラスの効果もあるよね、とそういう話だったと思います。」

「介護というのが今日のテーマですけど、公共サービス全般に広げても実は同じようなことが言える気がしています。」

「特に過疎が進む地方なんかだと、例えば学校というのが一つのコミュニティのハブになり得る。」

「学校はグラウンドもあって、プールもあるからスポーツの場でもあるし、その横に例えばデイケアセンターを造る、あるいは地域包括ケアの施設を造る。」

「それからそこに市役所の窓口も持ってくる、こんなことをするとおじいちゃん、おばあちゃんたちがいつも子どもが元気にしているのを見ながら集まるような場所になってきますよね。」

「で、スポーツのイベントなんかも世代を超えてやっていけると。」

「だから縦割りじゃなくて、なるべくいろんな人たちが自然に集まるような場所を複合的に造っていくっていう発想で組み立てていったらいいのかなというふうに思います。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

私の母も以前デイケアサービスを受けており、私も何度かその施設を訪れたことがありますが、その際に利用者は基本的に施設により決められたメニューをこなしているという印象を受けました。

利用者は、それぞれ介護レベルが異なり、また趣味も異なります。

また、利用者は自分のやりたいことをやるのが一番一生懸命になり、心身ともに元気になる効果が期待出来ます。

ですから、利用者の自主性に任せた、リハビリではなくトレーニングという考え方に賛成です。

 

一方、こうした制度にすると従来のままの施設では費用の増加、および管理や運用の手間が増えてしまうという問題が生じてしまいます。

ですから、今回ご紹介したようにデイサービスとスポーツジムを一つの施設として集約化し、多目的にするような方向性で取り組むことが利用者の自主性の尊重、および施設利用料の削減、社会保障費の削減につながると思います。

同時に、今後の社会保障費の更なる増加を見越すと、リハビリ料金とトレーニング料金の差に見られるように、コスト削減の観点から根本的な制度や運用の見直しが必須だと思います。


 
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