2017年01月01日
No.3588 ちょっと一休み その575 『人間は邪悪な存在であるとカントは説くが・・・』

このブログをご覧の皆さま、明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

 

このブログをご覧になることによって、何らかのかたちで少しでも皆様のお役に立てればという想いで、私自身が日々興味を持ったこと、あるいは思っていること、感じていることをまとめて公開しております。

 

さて、プロジェクト管理と日常生活 No.460 『カントの著作に見る戦争勃発のリスク対応策 その1 人間は邪悪な存在である!』から4回にわたってお伝えしたように、18世紀のヨーロッパを代表するドイツの哲学者、イマヌエル・カント(1724-1804)は、人間は自分の利益ばかり考えるような邪悪な存在であるが、邪悪な人間だからこそ恒久平和を導くことが出来ると説いていました。

カントは、永遠平和を実現するには人間愛よりも法に対する尊厳が大切であると考えているのです。

カントの生きた時代、人間の本質を善と捉える理想論は平和を構築するためには無力でした。

平和のためには、理想を超えた哲学が不可欠だと考えるのです。

 

しかし、現実には非暴力主義者として有名なインドのガンジーや貧しい人々のために生涯をささげたマザー・テレサ―など、邪悪な存在の対極とも言えるような人生を送った方々も世界には沢山おられます。

そして、こうした方々の生き方は世界中の多くの人たちに大きな影響を与えています。

 

ですから、カントのような偉大な哲学者に逆らうつもりは毛頭ありませんが、人には邪悪な面と無私で他人のために尽くそうとする献身的な面との二面性があると思うのです。

また、人に献身的な面が全くなければ人類はここまで生存してくることは無かったと思うのです。

このように考えを進めていくと、人には個としての生存本能と人類という種としての生存本能があるように思えてきます。

そして、時にはこの2つの本能は対立することがありますが、人類全体の総和としては常に種としての本能が個としての本能に勝るのでこれまで生存出来てきたと思います。

 

しかし、人類は不幸にも国としての生存本能から核兵器という大量破壊兵器を自らの手で作り上げてしまいました。

そして、今や広島や長崎に投下された原爆に比べて格段に破壊力が強化された核兵器が核保有国によって沢山装備されているのです。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.391 『核兵器禁止条約は人類存続の究極のリスク対応策』

このことが人類生存の前提条件を大きく変えてしまったのです。

核兵器の誕生までは、たとえ戦争が起きても人類の生存を脅かすほどの影響はありませんでした。

ところが今や核兵器保有国同士が戦争を始めると、お互いの国民が立ち直れないほどの大打撃を受けてしまうような状況に人類は置かれているのです。

更に、お互いの同盟国が参戦すれば、更にその被害は大きくなってしまいます。

ですから、核保有国のトップが何らかの理由により核兵器を使用してしまうと、人類滅亡が現実のものとなりかねないのです。

ちなみに、アメリカ、ロシアの2ヵ国だけで世界の核弾道数の90%以上を保有しているといいます。

こうしたリスクを無くすために、現在「核廃絶」、すなわち核兵器の全世界的な廃止を目的とした国際的な動きが高まりを見せております。(参照:No.3534 ちょっと一休み その566 『画期的な核兵器禁止条約が賛成多数で採択されたが・・・』

 

ところが昨年12月23日付けCNNのネットニュースでは、以下のようなとても衝撃的な内容を伝えていました。

アメリカのトランプ次期大統領は12月22日、アメリカの核能力の「強化と拡大」に目を向けると発言し、これに先立ちロシアのプーチン大統領も核戦力を増強すると言明したというのです。

 

今後とも人類の存続をより確かなものにしておくために、核兵器などの大量破壊兵器の廃絶を実現しなければならないのです。

同時に、人類という種に属する私たち一人一人が常に個の幸福と同時に種としての幸福を願うことによって、より豊かな種の社会が作られていくのです。

 

ここで救いなのは、いかなる国の指導者も国民の声を無視することは出来ないという現実です。

アメリカの次期大統領、トランプさんも“ポピュリズム(大衆迎合主義)”を背景に先の大統領選に勝利しました。

要するに、アメリカの有権者の半数以上の国民の声に応えて期待を持たせたからトランプさんは勝利出来たのです。

 

このように考えると、カントの唱えていることの凄みが感じられてきます。

いかなる国においても、国民の多くが徹底して合理的に物事を判断する能力、すなわち知性を持つことによって、邪悪な指導者と言えども指導者の地位を維持するために知性を働かせれば国民の声を無視することは出来ず、自ずとあるべき政治の道を歩まざるを得なくなるのです。

 

私たち一人ひとりは邪悪な面と献身的な面とを兼ね備えていますが、いずれにしても私たち一人ひとりの知性のレベルがそれぞれの属する国の政治や経済のレベルに反映されるということを認識することこそが“世界平和”や“人類全体の豊かさ”に向けて歩む第一歩であるということに思い至りました。


 
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