2016年12月20日
アイデアよもやま話 No.3578 「ラクスル」に見る企業間のシェアリングエコノミー その1 印刷業界の革新!

10月22日(土)放送の「週刊報道 Bizストリート」(BS−TBS)で「ラクスル」に見る企業間のシェアリングエコノミーについて取り上げていたので4回にわたってご紹介します。

1回目は、印刷業界の革新についてです。

 

まず、ラクスル株式会社の代表取締役、松本 恭攝さん(32歳)のご紹介です。

松本さんは、大学卒業後の2008年にA.T.カーニー(外資系コンサルタント会社)に入社し、2009年にラクスルを創業されました。

ちなみに、2015年「日本の企業家ランキング2016」(フォーブス ジャパン)の2位に選ばれています。

松本さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「(ラクスルという社名について、)楽に刷る、イージープリントという意味です。」

「印刷して難しかったものをもっと簡単に誰でも刷れるようにしていこうというところからラクスルですね。」

「(外資系コンサルタント会社に入社して1年半で辞めて起業したことについて、)全然惜しくはなくて、元々ゼロから1を創るのが凄い好きな人間だったんですね。」

「やはりコンサルティング会社って100を110にする、120にするということをやるんですけど、まだ世の中にない誰も見たことのないようなものを作っていこうということにモチベーションを感じて、こういうことをやりたいなと思って、ネタもそこで見つかったので、「よし、やろう」と。」

 

さて、ラクスルはインターネット上で印刷サービス「ラクスル」を展開しており、取り扱う印刷物は20種類以上(チラシ、ポスター、名刺など)です。

中堅中小の印刷事業者の印刷機をシェアリング(共有)する仕組みを構築し、効率的に格安で印刷するというビジネスです。

「ラクスル」のサービスについて、松本さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「全国の印刷会社さんをネットワークして、それぞれの印刷会社さんの使っていない時間が結構あって、こういう時間を使わせていただいて我々で印刷をお願いさせていただいて印刷するというシェアリングですね。」

「我々自身でアセットを持たない、印刷機を持たない中でやっていくと。」

「私が(このサービスを)始めた2009年は、まさにウーバー(Uber)さんとかエアビーアンドビー(Airbnb)さんが出た今のシェアリングエコノミーという会社が出始めたタイミングだったんですけど、まだシェアリングエコノミーとは言われなくて、言われ始めたのは2012年、2013年、それぐらいのタイミングからですね。」

 

「ラクスル」の一番の売りはA4チラシ1枚1.1円からという低価格です。

印刷枚数100枚からと小口でもOKです。

そんな使い勝手の良さが受けて、ユーザー数は中小企業を中心に30万を超えています。

印刷の注文は5分ほどで済んでしまいます。

用紙のサイズや用紙の種類、用紙の厚さなどを選択して、印刷するデータを入力して送信するだけなのです。

 

そんな「ラクスル」が革新的な点について、ラクスルの経営企画部の遠藤 泰雄さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「印刷会社さんの非稼働時間を利用して、空いている時間に仕事をお願いして、その分安く、スピーディーに印刷会社さんに刷っていただくという事業、シェアリングエコノミーを体現しております。」

 

「ラクスル」を通して顧客から印刷の依頼を受けると、「ラクスル」が提携している数百の印刷会社から稼働しない空き時間のある印刷機を探し、そこに仕事を発注するというビジネスモデルです。

 

ニシカワ印刷の西川 誠一社長は、「ラクスル」を利用するメリットについて番組の中で次のようにおっしゃっています。

「基本的に私どもの顧客は小売り流通業がメインなんですけど、週の頭に仕事が薄くなって機械の稼働率が落ち、売り出しが週末ですから、週末に向けて仕事は増えていきます。」

「(週の後半の印刷機の稼働率は7割〜9割ほどですが、週の前半は5割以下に落ちることもあるので、)その隙間をうまく「ラクスル」の仕事で徐々に埋め始めて、今は週の間ほぼ稼働率に変動がなく、機械の稼働を確保出来ているというのが実情です。」

 

こうして空き時間を利用することから格安で印刷が可能になるというわけです。

更に、西川さんは、次のようにおっしゃっています。

「通常の印刷会社さんですと、同じ印刷物を1枚の大きな紙に印刷します。」

「ですが、ラクスルさんで多く行われている印刷物はバラバラに面付けされた状態で印刷されます。」

「通常の印刷会社では中々こういうことは出来ません。」

「(通常は1枚に1社ですが、「ラクスル」は1枚に複数の会社のチラシがまとめられるという、)ラクスルさんは全国からお仕事を集められておりますので全国各地のものが一つのジョブの中で処理されるのも大きな特徴だと思います。」

「日頃当社ではターゲットにしていないお客様の仕事を請けることが出来るというのがメリットですね。」

 

印刷の元となる「版」のレイアウトをラクスルの担当者がPC上で作成、全国からの注文を寄せ集め、1枚の「版」に収めることで小口の印刷を可能にしているのです。

「ラクスル」のシェアリングは新たな仕事を生み出しています。

 

こうした内容について、西川さんは、次のようにおっしゃっています。

「(どの印刷会社がどの時間空いているかについて常に把握しているのかという問いに対して、)本当のリアルタイムではないんですが、大体それぞれの印刷会社さんがどの時間空いているのかというところは我々の方で把握して、このロットをお願いします、どういうキャパシティを印刷会社さんが持っているかを理解しておりますね。」

「(「版」の中でいくつもいろいろな会社のものを印刷するのは結構大変なことではないかという問いに対して、)このコンセプト自体はすごく昔からあるコンセプト、「付き合わせ」というんですけど、ただ同じ「版」の中で、例えば500枚、1000枚のチラシ、同じ納期、同じ紙質のものを地場の印刷会社さんが仕事で集めてくるのは営業だと中々出来ない。」

「だけれども、我々はインターネットで全国から毎日何千という受注を受けておりまして、なので熊本県の人と宮城県の人が同じ印刷をしたいと、それが別の県も含めてこれらの県の人たちの印刷物をまとめて刷ると「版」にかかってくるコストを1社で2万円かかっていたものを10社で2万円、1社2000円に減らすことが出来るから非常に小ロットの印刷物を安く提供出来ると。」

「(沢山顧客がいるから出来るんでしょうけど、今の例でみると大変な作業が必要なのではという問いに対して、)ここはやはり非常に難しいところで、我々の一番のノウハウで、この部分をどの印刷会社さんに出すか、どの印刷機で刷るか、どういう組み合わせにするか、これをノウハウとして我々独自のロジックを作って、自動でそこをシステムが判断していくようなかたちを(自前で)組んでいます。」

「「ラスクル」を通して仕事をお願いする方も中小企業、実際に刷る方も中小企業、両方ITに対するリテラシィが決して高くない方々なんですけども、間に我々が入らしていただいてITを活用して、またアナログに変換するかたちでそれぞれとコミュニケーションを取らせていただくことによってこういう効率化を実現しています。」

「マッチング(サービス)とは違って、我々自身が一度受けさせていただいて、それぞれの印刷会社さんにこういう値段でお願いしますというかたちでやっています。」

「(こういうかたちにしているのはなぜかという問いに対して、)やはり今の「組版」の中でどう付けるかというところ、これが非常に重要でこの作業はこれまで普通印刷会社さんが行っているんですけど、我々ここに付加価値を一番多くつけておりまして、ですので単純に印刷会社さんにそのまま左から来たものを右に流してしまうと今の価格で提供出来ないとか、今の仕組みを実現出来ない、それをするためにはその「組版」のプリプレスと業界で言われるところなんですけど、これを我々自身が持つことでこういう仕組みを実現しているので、単なるマッチングではなくてもう少し深いところまで入り込んだ・・・」

「(これまでの印刷業者さんと比べて「ラクスル」はどれくらい安いのかという問いに対して、)伝統的な印刷会社さんに例えばチラシ1000枚をお願いするのに比べると、5分の1とか10分の1くらいの値段で提供させていただいております。」

「(IT時代になってインターネットで広告などが盛んになっているのに、チラシだとか駅前で配るティッシュの印刷物とかは減っていないのかという問いに対して、)実はこの10年間でチラシの市場自体は全く変わってないんですね。」

「出版は減ってるんですけど、チラシの市場は変わってなくて、数量でいうと少し増えている、そういう状況です。」

「(外資系企業を辞められて、印刷業に目を付けたのはなぜかという問いに対して、)ちょうど2008年に入社して、リーマンショックがあってコスト削減ばかりをやっていて、そのコスト削減の中で人件費も物流費もプロモーションもシステム開発費とか、いろいろなコストの中で印刷が一番削減率の高い費用項目で、非常に非効率と。」

「で、大手2社で市場の半分を占めていて、一方で中小の印刷会社さんて3万社あってコンビニエンスストアが4万5千店舗だったんで非常に沢山の数があって、全くインターネットが入ってなくて効率化されていない、この部分にインターネットを持ち込むと非常に大きな業界のあり方を変えられるんじゃないのかというところで足を踏み込んだと。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

そもそもシェアリングエコノミーとは何ぞやですが、ネット検索した結果を以下にいくつかご紹介します。

・個人が保有している遊休資産の貸出を仲介するインターネットを介したサービス

・インターネットを通じて、モノやサービスを個人間で貸し借りしたり、企業から借りたりする生活スタイル

・欧米を中心に拡がりつつある新しい概念で、ソーシャルメディアの発達により可能になったモノ、お金、サービス等の交換・共有により成り立つ経済のしくみ

・個人や企業、非営利団体などが所有する物や遊休資産、ノウハウなどを、インターネットを利用した仲介によって貸し出すなどして、他者と交換・共有すること

 

こうしてみると、シェアリングエコノミーのキーワードは、以下の2つになると思います。

・個人や企業が保有する遊休資産(モノ、お金、サービス)の交換・共有

  個人vs個人、個人vs企業、企業vs企業

・インターネットが仲介

 

ですから、コミュニケーション革命とも言えるインターネットの普及がシェアリングエコノミーを可能にしたと言えます。

 

さて、まず驚いたのは、出版は減っているけれどもチラシの市場は変わっておらず、数量的には少し増えているという状況です。

あらゆる面でペーパレス化が進んでいると思っていましたが、紙文化はまだら模様ではあるもののまだまだ当分残っていそうな状況なのです。

ラクスルは、こうした状況、および印刷業界の非効率化、すなわちブルーオーシャン(競争のない未開拓市場)的な状況を踏まえて印刷サービス「ラクスル」を始めたのだと思います。

 

また、「ラクスル」は依頼元と印刷業者との単なるマッチングサービスを展開するのではなく、印刷ビジネスをプロセスとして把握し、インターネットの良さなどITを駆使して最大限効率化が図れるようなプロセスに組み換えたところが大変ユニークで優れたところだと思います。

中でも特筆すべきは、以下のポイントです。

・「ラクスル」が依頼元からの注文を受け、その注文内容を整理統合して印刷業者に注文する

- 印刷の元となる「版」のレイアウトをラクスルの担当者がPC上で作成する

- 全国からの注文を寄せ集め、1枚の「版」に収めることで小口の印刷を可能する

 

こうした「ラクスル」の提供するサービスにより、依頼元、および印刷業者には以下のようなメリットがあります。

(依頼元)

・少ない枚数でも発注出来る

・印刷料金が安い

・注文の手間がかからない

・上記の理由から、これまで依頼出来なかったような印刷物の注文が出来るようになる

(印刷業者)

・「ラクスル」によって新規の需要が生まれる

・印刷機の空き時間の受注が出来るので変動なく印刷機の稼働率を上げることが出来る

・宣伝費をかけなくても済むので中小印刷業者でも新たな需要を得られる

 

更に、印刷業界全体で見ても望ましいのは、「ラクスル」の主要な顧客は新規顧客層なので既存の印刷業界にはあまり影響を与えないところです。

 

ということで、「ラクスル」のように新らしいテクノロジーを駆使して、既存の業界が手つかずのブルーオーシャンを狙ったサービスは、新規の顧客の創造、および低価格化をもたらすとても望ましいこれからのビジネスのあり方の一つだと思います。


 
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