2016年12月09日
アイデアよもやま話 No.3569 日本の消費回復のカギとは!

10月10日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で日本の消費回復のカギについて取り上げていたのでご紹介します。

 

消費支出の実質増減率における総務省の家計調査(2人以上の世帯 前年同月比)によると、アベノミクスのスタート以来、2013年は前年に比べてほぼプラスですが、2014年以降はほとんどマイナスの状況が続いています。

この低迷する消費を回復させるために企業はどうすべきなのか、番組ではノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院のフィリップ・コトラー教授にお聞きしました。

なお、コトラーさんは10月発売の書籍「マーケティングのすゝめ」(中央公論社)の著者であり、“現代マーケティングの父”といわれる世界的な経済学者です。

 

自動車販売の現場ではディーラーが顧客と関係を築き、買い替えを勧めていくのが主流で、それは10年以上変わっていないといいます。

既存のお客を囲い込むことは出来ても新規のお客の獲得にはつながりづらいのです。

このような状況について、コトラーさんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「自動車業界は本当に大きな問題をかかえている。」

「若い人は自分で車を欲しがっていない。」

「また、多くの人は移動にウーバーを使うことが出来る。」

「その中にあって販売の方法が変わっていない。」

「新しい販売方法やキャンペーン、そうしたアイデアをどう出していくのか、(企業は)オリジナリティあるアイデアをどうすれば実現出来るかを考えるべきである。」

 

一方、技術革新のスピードが速いデジタル家電の分野では消費者のニーズも常に変化しています。

かつては家電量販店の花形商品だったコンパクトデジタルカメラ、今ではスマホにその座を奪われ、売り場での存在感も薄れつつあります。

このような状況について、コトラーさんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「人々はスマホのカメラ機能で満足している。」

「キャノンはBtoBに軸足を移し、高性能品を産業用・医療用に売り始めた。」

「富士フィルムが倒産しなかったのは、専門の化学で化粧品ビジネスを始めたから。」

「企業は自分たちが市場のどこに位置するか自問自答しなければならない。」

「(その市場が)成長途中で発展が見込めるか、成熟しているか、衰退しているか。」

「衰退しているなら、新しいアイデアを生み出すべき。」

 

企業は世の中の変化を素早く捉え、その時々で大きな選択をしなければいけないといいます。

今の日本の消費回復を実現するカギは何か、“現代マーケティングの父”は次のように指摘します。

「日本はどういうニーズがあるか十分に調査し、それを客層ごとに見ていくべき。」

「本当のニーズを理解して、なぜお金を使ってもらえないかを考えるべき。」

 

コトラーさんによると、どういうものが欲しいのかを消費者に聞くのは一つ前の時代のマーケティングで、消費者がまだ気づいていないニーズを掘り起こせる、それこそが21世紀のマーケティングだといいます。

このことについて、番組コメンテーターでみずほ総研チーフエコノミストの高田 創さんは次のようにおっしゃっています。

「(コトラーさんの言うところの21世紀のマーケティングを実際に行うことは)難しいですね。」

「特に日本の場合はどちらかというと、製造業ではいいモノを作れば売れるんだっていう目線がどうしても抜けきらないと思うんですよね。」

「それに応じた、モノがある、その中においてのマーケティングっていう発想なんだろうと思うんですけども、これから考えていくとどういうニーズがあるのか、もしくはどういうモノはまだ気づいていないけども求めているのかっていうことを特記をして、そこから何が求められている、何を作るのかっていう、もしくはどういうサービスが、っていう逆の流れみたいなものが必要になっているのかもしれませんよね。」

「(企業内でのマーケティングのポジションを確立させるためにも、マーケティング部門に意思決定力を持たせるためにCMO(Corporate Marketing Officer)をつくる必要があるという動きは日本では未だそれほど進んでいない状況について、)勿論マーケティングという発想はあるんですけど、まず元があって、それを作る、そこの中でどう作るのをマーケティングしていくのかっていう発想から中々完全には抜けてないんだろうと思うんですね。」

「そうすると、やっぱりまず何を求めているのかっていうことから解きほぐしていくような完全なマーケティング・オリエンティッドなものから抜けていない、もしくは日本のようにBtoBの中で本当に専門性を製造業の中で生かしていくっていうのはいいと思うんですけども、しかしながら世界の中では自分で工場を持たなくてもこういうニーズを見つけて来て、それでもって新しいものをやっていくとか、そういう時代になっていますよね。」

「ですから、そういう新たないろんなものの動きにも柔軟に対応出来るような柔軟性をマーケティングの中に持っていく必要があるんでしょうかね。」

「(そういったところの企業の体質、マインドが変わっていけば消費は上向くかという問いに対して、)日本の場合、やっぱり所得はそれなりにありますので、中々使わない、マクロ的に言えば不安があるからだと思うんですけど、もう一つ企業の方もニーズが本当に消費者の求めるものを作っていない部分ってあるんじゃないかと思いますよね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

この番組を観ていて、以下のことを思い出しました。

現代は、マーケティング・オリエンテッド(販売戦略指向)の時代と言われています。

また、マーケティングにおいてはかなり前から、これからは「プロダクトアウト」から「マーケットイン」の時代だという声がありました。

「プロダクトアウト」とは、プロダクト(製品)を作ってから、どのように販売していくかを考えるスタイルです。

一方、「マーケットイン」とは、ユーザー・ニーズを汲みとって製品開発を行うスタイルです。

要するに、モノを作れば売れる時代ではなくなり、これからはユーザーのニーズを掘り起こし、それに基づいたモノづくりが必要だと言う考え方です。

「プロダクトアウト」は時代遅れな考え方であり、いかに「マーケットイン」の概念に基づき、顧客の満足度を高められるかどうかを重視するべきだというわけです。

こうした考え方は、まさにコトラーさんの提唱されている21世紀のマーケティングそのものです。

 

しかし、いくら「マーケットイン」を重視すべきだと言っても、モノづくりの技術がなければ優れた製品やサービスを提供することは出来ません。

そこで、アメリカのベンチャー企業はグーグルやテスラーモーターズなどを代表として以下のステップを経て、短期間のうちに成長を遂げてきました。

・的確なユーザー・ニーズの掘り起こし

・先進的な技術を有するベンチャー企業の積極的な買収、および、あるいは大企業との業務提携による革新的なアイデアによる製品やサービスの開発

・中国など低コストの後進国や途上国への生産委託

 

要するに、的確なユーザー・ニーズと革新的なアイデアをベースにアウトソーシングを利用してアイデアをかたちにしているのです。

 

これと逆な考え方も成り立つのです。

固有な技術を利用して新たなユーザー・ニーズに結びつければ、メーカーの立場でも画期的な商品を誕生させることが出来るのです。

高田さんは日本のメーカーはこうしたユーザー・ニーズの掘り起こしが一般的に苦手だと指摘されていますが、その対応策としてマーケティング部門に意思決定力を持たせるためにCMOの設置を提言されております。

確かに、ユーザーニーズに対して正面から真摯に向き合うための方策としてCMOを設置することは効果が期待出来ます。

 

要するに、どちらの流れにしても的確なユーザー・ニーズの掘り起こしがカギであり、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」は相対立するものではないと言えるのです。

 

今や日本に限らず、先進国を中心にどの国の消費回復も的確なユーザー・ニーズの掘り起こしがカギなのです。


 
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