2016年12月01日
アイデアよもやま話 No.3562 エマニュエル・トッドが混迷の世界を読み解く その4 グローバル化により大きな困難に直面している中国!

今回のアメリカ大統領選前の11月6日(日)に放送された「エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く」(NHKBS1)はとても興味深い内容でしたので5回にわたってご紹介します。

 

なお、番組は以下のように5つのチャプターから構成されていました。

チャプター1 世界で生き残るため日本的価値観から脱却せよ

チャプター2 トランプ現象は何を意味するのか?

チャプター3 世界のグローバル化は終焉する EUの動向に注目せよ

チャプター4 中国は何処へ向かうのか?

チャプター5 国内に向き合うことで未来を探れ

 

4回目は、チャプター4のテーマ「中国は何処へ向かうのか?」の内容についてです。

 

現代フランスを代表する知性の一人、人類学者・人口学者のエマニュエル・トッドさんは、

EUの崩壊を予告しなければならないほどのグローバリズムの危機、その深刻な現実に直面する国がもう一つあると指摘しています。

それは中国です。

今やGDP世界第2位の経済大国にまで急成長した中国は、アジア諸国を中心に存在感を増しています。

近隣諸国のインフラ開発を目指して中国が中心になって立ち上げたAIIB(アジアインフラ投資銀行)には50を超える国と地域が参加しています。

 

一方、軍事面では南沙諸島など近隣国への覇権主義的な動きを見せ、日本でも安全保障上のリスクとして語られることも少なくありません。

トッドさんはこの中国の行く末を次のように予言しております。

「中国は内部から崩壊する恐れがあります。」

「中国がグローバル化の中で重要な要素だというのは確かですが、自らその役回りを選んだわけではありません。」

「中国はロシアよりうまく共産主義と距離を取り、市場経済への移行を選択して他国からの投資を呼び込むことに成功したとも言われています。」

「しかし本当にそうでしょうか。」

「それは中国が自らの力で成し遂げたことではないのです。」

「アメリカ、ヨーロッパ、そして日本がそうさせたのです。」

「その理由は中国人の賃金の安さ、例えば中国人の賃金はアメリカ人の20分の1です。」

「それを使えば簡単に利益を上げることが出来ます。」

「ですが、実は今その構造が中国に悪い影響を与えているのです。」

 

安い労働力で世界の工場となった中国ですが、そのことが逆に中国の首を絞めているとトッドさんは指摘しています。

グローバル世界の中では競争原理が働くため、中国の安い賃金は世界各国の労働者の賃金を押し下げる力となります。

各国の賃金が下がれば、消費が停滞し、それまで買っていた中国製品の需要も減少します。

つまり安い労働力で作り続けることは自国のマーケットを小さくすることになっているというのです。

「中国はあまりに巨大なため、その賃金の安さは世界中の労働者の賃金上昇を停滞させてしまうのです。」

「その結果、世界各国で消費が抑えられ、物が売れません。」

「すると、その影響はブーメランのように自国に戻り、中国の労働者の仕事がなくなってしまう。」

「中国がグローバル経済の中で果たしている役割の大きさを考えると、この悪循環は深刻です。」

 

トッドさんが中国の未来を厳しく見る更なる理由があります。

グローバル化によるマネーや人の移動の自由が中国の未来にボディブローのように効いてくるというのです。

「国内の経済を見ても、中国は普通の国とは違います。」

「GDPにおける設備投資の割合が共産主義の時代と変わらず、40〜50%と極端に高い。」

「国内の消費が低く、経済は成熟していません。」

「にもかかわらず、資本を国外に出そうとしています。」

「これは異常なことです。」

 

こうした状況は過剰な外需への依存を示しています。

まだ経済大国としての実態が伴っていないというのです。

 

そしてもう一つ、人の移動が何をもたらすのか、そのことについてトッドさんは次のようにおっしゃっています。

「私の専門である人口学的な立場からは、中国に対して悲観的な未来しか見えません。」

「中国は今人口流出の問題に直面しています。」

「中国にも移民は来ていますが、それよりも多くの人が国を出ていっています。」

「ヨーロッパやアメリカが移民を引き付けるのとは真逆です。」

「入ってくる人、出ていく人のバランスを見ると、年間150万人が中国から出ていっています。」

 

年間150万人という人口流出問題に直面している中国、数の多さは勿論ですが、中国の高等教育の現状を考えると、それ以上にこの人口流出の問題は深刻だとトッドさんは次のようにおっしゃっています。

「欧米では大学進学率は40〜50%、一方中国は6%と極端に低い。」

「わずかヨーロッパの5分の1、国としては圧倒的な差があります。」

「移民として流出しているのは教育レベルの低い貧困層だと思われがちですが、それは間違っています。」

「実際の移民はきちんとした教育を受けた人たちです。」

「例えば19世紀にヨーロッパや日本で教育レベルが上がると、田舎に住んでいた人たちは都会に出ていきました。」

「今はそれと同じことが世界規模で起きているのです。」

「それこそがグローバル化です。」

「未成熟な国から教育を受けた人がいなくなってしまうことは非常に大きな問題です。」

「これは一般にあまり知られていないことですが、グローバル化によって安定した国と逆に不安定になった国があります。」

「ヨーロッパと中国は特に不安定になり、先行きの見えない状況に陥りました。」

「ヨーロッパと中国が似ているというのは不思議に思えるかもしれませんが、人口学的に見ればそれは間違いなく事実です。」

 

今グローバリゼーションによって大きな困難に直面している中国、その現実の中で中国が取っている覇権主義的な動き、その2つはどのような関係があるのでしょうか。

トッドさんは表面上の動きを見て右往左往することは避けるべきだと次のようにおっしゃっています。

「中国がこれ以上拡大を続けるとは私は思いません。」

「中国の軍事力は実はそれほど大きくない。」

「今、中国は非常に覇権主義的な姿勢を見せていますが、実際その軍事力は国内をコントロールするのが精いっぱいで、国境を超えて影響力を及ぼすことは出来ないでしょう。」

「中国の覇権主義が実際に外へ向かうリスクは少ないでしょう。」

「それよりも危険なのは、中国が内部から崩壊に向かうことです。」

「世界にとって危険なことです。」

「これだけの人口を抱えた国が崩壊するとすれば、世界に多大な影響を与えます。」

「今の中国に対していら立つこともあるかもしれません。」

「反日感情を利用して国内を安定させようとする姿勢を不愉快に思う人もいるでしょう。」

「しかし、これまで話してきたように中国は非常に不安定な国なのです。」

「そのことをきちんと理解しなければなりません。」

「そして中国の手助けをするべきです。」

「感情的になってはいけません。」

「好意的に中国と向き合う努力が必要です。」

「日本はそこにナショナリズムを持ち込んではいけないのです。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

まず、以下にその内容を私なりに箇条書きにまとめてみました。

(中国は内部から崩壊するリスクが高い)

・その理由は、中国人の賃金の安さにある

・グローバル世界の中では競争原理が働くため、中国の安い賃金は世界各国の労働者の賃金を押し下げる力となる

・各国の賃金が下がれば、消費が停滞し、中国製品の需要も減少し、自国のマーケットを小さくすることになる

・多くの人口を抱えた中国の崩壊は世界に多大な影響を与えることになる

・日本はナショナリズムを持ち込まず、中国の安定化のために中国の手助けをするべきである

 

(中国は経済大国としての実態が伴っていない)

・GDPにおける設備投資の割合が極端に高く、外需への依存度が高い

・一方、国内の消費が低い

 

(中国は年間150万人という人口流出問題に直面している)

・グローバル化は高学歴の人材の海外への流出をもたらしている

・グローバル化によりヨーロッパと同様に中国も不安定になり、先行きの見えない状況に陥っている

 

(中国の覇権主義が外へ向かうリスクは少ない)

・中国の軍事力は国内をコントロールするのが精いっぱいで、国境を超えて影響力を及ぼすことは出来ない

 

このように中国が直面している問題をまとめてみると、更にその先には以下のような状況が見えてきます。

・グローバル化の進展は今後とも国際資本を中国よりも賃金の安い途上国へとシフトさせていく

・従って、各国の賃金の上昇は期待出来ず、消費が停滞し、引き続き途上国の製品の需要も減少し、自国のマーケットを小さくすることになる

・この賃金の負のスパイラルは国際資本が世界中の途上国に行きわたるまで続くことになる

・世界中の高学歴の人材のより高収入で自分の能力を生かせる国への流出が止まらない

・世界的に格差社会が広がる

 

このように見てくると、中国が今直面している困難は中国の後に続く新興国や途上国の抱える困難、およびの先進国の更なる格差拡大を暗示していると言えるのではないでしょうか。

 

こうした時の突破口として思い起こされるのは、これまで何度かお伝えしてきた以下の2つの言葉です。

アイデアは存在し、見つけるものである

“知性”こそが永遠平和のカギ(カントの言葉)


 
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