今回のアメリカ大統領選前の11月6日(日)に放送された「エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く」(NHKBS1)はとても興味深い内容でしたので5回にわたってご紹介します。
なお、番組は以下のように5つのチャプターから構成されていました。
チャプター1 世界で生き残るため日本的価値観から脱却せよ
チャプター2 トランプ現象は何を意味するのか?
チャプター3 世界のグローバル化は終焉する EUの動向に注目せよ
チャプター4 中国は何処へ向かうのか?
チャプター5 国内に向き合うことで未来を探れ
3回目は、チャプター3のテーマ「世界のグローバル化は終焉する EUの動向に注目せよ」の内容についてです。
現代フランスを代表する知性の一人、人類学者・人口学者のエマニュエル・トッドさんの名を世に知らしめた予言、それは今年6月に国民投票で決まったイギリスのEU離脱でした。
トッドさんは2年前に著書でそのことを明言していました。
そんなトッドさんが更にヨーロッパの未来について、「とても悲劇的なことですが、このままではEUは崩壊の道をたどるでしょう」と予言をしています。
当初、行き過ぎたグローバル化からヨーロッパの国々を守る役割を期待されたEU、しかしその実態は全く違うものになってしまっているとトッドさんはおっしゃっています。
「EUは当初の目的とは反対に、グローバル化からヨーロッパを守るどころか世界で最も自由貿易を推し進めているのです。」
「ヨーロッパの国々にはそれぞれ様々な特徴があります。」
「ドイツはその中でも最も高い生産能力を誇る国です。」
「そしてEUが成立したことで最も強力な国となりました。」
「今やドイツがEUをコントロールしていると言ってもいいでしょう。」
「EUの理念は全ての国が平等であるということでした。」
「しかし実際にはその逆で国と国の格差が広がっていった。」
「アメリカの一人勝ちに対抗するために作ったEUがドイツの一人勝ちを招いたという皮肉です。」
「EUは今やブラックホールのような存在で、多くの国に極めて悪い影響を与えているのです。」
アメリカ型グローバリズムからヨーロッパの国々を守る防波堤だったはずのEUがドイツの影響下に置かれてしまっているという現実、そのことが平等という理念とは裏腹にヨーロッパ各国に大きな格差を生んでいたのです。
そしてEU離脱を選択したイギリスは最もそのしわ寄せを受けているとトッドさんは次のように指摘しています。
「EUがイギリスに与えた悪影響は大きなものです。」
「ロンドンはグローバル化の拠点となり、経済は金融に特化し、北部の都市との間に大きな格差が生まれました。」
「イギリスの社会は分断されてしまったのです。」
グローバル化が一気に進展した20年間でどう格差が拡大したのか、トッドさんは所得が多い上位1%の人の全体の所得に占める割合の変化を見ると明確だと言います。
(トップ1%の所得集中度の変化)
1980 2000
アメリカ 8.2 16.9 +8.7 (%)
イギリス 5.9 12.7 +6.8
日本 7.2 8.2 +1.0
ドイツ 10.8 11.1 +0.3
日本やドイツが20年間でほとんど変化がないのに対して、アメリカでは8.7%、イギリスでは6.8%の拡大、グローバル化のトップを走った国ほど格差は拡大していることが分かります。
トッドさんは、こうした状況について次のようにおっしゃっています。
「イギリス以外にも多くの国がEUを出たいと思っています。」
「例えばイタリアはドイツに対していらだっている、ギリシャもそうです。」
「今やEUはまるで監獄のようです。」
「そしてドイツが看守のような役割。」
「とても悲劇的なことですが、このままではEUは崩壊するでしょう。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
そもそも無条件にグローバル化を推し進めれば、弱肉強食の世界で技術力が高く、生産性の高い国の製品やサービスが世界中を席巻してしまいます。
同様に、今回ご紹介したデータからも裏付けられるように無条件のグローバル化の推進は国内の格差を拡大してしまうのです。
こうしたことから、トッドさんは今のままの枠組みの中でのグローバル化は経済強国の一人勝ち、および世界各国における国内の格差拡大を招く、従ってEUも崩壊すると予言されているわけです。
そこで思い起こされるのはスポーツの世界です。
柔道やボクシングでは、重量によりいくつかの階級に分けて重量によるハンディを考慮しています。
経済の世界においても、国ごとの経済力を考慮して何らかのハンディを付けたかたちでのグローバル化が図られるべきだと思うのです。
同様に、考慮すべきは国内における格差拡大の歯止め策です。
ということで、今こそ経済学者や政治学者など世界中の英知を結集して“どの国も、そしてどの国の国民も納得出来るグローバル化”のあるべき姿を描くことが求められていると思うのです。