2016年11月20日
No.3552 ちょっと一休み その569 『“トランプ大統領”誕生のキーはツイッターだった!?』

前回、アイデアよもやま話 No.3551 クチコミが地価上昇の原動力に!で最近脚光を浴びているクチコミの世界規模での宣伝効果の威力についてお伝えしました。

また、No.3546 ちょっと一休み その568 『アメリカ大統領選の結果から見えてくること』でアメリカ大統領選の結果の背景やトランプ政権の抱えるリスクについてお伝えしました。

今回は、11月12日(土)放送の「“トランプ大統領”の衝撃」をテーマとする「NHKスペシャル」(NHK総合テレビ)を通して、“トランプ大統領”誕生を導いた大きな柱の一つとして、選挙戦術におけるクチコミの威力についてご紹介します。

 

「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」、アメリカにとって大事なのは、他の国のことではなくて、第一にアメリカ自身の利益なのだというのがトランプ次期大統領の主張です。

これまで負担を背負い、時に犠牲を払ってでも世界のリーダーであり続けることに大きな価値を置いてきたアメリカ、そのアメリカはトランプさんを大統領に選んだことによって進路を内向きの方向へと大きく転換しようとしています。

アメリカという世界の重しが失われるのではないかという予感に国際社会はトランプさんが打つ次の一手を息を飲んで見守っています。

そして、アメリカ国民自身が分断され、今回の選挙結果を受け入れきれずにいます。

 

トランプさんを時期大統領へと押し上げた原動力、つまり現状に不満を強める怒りのマグマの大きさを既存の大手メディアの多くがその予測を見誤りました。

開票の当日、ABCテレビの選挙速報番組では、開票から1時間経ってもクリントンさんの勝つ可能性は71%と圧倒的に有利だと伝え続けていました。

ところが、開票から5時間後、正反対の予測に差し替えるという異例の事態となりました。

この番組でコメンテーターを務めたクッキー・ロバーツ記者は、エミー賞などを受賞してきたベテラン ジャーナリストです。

50年におよぶ記者生活でも経験したことのない事態だったといいます。

ロバーツ記者は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「まさか有権者がトランプ氏という賭けを選ぶほどチェンジを求めていたとは思っていませんでした。」

「もっと有権者の声に耳を傾けるべきでした。」

 

なぜチェンジを求める声をつかめなかったのか、その理由の一つはトランプさんが既存のメディアだけではなく直接支持者に訴えたことだったといいます。

その手段がツイッターでした。

トランプさんは過激な発言を繰り返し支持者に訴えました。

それを受け取った支持者が差別的な発言などを次々と掲載、人々の不満や怒りがインターネット上で煽られ、支持が集まっていったのです。

既存のメディアはそれを取り上げ、更に拡散させました。

しかし、過激な発言は限られた人のものでそれほど多くには浸透していないと見ていたといいます。

こうした状況について、ロバーツ記者は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「なぜあれほど人々がツイッター上で汚い言葉を使って憎しみを吐き出すのか、私たちには理解出来ていませんでした。」

「しかし、トランプ氏はネットを通じてそれを引き出すやり方を知っていました。」

「これほどツイッターが影響した選挙は初めてでした。」

 

ツイッターを通じて直接有権者に発信し続けたトランプさんは、既存のメディアは既得権益側であり、信用出来ないと繰り返し次のように攻撃しました。

「とても不誠実で、腐敗したメディアが有権者を毒している。」

 

トランプさんの言葉に反応した支持者たちはメディアを敵視するようになります。

既存のメディアと有権者の溝が深まる中、世論調査に本音を明かさなかった有権者も少なくなかったと見られています。

こうした状況について、ロバーツ記者は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「トランプ氏に投票することを隠した有権者がいたため、世論調査が間違ってしまったのではないかと見ています。」

「「隠れトランプ支持者」の票が多くあった、それが現実だったのです。」

 

チェンジを求める「隠れトランプ支持者」の広がりを把握出来なかった既存のメディアは、選挙で初めて気づいた世論の大きさに動揺を隠せないでいます。

ワシントン・ポスト紙のジョナサン・ケープハートさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「言葉になりません。」

「オバマ大統領が選ばれた時はこの国にとって輝かしい瞬間でした。」

「でも、あと2ヵ月でその全てが消えてなくなってしまう。」

「1人のアメリカ人として怯えています。」

 

以上、クチコミサイト、ツイッターに焦点を当てて番組の内容をご紹介してきました。

確かに、トランプ次期大統領誕生の背景はアメリカの格差社会の拡大にあると思います。

しかし、トランプさんが既存のメディアを信用せず、ツイッターを通じて過激な言葉で格差に苦しめられている多くの有権者に直接語りかけ、変化を求める有権者の心を揺り動かし、投票所へと向かわせたことは無視出来ません。

 

この1点だけを取り上げると、織田信長・徳川家康連合軍と武田勝頼との長篠の戦いが思い浮かんできます。

織田信長がこの戦いで勝利した勝因の1つは大量の鉄砲の投入と言われています。

トランプさんは、織田信長と同様にクチコミサイトのツイッターのメリットを最大限に生かして、クリントンさんの圧倒的な資金力の多さに比べてとても資金のかからない効率的な選挙活動を繰り広げたのです。

これだけ知恵の働くトランプさんなのですから、「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」と言わずに世界各国の共存共栄を目指してアメリカ大統領としての職務を全うしていただきたいと思います。

 

今になって思えば、投票日直前での2人の候補者の予想得票数にはほとんど差がなかったこと、そして大手メディアは「隠れトランプ支持者」を把握していなかったことを考えると、トランプさんの勝利の可能性は大手メディアの予想に反してとても大きかったと言えます。

アメリカの大手メディアは今このことに大変ショックを受けているようです。

 

ということで、今回の大統領選挙は新しいステージの選挙運動の幕開けと言えます・

今回のトランプさん勝利の選挙戦術は、今後の世界の選挙運動に大いに参考にされると思います。

一方、既存のメディアはしばらくの間、選挙の開票結果の予想の精度を上げるために試行錯誤が続くと思われます。

 

さて、広告業界は既存の新聞や雑誌、あるいはテレビ、ラジオなどを媒体とする広告宣伝をしていた時代から、既にインターネットの世界に乗り出しています。

同様に、既存の大手メディアも予想の精度を高めていくために選挙の開票予想についてはインターネット上のクチコミサイトなど新しい媒体も活用するように変化していくと思われます。

そうなると、AI(人工知能)やビッグデータ、更にはIoT(Interenet Of Things)などのテクノロジーがより効率的な選挙運動やより精度の高い開票結果予想に活用されるようになると見込まれます。

こうした時代の到来は究極の選挙全体のイメージを作り上げていくと思われます。


 
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