先々週、先週と各4回にわたってご紹介したマインドフルネス、および瞑想パワーでもお伝えしたように、私たちは日々の暮らしの中で知らず知らずのうちにいろいろなストレスを抱えながら過ごしています。
そうした中、9月21日(水)放送(5月11日放送の再放送)の「ハートネットTV」(NHKEテレ東京)で「心悩むあなたへ
古(いにしえ)の東洋医学からのヒント」をテーマに取り上げていたので5回にわたってご紹介します。
2回目は、ストレスとの向き合い方についてです。
都内に住む作家で古典医学研究家でもある槙
佐知子さん(83歳)は、1000年ほど前の982年に編纂された、現存する日本最古の医学書、「医心方(いしんぼう)」をはじめ、数々の医学書を読み解いてきました。
ストレスとの向き合い方についてですが、「医心方」の「第十三巻
虚労編」には具体的な心の病が紹介されています。
過眠症と不眠症の治療について記述されています。
当時は疑心暗鬼の世の中なので、誰に呪いをかけられるか分からない、自分が蹴落とされるかもという不安がある、あるいは一服毒を盛られるかもしれないと槙さんは考えています。
平安時代末期の絵巻物「病草紙」(12世紀後半)には「医心方」に記された心の病が描かれています。
夜、更けゆく時を指折り数える女、不眠症です。
そして、小さな法師たちに襲われる幻覚にうなされる男、今の統合失調症のような精神疾患ではないかといいます。
指が震えて碁が打てない男、目の焦点が定まらず中枢神経が侵されています。
「医心方」は心が身体に与える影響をどのように説いているのでしょうか。
槙さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「人の身体は一国を象徴しているっていうんですね。」
「で、精神活動をする者が君主で、そして五臓六腑が臣下、諸侯や家臣です。」
「それから、手足が民なんです。」
「だから、君主(精神)が世を治めていれば諸侯(五臓六腑)も民(手足)も平和に暮らせると。」
「だけど、君主(精神)が誤った考えを持っていたり、行いをする人だと諸侯(五臓六腑)が背くし、民(手足)はバラバラになって、身体を思い通りに治めることが出来ない。」
「だから、治療の根本は精神衛生にあると。」
さて、「医心方」の「第二七巻
養生編」には運動によるストレス解消法も紹介されています。
中でも特に詳細に書かれているのが呼吸法です。
槙さんは、その一つについて以下のように手順を説明されております。
・仰向けに寝る
・足を20cmくらい開く
・手のひらを親指を中にしてグーにする
・肩の力をしっかり抜く
・鼻から深く吸っておへその下に空気を送りそのまま止める
・心の中で数を数えた後、口からゆっくり吐き出す
初めは20くらい、だんだん70くらい止めていられるまでになる
千まで息を止めれば仙人になれるという
ヨガに通じる腹式呼吸なのです。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
平安時代の人たちも今と同じように様々なストレスを抱えて不眠症や統合失調症などの精神疾患に悩まされていたという事実には、いつの時代も人間の悩みは変わらないものだとあらためて思わされます。
考えてみれば、技術の発達による生活レベルの向上を別にすれば、人類の誕生以来、私たち人類は家族、友人、知人、仕事仲間、あるいは大好きな人など多くの人たちとのコミュニケーションの中で暮らしてきました。
そうした中で、いろいろなトラブルに遭遇してストレスを抱えることがあっても不思議ではありません。
ストレスは人類誕生以来の共通の悩みと言えます。
ですから、前回ご紹介したような運動によるストレス解消法が「医心方」に記されていたのだと思います。
また、人の身体を一国に例えて、治療の根本は精神衛生にあるという記述はとても分かり易く、“病は気から”という言葉があるように今でも通用する考え方だと思います。
今回ご紹介した呼吸法も今からおよそ4000年前、古代インダス文明で生まれた人類最古の健康法、すなわち瞑想が源流だと思います。
ヨガ、あるいは仏教における座禅、マインドフルネス、そして今回ご紹介した呼吸法はそれぞれ具体的な作法は異なりますが、そのポイントは全て呼吸にあります。
ですから、これらの方法は心の健康という同じ山の頂上を目指す異なるルートと言えなくもありません。
また、呼吸を使った健康法であれば、アイデアよもやま話 No.3526 脳が若返る瞑想パワー その4 食べる瞑想!でもお伝えしたように電車の中などいつでもどこでも気軽に行うことが出来ます。
ですから、私たちはもっともっとこうした呼吸法を日々の暮らしに取り入れて健康維持をしたらいいと思うのです。
また、関心が高まっている国民健康保険制度の破たんリスクも多くの人たちがこうした呼吸法を実践することにより避けられる可能性を秘めているのです。