8月21日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ東京)で新・瞑想法“マインドフルネス”をテーマに取り上げていたので4回にわたってご紹介します。
2回目は、脳科学によるマインドフルネスの解明についてです。
カーネギーメロン大学のデイビッド・クレスウェル准教授は、マインドフルネスでどのように脳が変わるのかを調べています。
集めたのは、マインドフルネスに未経験の35人の被験者です。
その半分にはガイドとなる音声を聴かせながら、まず5分間のマインドフルネスをさせます。
更に、マインドフルネスを意識しながらゆっくり動く体操や散歩などをして3日間を泊まり込みで過ごします。
もう半分の被験者は3日間をリラックスした状態で過ごします。
ただの体操や散歩などをするのです。
3日間の合宿から2週間後、一見同じことをしている2つのグループの脳に大きな違いが表れていました。
それは前頭葉の一部にあるDLPFCという部分です。
思考や認知など知的活動のまとめ役をする重要な部分で、大脳全体の司令塔と呼ばれています。
ただのリラックス法をしたグループは実験後DLPFCの活動が落ちていました。
しかし、マインドフルネスをしたグループではその活動が大きく上がっていたのです。
リラックスしたグループの脳内で見られたのは、脳の一部が同期して活動する現象です。
これは何も活動していない時に表れ、車のアイドリング状態に例えられます。
この状態をデフォルトモードネットワークといいます。
この時、脳の中では様々な雑念が浮かび、それがストレスを生み出します。
一方、マインドフルネスをしたグループは、このデフォルトモードネットワークと一緒にDLPFCが活動するようになっていました。
DLPFCが働くことでデフォルトモードネットワークがうまくコントロールされるようになると考えられています。
その結果、ストレスを感じにくい脳になると、クレスウェルさんは考えています。
クレスウェルさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「脳の変化を見た時にはとても興奮しましたね。」
「マインドフルネスのトレーニングをたった3日間行っただけで脳の働きを変えることが出来、被験者たちはストレスに効果的に対処出来るようになったのですから。」
デフォルトモードネットワークについて、マインドフルネスの専門家で、早稲田大学人間科学学術院教授の熊野
宏昭さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。
「デフォルトモードネットワークそのもの自体は悪くはないんです。」
「車のエンジンのアイドリングがなければ、アクセルを踏んだ時に進みませんよね。」
「だから、脳も何もしていない時にもある程度働いていて、必要になった時にすぐに働けるようになっているわけですね。」
「でも、アイドリングもぼこぼこぼこぼこ言い過ぎるとエンジンが調子悪いなって感じになりますね。」
「で、そういうふうに(デフォルトモードネットワークが)働き過ぎる状態が良くないんですね。」
「それをDLPFCが一緒に働くようになることによってちょうどよいレベルに抑えることが出来ているんじゃないかなということだと思います。」
「デフォルトモードネットワークの時は、頭の中でどういうことが起こっているのかですが、頭の中にいろんな雑念が浮かんでおり、雑念に飲み込まれているような状態になっているわけですね。」
「これが大きくなり過ぎると、例えば昔のことを思い出すと、どんどん落ち込んでいくみたいなことがありますし、将来のことがどんどん浮かんでくると不安で不安で仕方なくなるというような、そういうことが起こるところが問題とされているわけなんですね。」
「どんどん考え続けちゃうとストレスが溜まっていちゃう。」
「だから自分でストレスを作り出してしまうようなことが起こるわけですね。」
「それで、我々はだいたい日常生活の半分ぐらいが目の前のこと以外のことを考えて雑念に取り込まれているような状態になっているということも報告されているんですね。」
「それで楽しいことであってもぐるぐる考えているとあまり幸福感がないっていうことも知られています。」
「つまり、マインドフルネスっていうのは、そういう状態から外に出やすくする練習なわけです。」
「雑念から外に出るっていうことはどういうことかというと、今自分はいろいろ考えているなと気付くことなわけですよね。」
「いろんなものに気を配って、自分の心の中、身体の中で起きていること、あるいは自分の身の周りで起きていることも含めていろいろ気を配って見てみると、今こんなことを考えていて頭がいっぱいだったけど、よく考えてみれば大したことないなというような、外から見るとそんなふうに見れるわけです。」
「マインドフルネスっていうと、集中するとかリラックスするとかそういうふうに紹介されることが多いんですけども、それよりも“気付く”ということの方が大事なわけですね。」
「つまり、自分の心の中にどんな雑念が浮かんでいるんだろうっていう、一つに囚われるんではなくていろんなこと考えているなあ、いろんなことに気付いていく、あとは自分の体の状態にも気付く、あるいは自分を囲んでいる空間にも気付く、そういった訓練をしていくことがマインドフルネスの本質なんですね。」
では、実際のマインドフルネスの手順について以下に簡単にご紹介します。
Step1:呼吸に注意を向ける
Step2:雑念に気付き、呼吸に注意を戻す
Step3:いろんなものを同時に感じ取る
最後は、瞼の裏に注意を向けてゆっくりと目を開けます。
熊野さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。
「マインドフルネスというのは眠る状態じゃないんですね。」
「これは“気付き”っていうふうに言いますけど、もう一つ別名で言うと“目覚め”なんです。」
「目を覚ます方法なんですね。」
「雑念に取り込まれてぐるぐる考えているのは起きてるのか寝てるのか分からないような状態じゃないですか、夢うつつみたいな状態。」
「それに対して、雑念から外に出てみんな平らかに眺めている状態っていうのは目が覚めているわけですね。」
「だから、眠くならないわけです。」
「(一日にどれくらいやればいいかという問いに対して、)慣れてきたら1日30分くらいやるとかなり効果が大きくなるんですけども、最初はそんなに時間にこだわる必要はなくて10分くらい出来ればすごくいいですよね。」
「でも5分くらいでもいいし、あるいは自然が豊かな公園の中なんかは歩くとマインドフルネスと同じような効果が出るというデータもあるんですね、実際。」
『歩いて行くといろんな刺激が入ってきますよね。」
「それを五感で感じ取っていくというのがマインドフルネスでやっていることと共通しているんですね。」
「だから、公園を歩いていても考え事してちゃ駄目なんですよ、囚われている状態ですので。」
「周りをちゃんと見渡しながら歩いて行くと、そのこと自体がマインドフルネスになるので、時間とかそんなに重要なファクターではないんですね。」
「(毎日やった方がいいのかという問いに対して、)そうですね、毎日短い時間でも今に戻ってくるって意識してあげた方が、どこかでリセットして短時間でも、それが出来るとすごく効果が大きいということですよね。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
マインドフルネスの本質は、自分の心の中のいろいろな雑念や自分の周りで起きていることの“気付き”であるということはとても救われます。
というのは、“無の境地”になりなさいなどと言われると、そう言われても次々にいろいろと雑念が浮かんできてとても難しく感じてしまうからです。
“無の境地”になるよりは、自分の心の中の雑念や自分の周りで起きていることの“気付き”も方が簡単に思われます。
また、マインドフルネスにより、DLPFCが働くことでデフォルトモードネットワークがうまくコントロールされるようになり、その結果、ストレスを感じにくい脳になるというのはとても驚きです。
特別な診療を受けなくても、毎日ちょっとした時間を使ったマインドフルネスでストレスを感じにくい脳になるのなら、誰でもその気になって毎日マインドフルネスを継続すれば安定した精神状態を手に入れることが出来るのですから。