先週、5回にわたって拡大する“一人企業”、およびその支援制度の必要性についてご紹介しました。
そうした中、3月22日(火)放送の「ガイアの夜明け」でソーシャルビジネスについて取り上げていたのでご紹介します。
京都に行列の出来る小さなチョコレート店「ダリケー」があります。
美味しさの秘密は原料のカカオ豆にあります。
そのお店のオーナー、吉野 慶一さん(35歳)は、日本では珍しく店内で焙煎するところから手掛けています。
また、吉野さんは原料のカカオ豆に強いこだわりがあります。
インドネシア産の豆は、ちょっと強めに焙煎してもそれに負けないくらいフルーティーな余韻が残るからです。
カカオといえばガーナ産が有名ですが、このお店では馴染のないインドネシア産のカカオ豆を使っています。
吉野さんは、かつて外資系の大手金融会社に勤めていましたが、人と向き合う仕事がしたいと2010年に退職しました。
その後、インドネシアのカカオ豆が買いたたかれていると知り、農家の生活を向上させたいと考えました。
そのために立ち上げたのがチョコレート店なのです。
吉野さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「農家と収穫後の香りを高めるために何をすればいいのかという指導をしながら、一種に作っているという感じです。」
こうしたビジネスを通じて社会問題を解決しようとする取り組みはソーシャルビジネスと呼ばれています。
ちなみに、ソーシャルビジネスについてはアイデアよもやま話 No.2225 ソーシャルビジネスも儲からなければ・・・でもお伝えしたことがあります。
転職を考えている20代から30代の人への「やりがいのある仕事なら年収減で構わないか」というアンケートについて、半数近くの46%の人が「はい」という結果でした。(転職サイトリサーチ
調べ)
こうした状況下で、ソーシャルビジネスを始めたいが資金もノウハウもない、そうした人たちにチャンスをもたらす取り組みが今動き出しています。
福岡市の天神地下街にひと際賑わっているお店があります。
ビジネスレザーファクトリー、月に約1300万円売り上げる革製品の専門店です。
本や手帳のカバーなどビジネスシーンで使える品揃え、値段も手ごろです。
実は、このお店に並んでいる革製品は全てバングラデシュ製です。
貧困層の収入を上げるために、現地で日本の加工技術を教えて製造しています。
仕掛けたのは、株式会社ボーダーレス・ジャパンの社長、田口 一成さん(35歳)です。
現在、福岡を中心に3店舗を展開しています。
田口さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「バングラデシュにある資源を使って、高い付加価値の商品が輸出産業として成り立たないかな、こういうかたちでバングラデシュに貢献出来ないかと思ったのがまず最初ですね。」
田口さんは、かつて大手商社に勤めていましたが、25歳で退職し、ソーシャルビジネスを展開するために2007年、ボーダーレス・ジャパンを設立しました。
バングラデシュの革製品をはじめ、ミャンマーの農家を救うハーブ事業など6ヵ国で9つの事業を展開しています。
2月21日、ボーダーレス・ジャパンの東京オフィス、集まってきたのは300人の応募を勝ち抜いて4月に入社する社員たちです。
この日は、経営陣を前に手掛けたいビジネスプランを発表します。
ここでは、アイデアの重要性、そして情熱だけではビジネスとして成立しないことを徹底的に教えるのです。
ボーダーレス・ジャパンでは、ビジネスプランを考えた社員がリーダーとなって事業を起こすことが出来ます。
会社はリーダーに3000万円出資するなどバックアップし、若い人たちがソーシャルビジネスを始める環境を整えているのです。
福岡市にあるショッピングモール、マリノアシティ福岡に2年前、田口さんから出資を受けてスタートした事業があります。
コルヴァ、兄弟や親子がお揃いで着ることの出来る服を扱っています。
事業リーダーは入社5年目の中村 将人さん(29歳)です。
ブランドの立ち上げからこれまでの2年間は中国のメーカーに生産を委託してきました。
しかし、それを今バングラデシュに移そうと仲村さんは考えています。
中村さんの本来の目的はバングラデシュに雇用を生むことで、その準備のため2年間は中国で生産していましたが、いよいよバングラデシュに自社工場を作ろうというのです。
中村さんの決断に、田口さんは次のようにアドバイスしています。
「工場運営、工場経営はやってみないと分からないし、自社工場を持つメリットもあればディメリットも当然あるだろうし、これも勉強だと思うんですよね。」
「こういう「学び」をとにかく早くやって欲しいですね、経営者として育つためには。」
2月下旬、バングラデシュの首都ダッカ、国民の3分の1が貧困層で1日140円以下の生活を強いられています。
中村さんがコルヴァを立ち上げたのは、この国のある問題を知ったのがきっかけでした。
それは働く子どもたち、全国で5歳から17歳の子ども約169万人が働いているのです。(バングラデシュ統計局
調べ)
こうした子どもたちの親を雇うことで児童労働を無くしたいと中村さんは考えてコルヴァを立ち上げたのです。
中村さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「不公平さというか、選択肢がない、選ぶことの出来ない状況を変えたいな、そのやるせなさを変えたいなと思います。」
こうして、家賃7万円の小さな工場からスタートです。
量産に向け、ミシンが使える人を急いで集めなければなりません。
ところが、安心してミシンを任せられるのは男性一人だけです。
また、チラシを見て応募してきた女性たちをテストしてみると、求めているレベルの技術を持っている女性が見つかりません。
こうした中、ある日、中村さんはボーダーレス・ジャパンの革工場を訪れました。
こちらでは100種類の商品を製造して日本に出荷し、350人の貧困層の雇用を生んでいます。
この工場では、初心者の人たちも働いています。
比較的簡単な糊付けやファスナーの取っ手づくりなどは初心者が受け持っています。
レベルに合わせた仕事を用意することでこれだけの人数を雇えていたのです。
中村さんはこのやり方にヒントを得ました。
簡単に縫えるエプロンを新たに商品化してミシンの初心者でも雇おうと考えたのです。
工場にまた応募者がやって来ました。
こうして、母親が病気で2ヵ月前に仕事を辞めたため、食事も出来ないほど困っていた22歳の女性も雇ってもらえることになりました。
そして、慣れるとエプロンを1時間で作れるようになりました。
このやり方なら雇用を広げていけそうです。
中村さんは、この簡単なエプロンで腕を慣らして次の商品に進んで欲しいと考えています。
また、こちらの工場には60人近くが入れるのでそこまで雇用を広げたいと考えています。
3月12日、九州・福岡市、中村さんのお店では春商戦が始まっていました。
中村さんのバングラデシュの工場で作られたお揃いの子ども服や初心者でも作れるエプロンがお店の一番目立つ所に用意されていました。
お揃いの服が次々と売れていきました。
また、エプロンの反応は上々、急きょ量産することになりました。
新たな一歩を踏み出した中村さんのソーシャルビジネス、田口さんも期待を寄せています。
番組の最後に、田口さんは次のようにおっしゃっています。
「社会の課題を解決することを本業で事業としてやっている会社は凄く少ないんですね。」
「一人でも多くの社会起業家をどうやって育てられるか、どうやってその人たちが活躍する場を提供出来るかが僕らの使命だと思っていますね。」
これまで就職の大きな目的だった人生の安定、それに囚われず働いて人の役に立ちたいという想いが若い世代に広がっていますが、一方でそれがビジネスとして安定していないと続かないというのも事実です。
彼らの働き方が理想で終わらないようにするためにも新しい仕組み作りが今後も必要になってくるかもしれません。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
これまで何度かお伝えしてきたように、途上国にはまだまだ多くの貧困層の人たちが毎日大変な思いで暮らしているといいます。
ちなみに、世界的に貧困層の割合は徐々に減ってきているとはいうものの、まだ10%近くあり、多くの子どもたちが教育を受けられないといいます。
そうした中、ソーシャルビジネスは現地での雇用創出を通してこうした問題解決にとても貢献出来ると思います。
また、転職を考えている20代から30代の人の人たちの半数近くが収入よりもやりがいを重視している状況は、成熟した健全な社会のように思います。
ところが、実際に若い人たちがソーシャルビジネスを立ち上げようとした場合、具体的にどのようにビジネスを進めていけばいいのか、とても悩むと思います。
そうした時に、資金の支援までしてくれる田口さんの立ち上げたボーダーレス・ジャパンのような事業はとても貴重な存在です。
事業展開の地域が国内外を問わず、こうしたソーシャルビジネスに国も積極的な支援策を展開すべきだと思います。
なぜならば、途上国でのソーシャルビジネスの展開は単なる人道支援だけでなく、途上国の人々の生活向上を通して国の安定化が図られ、日本に対する好感度が増すことにより外交的に有利に働き、更には世界平和にもつながるからです。
とはいうものの、実際に途上国でのソーシャルビジネスを展開することは大変な困難を伴います。
最後に、番組を通して感じた、そうした時の考慮点として以下の2つをあげたいと思います。
・ビジネスとして継続出来るようなビジネスモデルの構築
・個々の途上国や雇用を望む人たちの状況に合わせた働き方の提供