先週、5回にわたって拡大する“一人企業”、およびその支援制度の必要性についてご紹介しました。
そうした中、8月8日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で増えるフリーランスについて取り上げていたのでご紹介します。
今、個人で仕事を請け負うフリーランスとして働く人たちが増え、働き方が多様化してきています。
その数は会社員の副業なども含めると推計1064万人といいます。(ランサーズ「フリーランス実態調査2016年版」より)
インターネットの普及を背景にしてこれだけ増えているということですが、この新しい働き方に企業や自治体も注目し、フリーランスの争奪戦ともいえる状況になってきています。
東京都渋谷区にこうしたフリーランスに仕事を紹介する先駆けとなった会社があります。
2008年に設立された仲介会社、ランサーズです。
ランサーズには現在100万人近いフリーランスが登録されており、企業などから寄せられる10数万件の依頼リストの中から自分に合う仕事に応募する仕組みです。
一方、登録するフリーランスのリストを見ると、その横には★のマーク、仕事の受注実績とその評価を示しています。
その中に全ての依頼主から満点の評価を得ているプログラマーがいました。
その人物、鈴木
光行さん(40歳)は、大阪の自宅で東京の企業などからの仕事を請け負っています。
鈴木さんは、かつて大手ゲーム会社のハドソンで働いていた時にゲーム制作を手掛けていました。
鈴木さんは、19歳でハドソンに入社し、約10年にわたりプログラマーとしてゲームを開発してきました。
その後、28歳で中小ゲーム会社に転職すると管理職に、33歳になると自ら会社を興し、社長になりましたが、マネジメントの仕事に夢中になることはありませんでした。
17年のキャリアを経て自分の天職を悟ったという鈴木さん、もう一度プログラマーとして働くために選んだ道がフリーランスだったのです。
フリーランスとなって4年目、仕事は多く、会社員時代と同等の年収を半年で稼げるようになりました。
すると鈴木さんは請け負う仕事を減らして、好きなゲームの開発を始めたのです。
1月から6、7月までの上半期は請負業務で稼ぎ、下半期は自分のやりたいことをする二毛作のスタイルです。
そして自主開発したゲームを無償でリリースしたのです。
それはゲーム感覚で暗算の力を鍛えることが出来るアプリでした。
今の自由な働き方に満足している鈴木さんはランサーズから約14万円のボーナスをもらいました。
ランサーズでは、登録されている約100万人のフリーランスの中で業績を伸ばした3000人にだけ初めてボーナスを支給したのです。
ボーナスを支給したランサーズの狙いについて、秋好 陽介社長は番組の中で次のようにおっしゃっています。
「競争は激しくなっています。」
「優秀なフリーランスの方を増やしたい意図もございます。」
競合する仲介会社が200社以上に増え、人材の争奪戦が激しさを増しているのです。
フリーランスの働き方に注目しているのは企業だけではありません。
秋好社長に対して熱心に協力を要請しているのは鹿児島県の奄美市役所の職員、稲田 一史さん(38歳)です。
成田空港から直行便でおよそ2時間、奄美大島は年間60万人の観光客が訪れる日本有数のリゾート地です。
その島の中央部にある奄美市役所で働く稲田さんがフリーランスに注目する背景には人口減少への危機感がありました。
稲田さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「高校を卒業すると進学や就職で島を出ていく方も多い。」
「「島に仕事があれば島に住みたい」という声はたくさんありますので・・・」
奄美市の人口は、この10年で1割以上(約5300人)減りました。
働き口がなく、島を離れて行く若者が多いのです。
そこで、奄美市は昨年フリーランスの移住促進計画を策定、市内に移住する人にリフォーム費用などとして最大100万円を助成する制度を作りました。
更に、今年度から3年間総額6億円を投じ、フリーランスの生命線である高速インタ−ネット網を整備する計画です。
こうした努力で2020年までにはフリーランス50人の移住を目指すといいます。
4年前に千葉県から移住してきた井田 陽平さん(41歳)は島暮らしにあこがれていたといいます。
井田さんは今年4月からフリーライターとして活動し、島の名所を紹介する記事を書いています。
一つの記事を執筆すると4000円の報酬が得られます。
井田さんに記事の執筆を依頼しているのは、奄美大島の情報サイトを運営する「しーま」です。
代表の深田 小次郎さんはフリーランスの移住が進めば、島の情報発信も充実していくと期待しています。
深田さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「文章を書ける人だったり、写真がうまく撮れる人だったり、いろいろな特技を持ってる方がいるので、仕事を島の中で回すことも出来るかのかなと。」
実は、井田さんの本職は塾の講師で、今は18人の子どもに教えています。
井田さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「子どもの数自体は減っていますし、塾の仕事がどれだけ続けられるか不安はあります。」
島で生活していくために井田さんもフリーランスの働き方に興味を持ったのです。
今後、島で働くフリーランスは増えるのか、奄美島に協力するランサーズの秋好社長は楽観的で次のようにおっしゃっています。
「インターネットさえあれば、ランサーズの中の仕事が出来る。」
「新しい離島での生活スタイルが広がるのではないかと思ってワクワクしましたね。」
番組コメンテーターで、日経ビジネス編集長の飯田 展久さんは、次のようにコメントされています。
「今朝(8月8日付け)の日経新聞の朝刊に、企業が首都圏に流入しているのが非常に増えているという記事がありましたよね。」
「企業が働き手を求めて地方から首都圏に流入すると。」
「ですから、地方創生の決め手として、企業を誘致するとか工場を作ってもらおうという発想はもう駄目なんですよね。」
「ならば働き手としてのフリーランスの人を呼び込もうという発想の転換が必要なんだと思います。」
「ただし、自治体は人に来てもらう以上、人に住みやすい環境とかフリーランスが働き易いインターネットの整備をするとかですね。」
「一方で、仕事を提供する企業もそういう人にちゃんとした仕事が提供出来るような仕組みを作ると。」
「で、仲介する会社は働く人がちゃんと信用が付けられると。」
「そして、何より大事なのは働き手のプロフェショナルとしての自覚だと思うんですね。」
「時間の合間にやるんではなくて、それできちんと生活するんだという覚悟が必要だと思います。」
「(フリーランスへのサポートについて、)普通の会社員と同じように社会保険が出来るとかそういうことなんでしょうね。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
会社員の副業なども含めるとフリーランスが推計1064万人というのはちょっと驚きです。
総務省|平成26年版
情報通信白書|によれば、15〜64歳の生産年齢人口は2013年10月時点で7901万人といいますから、就業人口の10人に一人以上の割合の人がフリーランスとして働いているわけです。
その背景には、給料の伸び悩み、非正規労働者の増加、そしてインターネットというコミュニケーションの基盤を活かした人材仲介サービスの登場があります。
一方、昨今見られるようにかつて名をはせた大企業が大規模インフラによる大幅な人員削減を行っています。
こうした状況下においても出来るだけ安定した収入を継続的に得ていく手段の一つとしてフリーランスはとても有効だと思います。
しかし、飯田さんのおっしゃるように企業にとってもフリーランスの方々にとっても、メリットのあるのはプロとしてもスキルなのです。
いくら人材仲介サービスを活用しても、スキルがなければ企業から声がかかりにくいし、声がかかったとしても思うような収入は得られないのです。
また、飯田さんの指摘されているようにフリーランスにおいても正規社員と同様の社会保険などの制度が導入されることが求められます。