2016年10月01日
プロジェクト管理と日常生活 No.456 『築地市場移転に思う その5 業務プロセスの徹底的な見直しの必要性』

小池都知事は都知事選で公約の一つに掲げていた都政の透明化の一環として築地市場移転計画の見直しを表明されていました。

そうした状況を反映して、連日のように関連記事が報道されています。

プロジェクト管理の観点からそうした記事の中から5回にわたって私の感じたことをお伝えします。

5回目は、一連の報道記事から見て取れる業務プロセスの徹底的な見直しの必要性についてです。

 

9月10日、小池都知事の緊急会見が開かれました。

そこで豊洲新市場の土壌汚染対策で都が実施したと発表していた、汚染した土壌を取り除いて「盛り土」をすることが実は一部行われていなかったということで訂正をされたのです。

記者会見の場で、小池都知事は、あのまま(11月7日豊洲移転に)OKを出していたならば、その他にまたいろいろな課題が出て来て、そのまま(豊洲新市場を)スタートすることに対しては大変な問題になっていた、と発言されております。

これは全くその通りで、都はこの問題で全く信頼を失うことになりました。

 

豊洲市場は、かつては東京ガスの製造工場があった場所で、2008年の調査で環境基準値の4万3千倍に達するベンゼンや有害物質が検出されました。

都は2011年からおよそ850億円を賭けて2mの土壌の入れ替えや2.5mのきれいな土を盛ってきて、合わせて4.5mの「盛り土」で土壌汚染対策を実施したとして、これまで都議会やホームページで安全性を説明してきました。

しかし、9月7日、豊洲市場の建物の地下を視察した日本共産党の都議は、建物の地下が空洞になっており、水が全面に溜まっていることを発見したのです。

 

そもそも2008年に専門家会議で「盛り土」を提言していたのですが、その後都の職員はコンクリートで覆えば安全だと考え、専門家に確認を取らないまま豊洲市場の建物の地下は「盛り土」を行わなかったのです。

 

さて、ここで問題なのは誰がいつこのような決定を下したかですが、それを示す文書がないというのです。

この事実は驚くべきことです。

普通の企業であれば、少なくとも重要な会議では必ず議事録が作られ、決定事項が明記されて、決められた期間は保管されます。

 

ところが、都庁にはこうした仕組みがないのか、あるいはあっても形骸化されているのか、一連の報道からは都庁にはそもそも断片的には存在しても全体的に整合性を持った業務プロセスの標準化や文書化がなされていないと判断出来ます。

もし、第三者による監査機能が働いていれば、少なくとも専門家会議による「盛り土」の提言は生かされていたはずなのです。

また、多くのマスコミも不確かな情報を元に延々と時間を割くことは無かったのです。

現状のままでは、伏魔殿と言われても仕方のない状況です。

 

ちなみに、豊洲新市場の地下空洞問題についての東京都の内部調査ですが、9月30日に公表された報告書は、問題の根本は組織運営にあると指摘しました。

また、最大の焦点であるである「盛り土」を行わないことを誰が決めたのかについては特定出来なかったと結論付けました。

象徴的なのは、定例記者会見での以下の小池都知事の言葉です。

「それぞれの段階で、何か流れの中で空気の中で進んでいった。」

 

要するに、「盛り土」問題について、どのような過程を経て誰の責任において決定を下したのか、という明確な組織運営プロセスが曖昧であることが判明したのです。

                                

ということで、良く解釈すれば、小池都知事就任後に表面化してきた今回の一連の問題は一部で伏魔殿と言われるような組織を徹底的に見直す大きなチャンスです。

そして、都民にとって救いなのは、小池都知事がこのような取り組みにとても積極的であるように感じられることです。

では、具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか。

以下にその観点を簡単にまとめてみました。

・業務プロセスの徹底的な見直し

・組織の責任や役割の明確化

・監査機能の強化

・これら全ての標準化

・文書化、および必要な期間の保管

・コミュニケーション(組織間の情報共有)

・必要な情報を全て公開

 

このまま今回の問題を曖昧にしていれば、同じような問題が今後とも繰り返られることは間違いありません。

また、一人一人の職員で見れば、優秀な方々が多いはずです。

ですから、この際、業務プロセスの徹底的な見直しによって、日本の首都、東京にふさわしい世界的に誇れるような組織に生まれ変わるように、小池都政に期待したいと思います。

 

さて、これまで5回にわたって築地移転関連問題についてプロジェクト管理の観点から私の思うところをお伝えしてきました。

確かに適切な業務プロセスを構築することは、業務の健全性のレベルアップには大いに貢献出来ます。

しかし、この業務プロセスを最大限に発揮するためには実際に業務プロセスを運用する関係者の意識の高さがカギになります。

どんなに素晴らしい業務プロセスを構築しても、それを運用する一人一人がたんたんと機械的にこなしていたのでは素晴らしい成果には結びつきません。

そういう意味で、小池都知事が都の職員や都議会の議員に向けて盛んに訴えている“都民ファースト”はとても理に適っていると思います。

なお、このような基本的な考え方は“お客様第一”として一般企業においては以前から重視されてきているのです。


 
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