今、iPS細胞による再生医療など、医療分野で新たな治療法がどんどん進化しつつあります。
そうした中、7月31日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ東京)で創薬革命(ドラッグ・リポジショニング)について取り上げていました。
そこで2回にわたってご紹介します。
2回目は、抗がん剤の効果を再び引き出してくれる薬についてです。
去年、世界初のがん治療法が日本から発信されました。
抗がん剤ドセタキセルが効きにくくなったがん細胞をある既存薬で再び効くようにさせるというのです。
研究されたのは、男性では胃がんに次いで罹患率が高い前立腺がん、その治療で問題となっているのが抗がん剤に対する耐性です。
一度耐性が付くと、抗がん剤の効果がなくなり、治療を断念せざるを得ません。
そうした中、抗がん剤の効果を再び引き出してくれる薬がドラッグ・リポジショニングで見つかったのです。
それがC型肝炎の薬、リバビリンです。
このドラッグ・リポジショニングでがんの症状が劇的に改善した患者がいます。
ある男性(82歳)は11年前前立腺がんと慶応義塾大学病院(東京都新宿区)で診断されました。
骨に転移があり、当初余命4年と考えられていたほど、症状は深刻でした。
この男性は抗がん剤を10年近く続けましたが、耐性が付き効果が得られなくなっていました。
本当にがんの治療に効果があるのか、この男性は早速薬の併用を開始しました。
薬を投与する前は太ももの付け根の骨にがんの転移が見えたのですが、薬を投与して6ヵ月後なんとがんが消えたのです。
抗がん剤が再び効くようになったのです。
そのメカニズムは以下の通りです。
ガン細胞は、急激なスピードで分裂し、増殖していきます。
抗がん剤はこの増殖を抑えてがん細胞を増やさない作用があります。
ところが、抗がん剤を使い続けると、増殖出来ないがん細胞は分裂のスピードを落とします。
その代わり、自分の周りにガードを作って抗がん剤を受け付けないようにします。
これが耐性です。
そこで効果を発揮するのがリバビリン、これを投与すると不思議なことにガードが壊れ、急速な分裂をする状態に戻します。
こうして再び抗がん剤が効くようになるというのです。
この療法の開発に携わった慶応義塾大学病院泌尿器科の小坂
武雄医師は、治療が長期間にわたる抗がん剤治療ではドラッグ・リポジショニングが効果的だと考えています。
小坂さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「もともとがんが効いていた頃のがん細胞と効かなくなったがん細胞を比較して、もとの時に効くようになると、そういった治療は非常に有効なんじゃないかなと考えております。」
なお、リバビリンについては現在臨床試験中といいます。
こうしたドラッグ・リポジショニングについて、堀本さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。
「もともと抗がん剤の開発というのは非常に時間もかかり、お金もかかり、かつそれが開発されたとしてもそれぞれ個人によって効く薬、効かない薬がありますのでそういう枠組みから外れたかたちで今、薬が効かなくなった状態を効くようにする新しいコンセプトで作られたドラッグ・リポジショニングだと思っています。」
「(今後ドラッグ・リポジショニングの研究はどのように進んでいくのかという問いに対して、)希少疾患はお薬がありませんので、そういうものに対して我々のアプローチを使った既存薬の発見を試みていこうと思っています。」
「もし、それが出来ましたら現実に無くて困っていらっしゃる方にお薬が届けられると。」
「非常に壮大な希望ですけども、それに向かって仕事をしていきないなと思っています。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
抗がん剤の効果がなくなってしまったのを再び引き出してくれる薬もドラッグ・リポジショニングで開発出来るのですから、ドラッグ・リポジショニングの可能性はどこまで広がるのかとても期待したくなります。
病院に入院して大手術を受けなくても、薬だけの自宅療養で病気が治せるようになれば、患者の金銭的な負担、あるいは長期の入院が不要になり、しかも医療費の軽減は健康保険行政の負担も軽くなります。
ですから、ドラッグ・リポジショニングに限らず、あらゆる医療技術は手術ではなく薬を通しての治療を目指して欲しいと願います。
そういえば、再生医療のiPS細胞についても、薬が将来のiPS細胞による医療法の一つのかたちとして目指していると記憶しています。