2016年09月10日
プロジェクト管理と日常生活 No.453 『築地市場移転に思う その2 不十分なユーザー要求の把握』

小池都知事は都知事選で公約の一つに掲げていた都政の透明化の一環として築地市場移転計画の見直しを表明されていました。

そうした状況を反映して、連日のように関連記事が報道されています。

プロジェクト管理の観点からそうした記事の中から5回にわたって私の感じたことをお伝えします。

2回目は、不十分なユーザー要求の把握についてです。

 

前回、築地市場から豊洲新市場への移転プロジェクトの初期段階で行われるべき調査結果の最終報告が豊洲新市場への移転後に計画されていることの不可思議さ、および移転時期を11月7日から延期することが決定されたことについてお伝えしました。

なお、小池知事が築地市場移転延期の理由として挙げていたのは、安全性の懸念以外にも不透明な費用の増加、および情報公開の不足がありました。

 

さて、今回ご紹介するのは築地市場移転プロジェクトにおける不十分なユーザー要求についてです。

一般的にプロジェクト開発では、まず計画を立案し、ユーザーの要求を把握し、それに基づいて要件を定義します。

そして、その要件定義に基づいて設計・開発を進めます。

ですから、最初のユーザー要求の把握はプロジェクトの成否を決定するうえでとても重要な作業なのです。

ところが、驚いたことに、8月28日(日)放送の「新報道2001」により以下の状況が伝えられていました。

・移転先の豊洲新市場では、これまでよりも店舗面積が狭くなる

これまで置いておけた魚の2割も置けなくなる店舗が出てくる

更に新店舗の1区画の幅は、店員が作業しにくくなるほど作業面積も狭くなる

また、1区画ではマグロを切る大きな機械を置くスペースもなくなる

・現在、1区画の家賃(諸経費を含む)は月10万円だが、移転後の家賃は未だ不明という

・豊洲新市場での“ろ過海水”に対して業者から不安の声が上がっている

冷凍の魚を溶かしたり、洗ったりするにはどうしても海水が必要で、今は築地市場の脇からくみ上げた海水をろ過した“ろ過海水”を使っている

しかし、豊洲新市場で使う“ろ過海水”は土壌汚染処理をした土地の護岸から採られる水である

この水について、東京都は昨年4月に行われた水質検査の結果では問題ないとしているが、取水した海水がどの程度安全なのか確かめられるまでは心配だという業者の声がある

 

更に、9月26日に行われた築地市場の仲卸の総代の投票の結果、86人中72人という多数が築地市場移転に対して慎重・延期派だったといいます。

 

こうしてみてくると、豊洲新市場での最大のユーザーと言えるここで働く業者の方々の多数の声を当初の段階でしっかりと把握していたのかとても疑問に思います。

家賃一つ取っても、未だに不明というのはとても理解しがたいです。

このような状況では、多くの業者の方々は移転後の商売がどうなるのかとても不安を感じられていると思います。 

 

ということで、築地市場移転はプロジェクトとしてみると“プロジェクトのイロハ”をほとんど無視したかたちで進められてきたと言わざるを得ません。

 



 
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