2016年09月06日
アイデアよもやま話 No.3488 AIの活用事例 その2 患者の命を救う!

最近、AI(人工知能)の活用事例が次々に報道されています。

そこで、そうした中から5回にわたってご紹介します。

2回目は、患者の命を救うAIについてです。

 

以前、アイデアよもやま話 No.3477 新たながん検査法で期待される早期発見!で期待される早期発見!で新たながん検査法についてご紹介しました。

そうした中、6月26日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHK総合テレビ)でAIを活用したがん検査法を取り上げていたのでご紹介します。

 

アメリカのベンチャー企業ががんを検知するAIを開発しました。

人間の脳を模した学習システム、すなわちディープラーニングを使ってがん患者のX線画像を大量に見せて、がん患者に現れる特徴を学習させました。

ある人の胸を3方向から見たX線画像からがんの可能性があるかどうかを探していきます。

すると、がんの可能性があると判断したわずか1ミリにも満たない箇所が赤く光って表示されるのです。

この判断は、人間並みの精度を誇っていて、しかも医師と違って疲れることがありません。

 

一方、8月4日(木)放送のニュース番組(NHK総合テレビ)で白血病患者の命を救ったAIについて取り上げていたのでご紹介します。

 

東京大学医科学研究所に導入され、2000万件もの医学論文を学習したAIが60代の女性患者の命を救っていたことが分かりました。

専門の医師でも難しい特殊な白血病と見抜き、治療法の変更も提案しました。

専門家は、AIが患者の命を救った国内初のケースではないかと話しています。

この女性(66歳)は、昨年1月に急性骨髄性白血病と診断されました。

抗がん剤を組み合わせる標準的な治療を数ヵ月間受けましたが、容体は悪化し、その原因も分かりませんでした。

この女性を救ったのがアメリカのIT企業、IBMが開発したAIを備えた「ワトソン」です。

入院していた東京大学医科学研究所の附属病院には膨大な遺伝子情報を分析するスーパーコンピューターがあります。

IBMを協同で「ワトソン」にがん研究の論文を学習させることで、がん患者の診断に役立てる臨床研究を進めています。

東京大学医科学研究所の宮野 悟教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「(「ワトソン」は)2500万を超える論文の情報、1500万を超える薬の特許の情報、そして生命のメカニズムの情報を持っています。」

 

診断が極めて難しく、治療法も多岐にわたる白血病、この女性患者の遺伝子の変化のデータが「ワトソン」に入力され、分析が行われました。

その仕組みは、以下の通りです。

この女性患者の遺伝子の変化の情報に「ワトソン」が読み込んだ2000万件以上の医学論文、それぞれから関係するものを選び出します。

更に、複数の論文を分析することで、病気の根本的な原因となった遺伝子の重要な変化を突き止めます。

この結果、「ワトソン」はこの女性患者が二次性白血病という別ながんにかかっていることを見抜きました。

診断にかかった時間はわずか10分ほど、抗がん剤の種類を代えることも提案し、女性患者の命を救いました。

東京大学医科学研究所の附属病院の東條 有伸医師は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「「ワトソン」が題してくる答えは非常にレスポンスが早いということ。」

「いろいろな根拠ですとか情報を含めて提示してくれるということはなかなか人工知能でないと出来ないのかなと実感しています。」

 

こうして、この女性患者は昨年9月に退院するまでに体調が回復しました。

こうしたケースでは、論文や遺伝子の情報が膨大になるため、専門の医師でも病名を突き止めることが難しい現実があります。

専門家は、AIが人の命を救った国内初のケースではないかと話しています。

 

「ワトソン」はこの他にも二人のがん患者の病名を突き止めるなど、合わせて41人の治療に役立つ情報を提供したということです。

 

医療分野でのAIの活用は、アメリカで先行していて、既に複数の病院で白血病や脳腫瘍の治療の支援に使われています。

日本での今後の活用について、宮野教授は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「患者さんがよりよい状態になっていく確度を上げていくことが出来ると私は確信しております。」

「人知を超えた医療の世界が「ワトソン」のような技術によって開けていくと思います。」

 

以上、2つのテレビ番組を通して患者の命を救うAIについてご紹介してきました。

患者の病状と膨大な学術論文や過去の治療事例の情報と結びつくことによって、短時間で正確な病名の特定や治療法を提示してくれる、このことこそ人知を超えた新たな医療の世界を実現してくれるAIの素晴らしい活用法の一つだと思います。


 
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