2016年08月10日
アイデアよもやま話 No.3463資本主義のルールが変わる時 その3 魔術の誕生!

地球環境問題や化石燃料などの資源の枯渇問題に関心を持ち始めるようになってから、消費が成長エンジンである資本主義のあり方に疑問を感じるようになりました。

そうした中、5月28日(土)放送の番組(NHK総合テレビ)で「欲望の資本主義 〜ルールが変わる時〜」をテーマに取り上げていました。

そこで、5回にわたってご紹介します。

3回目は、資本主義の魔術の誕生についてです。

 

お金は時を超え、時がお金を生む、この錬金術をなぜ人は欲望したのでしょうか。

チェコのCSOB銀行のマクロ経済チーフストラテジストであるトーマス・セドラチェクさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「西洋の古い書物を読んでみると、実に皮肉で興味深いんだが、必ず利子について論じられている。」

「聖書、ヴェーダ(ヒンズー教の経典)、コーラン、アリストテレス、否定的な感情とともに(利子について論じている)ね、なぜかは分からない。」

「歴史を振り返ると、利子は“禁断の果実”だった。」

「富をもたらす一方で、問題を引き起こしてきた。」

 

利子、それは未来の利潤のため休むことなく人を働かせます。

これも“禁断の果実”なのです。

そこには、ある男の欲望がありました。

14世紀、イタリアのフィレンツェで、メディチ家の始祖、ジョバンニ・メディチはある商人からロンドンで商売をする資金として100フィオリーニという大金を貸して欲しいという申し出を受けました。

教会が目を光らせているので利子を取るわけにもいかず、悩みましたがあるアイデアが閃きました。

フィレンツェとロンドンの為替レートの違いを利用すればいいというのです。

商人に100フィオリーニ貸して、ロンドンの通貨である4000ペンスに両替させる、そしてその後ロンドン支店で4000ペンスを返済させ、両替すれば111フィオリーニを得ることになる、この種の取引を重ねて莫大な利益を得たのです。

 

お金は時だけでなく、空間の差を利用して無限に増殖していくことになります。

アリストテレスは、かつて次のように指摘しています。

「貨幣は元々交換のための手段であるが、次第にそれを貯めること自体が目的化した。」

 

昨日より今日、今日より明日、増え続ける欲望、その欲望を正当化し、免罪符を与えた男がいます。

経済学の父、アダム・スミス(1723〜1790)です。

それぞれが自らの利益を求めれば、“見えざる手”によって社会全体も富み栄える、その理論は人々の欲望を肯定したのです。

 

2012年のノーベル経済学賞受賞者で、スタンフォード大学教授のアルヴィン・ロスさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「(そもそも資本主義の推進力は何かという問いに対して、)市場の最大の機能は、誰が何を欲しがっていて、誰が何を持っているか全ての情報を集めることだ。」

「供給と需要が一致することで、魔法のように価格が決まる。」

「その難しさは、情報を得て計画することなど、誰にも出来ないことにある。」

「なぜなら、情報は多くの人々に拡散するものだからだ。」

「そしてまた、情報が市場に集まることで最適な結果が生まれる。」

「(世界の利子率は下がり続けてマイナス金利の国もあり、資本主義の終わりの兆しを語る人もいる状況について、)資本主義の死を宣言するのは早計だ。」

「資本はリターンを得続けているよ。」

「シリコンバレーに住んでいるんだが、多くのビジネスが集まっているのは今も新しい会社が利益を上げているからだ。」

「もしマイナス金利が続いたとしても、新しいかたちの金融取引が発展し、金融機関の資本はリターンを得られ続けるだろう。」

 

2001年のノーベル経済学賞受賞者で、コロンビア大学教授のジョセフ・ステイグリッツさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「市場とは、ある日誕生したのではなく、進化し続けてきたものだ。」

「何千年も前の市場経済は、とてもシンプルなものだっただろう。」

「私が思う大変化は産業革命だった。」

「資本主義は科学と技術を両輪としている。」

 

「このダイナミズムによって人々が農作物を市場で買ったり、女性が家で編み物をしていたような原始的な市場経済からより大規模な会社ほど有利で経済規模を拡大出来ることになった。」

「そして、イノベーションが駆動する経済だ。」

 

投資銀行の元ゴールドマン・サックス社員で、2013年にベンチャー投資銀行、シェルバ・キャピタルを設立し、そのCEOであるスコット・スタンフォードさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「私たちはより効率化する方法を常に探しているんだ。」

「経済学でいうところの生産性だね。」

「労働力が変わらないのに成果物は増える。」

「そして、利潤、成長、波及、創造的破壊を追求する。」

「いかにして効率的な進化がなされない古い産業を駆逐するか、市場を取れ、需要と供給が働き合って、加速して規模の効果が働いて新旧交代が起こる、それがイノベーションだ。」

「そして、消費者をハッピーにするんだ。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

資本主義は、利子という概念の創造による貯蓄、および貯蓄された資金の貸し付けにより利潤を生み出すビジネス、あるいは為替の変動を利用したビジネスを生み出してきました。

そして、このようなダイナムズム、およびこうして得られた多額の資金を元手にテクノロジーや革新的なアイデアを駆使したイノベーションの結果、企業の新旧交代が図られ、経済が活性化され、富の増大につながっていくわけです。

 

ということで、次回は、幻想が幻想を生むことについてご紹介します。


 
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