地球環境問題や化石燃料などの資源の枯渇問題に関心を持ち始めるようになってから、消費が成長エンジンである資本主義のあり方に疑問を感じるようになりました。
そうした中、5月28日(土)放送の番組(NHK総合テレビ)で「欲望の資本主義 〜ルールが変わる時〜」をテーマに取り上げていました。
そこで、5回にわたってご紹介します。
2回目は、成長は至上命題なのかについてです。
2001年のノーベル経済学賞受賞者で、コロンビア大学教授のジョセフ・ステイグリッツさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「経済成長について話す時は、「成長」の意味をはっきりさせないといけない。」
「GDPは経済力を測るにはいい指標とは言えない。」
「環境汚染、資源乱用を考慮に入れていないし、富の分配も社会の持続性も考慮されていない。」
「問題だらけだ。」
「経済における成長の本質をこの先変えていくべきだと強く思っている。」
「既に明らかなのは、物質主義的経済、天然資源をじゃぶじゃぶ使ってCO2を大量に排出するようなことは持続不可能ということだ。」
「もうそのような成長は成し得ない。」
「他のかたちの成長がある。」
「まだまだ繁栄は出来るし、新たなイノベーションを生み出せるはずだ。」
「(その変化を起こすには何が重要かという問いに対して、)政府の政策が必要だ。」
「テクノロジーやインフラや教育にもっと投資をしないといけない。」
「地球の気温を2℃も上昇させてしまったことで、多くの投資が必要になっている。」
「経済を整え、新エネルギーに移行し、都市構造を変える、」
「私たちには巨大なニーズがあるはずだ。」
投資銀行の元ゴールドマン・サックス社員で、2013年にベンチャー投資銀行、シェルバ・キャピタルを設立し、そのCEOであるスコット・スタンフォードさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「Uber(アイデアよもやま話 No.3382 ウーバーによるタクシー革命!参照)への投資がきっかけで、今の会社の共同創業者と出会った。」
「立ち上げのかなり早い段階で投資をした。」
「ごく小さい会社だったが、アイデアに魅力を感じた。」
「テクノロジーは経済を活性化するか、雇用を奪うだけか、そういうことは考えていない。」
「そういう心配をするのは僕たちの仕事じゃない。」
「僕たちは5億ドルを運用している。」
「そのお金は僕たちのお金ではなくて出資するパートナーたちのものだ。」
「彼らは自らの資本を僕らの投資に委ねてくれている。」
「僕らに収入があるのは、投資がリターンを生んだ時だけだ。」
「資本金をコントロールするボスがいるのさ。」
「(ゴールドマン・サックスに勤務していた時と比べて、投資の戦略や考え方で違いはあるかという問いに対して、)面白い質問だね、考えたこともなかった。」
「はっきり言えることは、全ての仕事は資本主義システムの中にあるんだよ。」
「そもそもゴールドマン・サックスでも今の会社、シェルパ・キャピタルでも目的は同じだ。」
「短期間でお金を稼ぐこと。」
「ただ、今は常に新たなビジネスのアイデアを考えている。」
「誰かの起業を手助けするだけでなく、時には自分たちで新しい会社を立ち上げる。」
投資すれば増えて返ってくる、そんな資本主義のセオリーですが、いつでも通用するわけではありません。
ステイグリッツさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(利子率は増々低くなってきており、もう投資も成長も見込めないという見方についての問いに対して、)ケインズを始め、多くの近代経済学者たちは利子率の役割、調整機能を強調し過ぎた。」
「利子率より重要なのは、借り入れのための“信用”だ。」
「低い利子率は不況を招いている政策の結果に過ぎない。」
「テクノロジー、インフラ、温暖化対策に投資すれば利子率なんてすぐ上がるさ。」
また、チェコのCSOB銀行のマクロ経済チーフストラテジストであるトーマス・セドラチェクさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「クルーグマン(経済学者)の主張で同意出来ないことがあるんだが、彼の主張は「低い利子率で借金すれば、経済が好転して借金が返せるようになる」、真ん中の分を抜いたらどうなると思う?」
「違う意味が見えてくるよ。」
「低い利子率で借金すれば、借金を返せるようになる。」
「これは銀行員だったら警報ものだよね。」
「危険過ぎる。」
「火で火を消そうとするようなものだよ。」
「ナイフや火のようなものだ。」
「コントロール出来る代物じゃないんだ。」
「利子率っていうのは、どう扱っていいものか本当に分からないものだ。」
「どんなにいい投資でも、高速道路、大学、研究機関とかを作ったとしても、お金は必ず返さないといけない。」
「教育レベルが高くて、優秀な経済学者が沢山いて、大きな潜在力を持っている日本のような国でも借金を返せずに苦労している。」
「文明社会は“安定”を売り払ってしまった。」
「そして、無理に“成長”を買っている。」
「僕らはいつもではなくとも時々成長をもたらす経済を作り出したが、今は崩れかかっている。」
「(人々の成長への期待が膨らみ、利子という概念が広まったことは成長資本主義のそもそもの起源であり、人々の考えを変えたのかもしれないという指摘に対して、)その通りだと思う。」
「利子率は少しアルコールに似ている。」
「どちらもエネルギーをタイムトラベルさせることが出来るから。」
「金曜日の夜にお酒を飲んでいると、突然歌い出したり。」
「ほら、この国(日本)は「カラオケ」好きの国だろう?」
「お酒が入っていると歌いやすいよね。」
「「この溢れるほどのエネルギーはお酒が与えてくれたものだ」って思うかもしれないが、ノーだ。」
「それは間違いだ。」
「お酒がエネルギーをくれるわけじゃない。」
「お酒がしたのは、土曜の朝のエネルギーを金曜日の夜に移動させただけだ。」
「二日酔いは間違いなく翌日に来るが、お金は40年も50年も時を超えることが出来る。」
「こんな風に危機につながったりするんだ。」
「エネルギーが消えてしまうのだ、本当に必要な時に・・・」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
かつては、より効率よく、より短期間でお金を稼ぐ資本主義経済システムの論理は、人々の豊かさを追求するうえでとても有効に機能してきました。
しかし今や、より効率よく、より短期間でお金を稼ぐ資本主義経済システムの論理だけでは社会システムそのものがいずれ破綻してしまうことは明らかになってきました。
成長こそが至上命題とは言えない状況なのです。
では、どのような要件を満たしつつ、経済成長を目指すべきなのでしょうか。
番組の内容を参考にしつつ、私の考える要件について以下にまとめてみました。
・地球環境やエネルギーの問題解決とバランスを取った経済成長を目指すことにより、持続可能な社会を維持すること
・格差社会を抑制するための富の分配システムを整備すること
・後の世代に経済的に過度な負担をかけないようにすること
・こうした要件を満たすために、政府は政策や法令などにより環境整備を図ること
ということで、次回は、資本主義における魔術の誕生についてご紹介します。