5月22日(日)放送の「サキどり↑」(NHK総合テレビ)で躍進する“ひとりメーカー”について取り上げていました。
そこで、番組を通して2回にわたって“ひとりメーカー”方式についてご紹介します。
2回目は、大手企業で導入が進む“ひとりメーカー”方式についてです。
前回、一人で商品の企画・設計・製造・販売までを行う“ひとりメーカー”の躍進についてご紹介しましたが、大手メーカーもこの方式を取り入れ始めているといいます。
大手電機メーカー、オムロンの社内(滋賀県草津市)に昨年新たなスペースが誕生しました。
3Dプリンターをはじめ、最新のモノづくりツールが並ぶファブ施設、社員なら誰でも利用出来、アイデアをすぐにかたちに出来る場所です。
大手メーカーであるオムロンがこうしたファブ施設を作った背景について、オムロンものづくりクリエイトラボ長の吉本
和也さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「今まで通りのやり方だと今まで通りのモノしか出来ないよねと。」
「このラボと起点として活動した結果、新しい商品が出ることになるとうれしいですね。」
今、大手製造業で“ひとりメーカー”のやり方でモノづくりをする動きが広がっています。
創業70年を迎えたソニーでも新たな試みが始まりました。
この春出荷された新製品(年内の一般販売を予定)、見た目はアナログな腕時計、実はベルト部分に、電話やメールの通知機能から電子マネー機能、消費カロリーなどを記録するログ機能までハイテク技術が詰まっているのです。
この事業を率いるのは入社3年目の對馬 哲平さん(26歳)は、企画から販売まで全てに関わる“ひとりメーカー”方式でこの腕時計を作り上げました。
終戦直後、東京・日本橋に社員およそ20人で創業したソニーは、これまでステレオカセットプレーヤーなど独創的な商品を次々と世に送り出してきました。
会社が成長し、社員数13万人のマンモス企業となった今、画期的な商品を生み出せずにいます。
こうした状況について、ソニー新規事業創出部部長の小田島 伸至さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「安定してくると、当然ながらベンチャースピリッツみたいなものは段々と薄れていくのが世の常だと思うんですが、ただ新しいモノを作るには必ずベンチャースピリッツは必要。」
実は、創業当時の経営方針に高らかに謳われていたのは以下の文言で、ベンチャースピリッツそのものでした。
「大経営企業の進ミ得サル分野ニ技術ノ進路ト経営活動ヲ期スル。」
この原点に立ち戻ろうと2年前本社(東京・品川)にファブ施設を設置、社員が独自のアイデアを膨らませる土壌を作りました。
更に、そのアイデアを拾い上げる仕組みも整えたのです。
それが社内オーディションです。
3ヵ月に一度開かれ、社員が独自のアイデアをプレゼンテーション、審査に合格すれば製品化への道が開けます。
これまでに5種類の香りを持ち運べるアロマディフューザーや複数の家電を操作出来る多機能リモコンなどが誕生しました。
腕時計を開発した對馬さんもこのオーディションを勝ち抜きました。
大学院を卒業し、就職した對馬さんにはある夢がありました。
それは、いくつも腕に巻くほど大好きなデジタル機能を一つにまとめた腕時計を作ることでした。
しかし、入社1年目、衝撃的なニュースが飛び込んできました。
あのアップルが腕時計型の情報端末を開発中だというのです。
一刻も早く夢を実現したいとオーディションに挑戦した對馬さんは見事合格、念願のモノづくりを社内の各部署に散らばるエキスパートを巻き込みながら進めていきました。
少数精鋭のメンバーが一部屋に集う、これまでにないやり方で開発を行いました。
参加メンバーからは次のようなコメントが寄せられています。
・機械設計担当
何かを試せるぞ
・コミュニケーションデザイン担当
普段はすごく遠く(の部署)から、設計さんからマネジメントを通して私に来るっていう、それが隣とかにいるんでそれがすごく大きい
・営業・経営管理担当
同じ方向を皆が向いているというところがいいし、それはひとりが何役もやれるからプロジェクトに対して愛着が湧く
こうして、通常は数年かかる製品化をわずか1年で実現、こだわりの腕時計を世の中へ送り出しました。
對馬さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「やっぱり小さい人数で勝負しないと小回りも利かないですし、早く意思決定も出来ないので(このやり方は)非常に魅力的ではあります。」
「そうしないとダメだと思いますね。」
小田島さんも、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「大企業ならではの手法でチャレンジャーと有識者を掛け合わせてスタートアップ(ベンチャー)をどんどん生んでいって、その結果としてイノベーションを生んでいく。」
「まず何よりも未来を作るような事業を生みたいと。」
4年前にこの番組で紹介された元祖“ひとりメーカー”、八木
啓太さんは、次のようにコメントされております。
「大企業というと既存事業が沢山あると思いますので、それを壊さないように大事にしていくことが逆にイノベーションを阻害していくっていうところがあると思うんですけども、一方で仕組み的に小さなチームを切り離して、ある意味自己否定をしながら新しいイノベーションを起こしていくような仕組みがこういうふうに実現しているというのは非常に興味深い。」
「(大手メーカーの勤務時代を振り返って、)組織間の壁が非常に分厚くてですね、自分の担当はその製品の一部でしかないので、その周辺がどうなっているのかというのは十分に情報がなかったりすると、自分が作っているという実感もあまりなかったですとか。」
「なので、“ひとりメーカー”としては、そこを一気通貫で上流から下流まで全て自分たちの想いを込めて作ることが出来ることが結果的にはお客さんの感情にも響いて共感を得られるのかなと思いますね。」
「(“ひとりメーカー”が日本のモノづくりの環境を今後どのように面白く変えていくのかという問いに対して、)大手メーカーでは非常に自立しづらかったような斬新な製品とか、もしくは斬新な開発スタイルというのを生み出していくことで、結果的にはそれが大手企業にもフィードバックされて、産業全体を活性化していくっていうポテンシャルを持っていると思いますね。」
また、専修大学経営学部准教授でメーカー300社を取材・研究されている三宅 秀道さんは、次のようにコメントされております。
「こうやって公認の場で治外法権のスペースを作って、ここでやることはOKよという場を作ることが非常に希望につながるんだと思います。」
「大手は、技術の種は本来いいものをいっぱい持っていると。」
「だけど、それが寝ちゃっていると。」
「それを起こす刺激を与える時に、大手メーカー内に“疑似ひとりメーカー方式”が非常に有効な手段だと思います。」
他にも、JTでは今年1月に社内に「ファブスペース」を設置し、若手中心に運用中といいます。
また、富士通は今年4月に六本木に一般の人も使える「ファブ施設」をオープンさせました。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
どんな大企業と言えども、創業時には少人数からスタートしていたはずです。
ところが、ソニーの小田島さんが番組の中でおっしゃっているように、企業が安定してくると、創業時には満ち満ちていたベンチャースピリッツが段々と薄れていくのが世の常なのです。
ところが、今はかつてのようなスローペースの製品開発では国際的なビジネスの競争の場では勝ち残り続けることは出来ません。
そういう中で、新しいモノを作るには必ずベンチャースピリッツが必要なのです。
そういう意味で、大企業が“ひとりメーカー”方式を取り入れることは、大きな組織内にベンチャースピリッツの遺伝子を残し続けていくうえでとても有効だと思います。
また、商品開発の期間短縮のうえでも効果が期待出来ます。