5月7日(土)放送の「クロスドード」(テレビ東京)で奇想天外な食堂について取り上げていたのでご紹介します。
昨年9月、東京のオフィス街、東京の神保町にオープンした1軒の定食屋さん、その名は未来食堂です。
オフィス街だけに、お客さんのほとんどはサラリーマンや働く女性たちです。
お客さんが来店してわずか8秒ほどで料理が出てきます。
その訳は、メニューが毎日日替わりで1種類だけなのでお客さんが来店と同時に料理の盛り付けが出来るからなのです。
でもメニューは飽きが来ないように計算されています。
1食900円でお客さんに選択の余地はありませんが、それでも客足が絶えない繁盛店なのです。
この徹底した効率化で12席のカウンターをランチタイムに4回転させることもあります。
これは、一般の飲食店では考えられない数字です。
ちょっと気になる1種類だけのメニューですが、お客さんの声は次のように満足のようです。
・いつ来ても食べたいなというものが出てくる
・どの食事も美味しいので全く気にならない
・(料理が出てくるのが)早いのが良い
以外なのは、メニューは1種類だけのはずですが、なぜかわがままなリクエストにも対応します。
その仕組みは、その日の夕方、冷蔵庫にある食材をメニュー表に書き込んで、そのメニュー表に書かれた食材からお客さんが選んで好みのおかずをオーダーメード出来るという夜限定の「おあつらえ」システムです。
しかも、固定メニューと違い、その日の夜に残った食材だけで料理を作るので在庫を減らすというメリットもあります。
効率重視のようで、それだけとは思えない不思議な経営方針なのです。
この未来食堂を一人で切り盛りしているのが東工大卒でオーナーの小林せかいさん(31歳)です。
小林さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「1人で回しているこの未来食堂の忙しさはすごい難易度の高いテトリスのようなかたちで・・・」
ここ未来食堂には“リケ女”ならではの緻密な計算と斬新なアイデアがちりばめられています。
例えば、一度お客さんとして来てくれた人が50分間お店を手伝えば1食無料という「まかない制度」があります。
なお、志願者が特定の時間に集中しないようにホームページのカレンダーで空き状況を公開しています。
忙しい時間帯に1食分の原価(約300円)で労働力が確保出来るのです。
このシステムに参加する人たちには、自分でお店を持ちたいので一番短期間で学びたい
、あるいはデスクで仕事をしているのでいつもと違う仕事をしてリフレッシュしたい、など様々な動機があります。
小林さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「もう一期一会ですよ。」
「でも皆さん楽しんで帰ってくれるので、それは凄く気を付けていますね。」
「ファンになってもらわないと。」
また、お酒の持ち込みは自由ですが、その半分を周りのお客さんとシェアするのがルールです。
そして、次週のメニューはお客さんに決めてもらうのもルールといいます。
作ったことのない料理を提案されることも少なくありません。
そのため定休日には一流店に足を運んで味を吸収します。
お客さんに満足してもらえる合格ラインを探るために1日4軒回ることもあるといいます。
研究熱心な“リケ女”ならではの努力の積み重ねが味に花開くのです。
ある日、東京の離島、八丈島の生産者を訪ねる小林さんの姿がありました。
八丈島特産の島レモン、一般のレモンに比べて大振り、しかも皮まで食べられるのです。
実は、小林さんは東京都の地域活性団体と共同で、伊豆諸島・小笠原諸島の特産品を使った食材を活かして様々な料理を提供しています。
そして、そうした料理を食べた感想をお店に置いてあるノートに綴ってもらっているのです。
この日は、お客さんの生の声を生産者に届けに来ていたのです。
こうしたお客さんの生の声が生産者の方々の頑張る力になっているといいます。
未来食堂で“人と人とをつなぐ”、実はそれこそ今小林さんが目指していることなのです。
ある日、未来食堂に盛岡在住の吉田 光晴さんが岩手県の盛岡からやってきました。
吉田さんは、以前未来食堂を手伝った一人で、数週間後に盛岡でコミュニティカフェのオープンを控えていて、小林さんに相談に来たのです。
忙しい仕込みの手を止め、真剣に相談に乗る小林さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「お店で一度でも働いてくれたわけだから、そういう人が悲しんで欲しくないなと思うので、出来ることは応援したいなっていう感じですかね。」
1週間後、居ても立っても居られなくなった小林さんは、吉田さんのお店、つながる台所「Tane」に駆けつけました。
早速厨房をのぞいた小林さんは、作業スペースの狭さに唖然としました。
プレオープンの時刻が迫る中、未来食堂で培ったノウハウや知識を惜しみなく伝えていきました。
小林さんのアドバイスが効を奏し、プレオープンは無事に終えることが出来ました。
それにしても、なぜ吉田さんは盛岡に未来食堂のようなお店を作ろうと思ったのでしょうか。
吉田さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「空間を楽しみに来るというか、そんな感じがするんですよね、未来食堂は。」
「そういう雰囲気をここでも作って行けたらいいなと思います。」
また、小林さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「どこかで頑張っている人がいるんだったらそれを応援したいな。」
「それが別に東京だからとか岩手で離れているからとかは全然関係無いと思います。」
陸奥に未来食堂のDNAを受け継ぐお店が誕生しました。
青春の日から十数年、小林さんにとって未来食堂とはどんな場所なのか、番組の最後に次のようにおっしゃっています。
「いろんなものを受け止める場所かな。」
「誰でもを受け入れるし、いろんな人のチャレンジとかいろんな人の想いを受け入れる場所でありたいなというふうにはいつも思っていますね。」
さて、驚くことに1984年に兵庫県の教育熱心な家庭に生まれた小林さんは小学校入学時には既に因数分解を理解していたといいます。
しかし、中高一貫の名門女子高へ進学した小林さんは、家にも学校にも居場所のなさを感じており、授業とかをよくサボり、15歳の時に初めて一人で近所の喫茶店に行きました。
当時のことについて、小林さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。
「この空間が凄く心地よいというか衝撃を受けて、居づらいなと思っていたような場所から離れて、ここだとちょっと安心出来るというか、そういう感じの温かみをくれたという・・・」
息苦しさから解き放され、自分の居場所を見つけたという安心感、小林さんがお店を持とうと決めたのは、15歳のその時だったのです。
その後、小林さんは東京工業大学の理学部数学科を卒業し、大手企業のエンジニアとして働きました。
しかし、青春の日の想いは絶ちがたく、29歳で退職、その後1年半の間に大手外食チェーンをはじめ6店舗を渡り歩いてノウハウを吸収し、2015年9月に未来食堂をオープしたのです。
飲食業界の常識を覆すビジネスモデルとして様々なメディアにも取り上げられました。
そして今、なぜか小林さんは「貨幣」とは何かについて勉強しています。
以上、番組の内容をご紹介してきましたが、小林さんは、論理的に物事を考えるだけでなく、とても心優しい女性だと思います。
そればかりでなく、未来食堂は“人と人とをつなぐ”ことを目指しいているように、単なるビジネスのためにお店のオーナーになっているばかりでなく、未来食堂に関わる全ての人たち、すなわちお店に来てくれるお客さん、お店で働いてくれる人たち、食材を提供してくれる生産者、そして未来食堂を参考にして新たに自分のお店をオープンさせたい人たちなど皆に幸せになって欲しい、という強烈な意志、願いを小林さんは持っているように思います。
また、今回ご紹介した未来食堂の運営に際しての小林さんのアイデアにはとても感心させられました。
その基本的な考え方は、未来食堂のお客さんをはじめとする関係する方々全てのメリットと徹底した効率化を追求したシステムの構築だと思います。
そして、どんなビジネスにもその基本的な考え方は応用出来ると思うので以下にまとめてみました。
是非、参考にして下さい。
・メニューは日替わりの1種類
お客にとってのメリット:
ランチタイムでも料理の待ち時間がない
お店にとってのメリット:
料理する手間がかからない
・その日に残った食材の組み合わせでオーダーメード出来る夜限定の「おあつらえ」システム
お客にとってのメリット:
食材の制限はあるものの、食べたい料理をオーダーメードで注文出来る
お店にとってのメリット:
その日の食材の在庫処分が出来る
・50分間お店を手伝えば1食無料という「まかない制度」
お客にとってのメリット:
自分の都合次第で、50分間働くだけで1食分(900円)無料になる(時給換算で1080円)
自分でお店を持ちたいお客にとっては短期間で実践的に学べる
気軽にいつもと違う仕事によりリフレッシュ出来る
お店にとってのメリット:
忙しい時間帯に1食分の原価(約300円)で労働力を確保出来る
・お酒の持ち込みは自由だが、その半分を周りのお客さんとシェアするルール
お客にとってのメリット:
自分の飲みたいお酒をリーズナブルに持ち込むことが出来る
お客により持ち込まれたお酒をシェアすることによりお客同士のコミュニケーションのきっかけが出来る
お金のない酒好きのお客は無料でお酒を飲めことが出来る
お店にとってのメリット:
来店客を増やすプロモーションの一環になる
・次週のメニューはお客さんに決めてもらうシステム
お客にとってのメリット:
次週、自分の食べたい料理をリクエスト出来る
お店にとってのメリット:
お客の食べたい料理を提供することにより固定客や来客の増加が期待出来る
新たな料理にチャレンジ出来るので提供する料理の幅が広がる
・伊豆諸島・小笠原諸島の特産品を使った食材を活かして様々な料理を提供している
お客にとってのメリット:
地方の特産品を使った美味しい料理を味わえる
生産者にとってのメリット:
お店が販売先となってくれるので売上向上に結びつく
お店にとってのメリット:
地方の特産品を使った美味しい料理を提供することによりお客さんの満足度を向上出来る
以上、まとめてみましたが、小林さんのいろいろな独創的なアイデアも、そのベースには美味しい料理へのこだわりがあることは言うまでもありません。
そこがまた小林さんの凄いところだと思います。