2016年07月08日
アイデアよもやま話 No.3437 微生物で発電 その2 微生物燃料電池の問題と解決策!

これまでアイデアよもやま話 No.1238 世界の驚き発電!などで様々な発電装置についてご紹介してきました。

そうした中、4月24日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ)で「“発電菌”研究の最前線」をテーマに取り上げていましたので2回にわたってご紹介します。

2回目は、微生物燃料電池の問題と解決策についてです。

 

1回目で微生物燃料電池についてご紹介しましたが、この微生物燃料電池にはある問題がありました。

“発電菌”に餌である有機物を与えると発電量が増えます。

ところが、時間が経つと有機物を増やしても“発電菌”を増やしても発電量は増えなくなります。

原因は電極に付くことが出来る“発電菌”の数が限られているためです。

つまり、せっかく発電しても電極から離れた場所にいる“発電菌”の電子を回収することが出来ないのです。

 

この問題を解決するため渡邉教授は“発電菌”の生態を一から見直すことにしました。

シュワネラ菌が発見された湖底の土には鉄が多く含まれていることに注目し、シュワネラ菌の生息環境に近い環境にしようと、微生物燃料電池に鉄を加えてみることにしました。

すると、発電量が5〜10倍に増えることが分かったのです。

これは鉄の粒子が電極の周囲に付着して離れた場所にいる“発電菌”の電子を電極まで届ける役割を果たしているためと考えられます。

更に、電極の素材やかたちにも工夫を加えました。

こうした改良を重ねることで発電量は研究開始当時に比べて50倍にまで増えたのです。

 

50倍にまで増えた発電量が実際にどのくらいなのかについて、渡邉教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「発電量は条件によってすごく変わってくるんですけども、シュワネラ菌にすごく適した条件で発電させたあげた場合に100mlの装置が一番発電したのが200〜300mWぐらいということになります。」

「その装置を大きくして1㎥の装置を作ったとして24時間フル稼働させると50kWhぐらいの発電量になります。」

「そうすると1軒が1日に使う電力が10kWhぐらいなので単純計算すれば、(計算上は)5軒分ぐらい(の発電量)ということになるんですかね。」

「ただし、それには例えばシュワネラ菌だったら乳酸を24時間ずっとこの装置に入れなければいけないということで、乳酸の値段というのは電気と比べてもかなり高いので、実際その発電が経済的に成り立つかというと、ちょっと話はそんな単純なことではないんですよね。」

「(今すぐに実現出来るというわけではないのかという問いに対して、)残念ながらそういうことですね。」

 

でもこの微生物燃料電池が今すぐ使えると言われている場所があるといいます。

それは下水処理場の廃水です。

私たちの生活排水には汚れとして有機物が沢山含まれているので、その有機物を“発電菌”の餌にしてあげれば発電が出来るということなのです。

 

実は、下水処理に“発電菌”を使うと発電だけでなく大幅な省エネ化にもつながると期待されています。

港北水再生センター(神奈川県横浜市)では微生物の力を使って下水を処理しています。

空気は微生物に呼吸をさせるために送風機で送り込んでいます。

現在、世界で最も普及している廃水処理は微生物を利用した活性汚泥法と呼ばれる方法です。

廃水には汚れの元となる有機物が入っています。

これを微生物に分解させることで水をきれいにするのです。

この時、微生物が酸素を取り込んで有機物をCO2と水に分解します。

そのため微生物が効率的に有機物を分解するにはタンクに大量の酸素を送る必要があるのです。

しかし、この方法には問題がありました。

酸素を供給するための装置は、非常にエネルギーを使うので電力を少しでも削減して省エネ型の処理法が待たれています。

 

下水処理場では消費する電力全体の約40%が酸素を送る送風機に使用されています。

そこで注目されているのが“発電菌”を使った廃水処理システムです。

“発電菌”は酸素を必要としないためタンクに酸素を送る必要がありません。

つまり、送風機を動かすための膨大な電力は一切必要がなくなります。

更に、廃水中の有機物を餌として取り込み、分解しながら電子を放出するので発電まで出来てしまうのです。

発電した電力はポンプなどを動かす電力として利用することが出来ます。

 

この未来型の廃水処理システムに国も大きな期待を寄せています。

2012年から国が中心となり、大学や民間企業と連携して研究が行われてきました。

廃水を使って実験を行ったところ、省エネや発電効果により消費電力を大幅に削減出来ることが確認されたのです。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の環境部・環境化学グループの永渕 弘人さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「通常の活性汚泥法とほぼ同等の処理能力が観測されております。」

「電力の消費で考えますと、8割削減を超えるようなデータが得られているということでございます。」

「期待以上の成果が得られているということです。」

 

ちなみに、下水処理場で使われる電力は年間約70億kWhで、これは国内で消費される電力の約0.7%にあたるといいます。

渡邉教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「今の話は生活廃水の下水処理の話だったんですけれども、廃水っていうのは工場からも沢山出て来ていて、その処理にもやはり活性汚泥法が主に使われているんですね。」

「そのために必要な電力量っていうのは下水よりも多いと言われています。」

「それを含めると1%から数%くらいの電気が産業廃水も含めた廃水処理に使われていると現在言われていますね。」

「(酸素を使わない微生物を廃水処理に使えないかという問いに対して、)酸素の代わりに何か別な化合物を入れなきゃいけないとか、結局コストがすごくかかってしまうということになりますね。」

「電極はそのまま置いておけば、永久に電子を排出して更にエネルギーも取れるということで微生物燃料電池が期待されているということになります。」

 

更に、微生物燃料電池を使うことである枯渇資源が回収出来るようになると期待されています。

それはリンで、化学肥料として広く使われていますが、日本ではほぼ全てを輸入に頼っています。

そんな中、岐阜大学が“発電菌”を使ってリンを回収することに世界で初めて成功したのです。

研究を行っているのが、岐阜大学 流域圏科学研究センターの廣岡 佳弥子准教授です。

養豚場で豚の尿や糞の入った廃水を使います。

これを微生物燃料電池に入れて発電を行うと、プラス極に粉のようなものが付着します。

これこそがリンを含んだリン酸マグネシウムアンモニウムという物質です。

実は、養豚廃水にはマグネシウムやアンモニア、そしてリンが大量に溶けています。

“発電菌”が発電を始めるとマイナス極の周辺が酸性に、そしてプラス極の周辺がアルカリ性になることが知られています。

リン酸マグネシウムアンモニウムはアルカリ性で結晶化する性質があるため、プラス極に出てきたのです。

廣岡准教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「新しいことを自分たちが発見出来たということが信じられないということもあって、本当に自分たちが見つけたんだというのがものすごくうれしかったです。」

 

微生物燃料電池を使うことでエネルギー問題と資源問題の両方を解決出来ると期待されているのです。

廃水処理して発電してリンまで回収するということは、まさに“一石三鳥”です。

渡邉教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「岐阜大学のグループは実際の養豚廃水を使っているんですよね。」

「それでリンとかアンモニアとかマグネシウムの濃度が非常に高いものだったので、それが電極の裏で回収出来たということを発見して、非常に期待されている研究の一つになっていますね。」

「(微生物燃料電池は太陽光発電や風力発電と比べてどういうメリットがあるかという問いに対して、)微生物燃料電池の特徴は、廃水や廃棄物をエネルギーに変えることが出来るというもので、そういうものがある所にうまく集められれば、一定の発電量を出せたりとかあまり気候に影響しないとか。」

「特に国土が狭い日本は、その割に人口が多いわけじゃないですか。」

「そうすると廃棄物も沢山出てくるということで、廃棄物系のバイオマスの価値が結構高い国なんですね。」

「そういうところでは、微生物燃料電池は魅力のある新エネルギーと考えられるのではないかと考えています。」

「(私たちの家庭でも使えそうかという問いに対して、)家庭からですと、出てくる廃棄物系バイオマスで、例えば生ごみであるとかトイレの廃水であるとかその総燃料エネルギー量を計算したとして、多分家で使う電力の1割にもならないくらいということじゃないかと思いますね。」

「だから、例えばマンションであるとかそういう集合住宅で各家庭から生ごみとかを集めてその処理に微生物燃料電池を使って電気を作りましょうという方法にすると、例えば玄関であるとか街灯の電気をつけるとかそういう利用はあり得るんじゃないかと思いますね。」

「(微生物の世界はすごく奥が深そうであることに対して、)田んぼの土の中を例にいうと、我々が培養出来る種類の微生物というのは0.1%かそれ以下とか言われていて、そういうこともあった未だいろんな有用な微生物でまだまだ分かってない代謝をするような微生物が土の中には沢山いるし、そういうものを探すっていうのは微生物学者の一つのロマンっていうんですかね。」

「そういうことは今後もすごく興味がありますね。」

 

以上、番組を通して、微生物燃料電池の問題と解決策についてご紹介してきました。

 

“発電菌”の生態を一から見直すことから“発電菌”の抱える問題を解決したこと、そして養豚場で豚の尿や糞の入った廃水の利用について、あらためてアイデアは既存の要素の組み合わせであり、アイデアは見つけるものであるということを思い出しました。

エネルギー問題と資源問題の両方を解決出来ると期待されている微生物燃料電池ですが、未だいろんな有用な微生物でまだまだ分かってない代謝をするような微生物が沢山いるというのですから、これからも発見の連続が続くと思われます。

 

ということで、微生物燃料電池がこれからも発展を続け、エネルギー問題解決の大きな柱の一つに成長して欲しいと思います。


 
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