2016年07月05日
アイデアよもやま話 No.3434 パナマ文書から見えてきたこと その2 パナマ文書の衝撃!

つい最近までパナマ文書が世界的に大きな話題となっていました。

そこで、パナマ文書関連について、3つのテレビ番組を通して3回にわたってご紹介します。

1回目は課税逃れの実態についてご紹介しました。

2回目は、1回目の内容と一部重複しますが、パナマ文書の衝撃についてです。

 

4月20日(水)放送の「クローズアップ現代」(NHK総合テレビ)で「パナマ文書の衝撃」をテーマに取り上げていたのでご紹介します。

 

わずか1%の人たちに世界の富の半分が集中する現代、富裕層が増々豊かになるその実態が浮かび上がってきました。

パナマ文書は世界の権力者やその家族が行ってきた資産運用の実態を明らかにしました。

世界の主要国で一般庶民の税負担が年々重くなっている中、一部の特権階級が租税回避地、いわゆるタックスヘイブンを利用して隠れた資産運用を行い、富を築いてきたことがパナマ文書によって明らかになりました。

 

今回、渦中のパナマの法律事務所、モサック・ファンセカの過去40年分の内部情報がパナマ文書として流出し、世界中からジャーナリストが殺到しています。

この法律事務所は、世界の富裕層の税金対策を手助けしてきました。

税金が極めて低いパナマや近隣の国や地域、タックスヘイブンに会社を設立、そこに富裕層の資産を移すことで税金を安く抑えます。

更に、資産の所有者を秘密にして欲しいという要望があれば、代理人を立て、名義を代えていました。

この40年でタックスヘイブンに設立した会社は21万社にのぼります。

 

法律事務所の創設者は、地元テレビに出演、自分たちの活動は飽くまで法律に則ったものだと主張しました。

モサック・ファンセカの共同代表であるラモン・フォンセカさんは、地元テレビ番組の中で次のようにおっしゃっています。

「国家元首であろうが貧しい人であろうが、タックスヘイブンに会社をつくる権利があります。」

「我々がつくった会社が悪用されたら残念ですが、我々の責任ではありません。」

 

パナマ文書を調査しているICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)には世界中から400人の記者が参加し、隠れた資産運用の実態を追求しています。

ICIJの記者、ウイル・フィッツギボンさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「まだまだ新しい事実を見つけ出しているジャーナリストがいます。」

「今後、何ヵ月経ってもパナマ文書の記事は出続けるでしょう。」

 

ICIJの調査によって名前があがった一人がロシアのプーチン大統領です。

パナマ文書からプーチン大統領に近い人物の疑惑が次々と浮かび上がってきました。

著名なチェロ奏者、セイゲイ・ロルドゥーギンさんは、プーチン大統領とはで学生時代からの友人で、娘の名付け親になるほど親密な関係でした。

このロルドゥーギンさんのオフショア取引を指摘した疑惑について、プーチン大統領はアメリカ当局が関与した謀略だと主張しました。

しかし、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)によると、ロルドゥーギンさんは音楽家としては桁違いの2000億円にのぼる資産の運用に関わっていたといいます。

 

以下は、ICIJが明らかにした資産運用の実態です。

ロルドゥーギンさんはパナマの法律事務所を通じ、タックスヘイブンのバージン諸島などに複数のペーパーカンパニーを所有していました。

2007年、この会社はロシア最大の鉄鋼会社の社長を通じ600万ドル(約6億円)の借り入れを行いました。

しかし、求められた返済額はわずか1ドルでした。

他にも株を買う契約をした直後に相手が契約を破棄、違約金という名目で多額のお金を受け取っていたケースもありました。

こうした手口で2000億円の資金を運用していたとICIJは指摘しています。

これに対し、プーチン大統領は関わりを全面否定しています。

プーチン大統領の周辺には他にも疑惑の人物が浮かび上がっています。

子どもの頃から柔道仲間だった実業家です。

更に、プーチン大統領の古くからの友人である銀行家、彼らが設立したペーパーカンパニーには、国が運営に関わる銀行などから巨額の資金が流れ込んでいた疑惑がもたれています。

それを友人たちの間で頻繁に移動させ、どのような資金だったのか分からなくしていたのではないかと指摘されています。

 

ICIJの記者、ウイル・フィッツギボンさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「パナマ文書は権力者たちが庶民に隠したい真実を明らかにしたのです。」

「お金や政治力があるからといって、これは許されるべきでしょうか。」

「それが問われなければならないのです。」

 

また、タックスヘイブンについての著述もあるジャーナリスト、池上 彰さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「本当に史上最大のリークと言ってもいいと思うんですよね。」

「よく世の中は1%の金持ちと99%に分かれているって言い方してますね。」

「でもその1%って言われている人の中に、本当にこういうかたちで税金を払おうとしていない人たちがいたんだっていうことが本当に証拠として突き付けられたわけですよね。」

「これは今までいろいろ言われてましたけど、本当にエビデンス(証拠)が出たわけですから、これは衝撃ですよね。」

「これまではみんなそこはかとなく格差社会だよねって思っていたわけですけど、それが本当なんだなっていうことが分かり、これは何らかの法律的な取り組みによって防ぐことが出来るんじゃないか、それをやるべきだっていうことが多分国際世論としてこれから出てくるでしょうし、それはこれからのサミットだったりG20だったり、そこで世界で話し合われることになっていくでしょうね。」

 

「(ICIJでの400人のジャーナリストの取り組みについて、)これはまさにグローバルでお金の流れって世界中に自由に動いているでしょ。」

「それによって世界経済が発展している部分もありますから、そのお金が国境を超えていくこと自体は防ぐことが出来ないし、それは活発にやっていいと思うんですね。」

「ところが悪意を持ったお金もまた国境を終えて動いていく。」

「それに対して、報道機関はやはりそれぞれの国境を超えることが出来なかったわけですね。」

「ところが、こうやって世界中の報道機関が協力してやるということは、つまりこれからは報道機関も国境を超えてグローバルな流れの中で様々な犯罪を見つけこれを報道していく、そういうことが可能なんだってことを私たちに示してくれたと思うんですね。」

 

また、租税法が専門の青山学院大学の学長、三木 義一さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「(タックスヘイブンを使った隠れた資産運用は合法なのか違法なのかという問いに対して、)少なくとも直ちに違法とは言えませんよね。」

「タックスヘイブンそれ自体も悪でもないし、ただ税金が安い仕組みを作っている地域であるに過ぎないわけです。」

「ただ、おかしいのはなぜわざわざそういうところに法人を作り、また更にその上に法人を作り、また更に作り、というようなことをやっているわけです。」

「その一つ一つは違法とは言えないけど、どう考えても普通の人は出来ませんよね。」

「そういう普通の人は出来ない異常な行為を通じてどうも税負担を減らしているようですね。」

「そういうものを一般に租税回避って言うんですね。」

「それを政府の偉い人たちがおやりになっていたっていうことが今回明らかになったわけですね。」

「そうすると、私たちの社会がだいぶ危なくなってきているんですね。」

「私たちは民主主義の仕組みの中で税制についても選挙などでこういう税にしようよって決めますよね。」

「ところが決めて、さあ負担して下さいって言ったら、負担しなきゃいけない人たちが国境を利用して逃げちゃう。」

「そういうものが公然と行われ始めているわけですね、これが明らかになった。」

「すると、私たちが今生活している民主主義社会自体が非常に危うくなっているという状況になっていますね。」

 

「(今回はパナマの一事務所から文書が流出しただけでこれだけ世界で大きな影響が出ており、タックスヘイブンと呼ばれる場所はパナマ以外にも沢山あるが、隠れた資産運用の実態はどなっているのかという問いに対して、)それが分からないわけですよ。」

「一部だけがようやく出てきた。」

「しかもパナマという一つの国の第4位くらいの法律事務所のデータが出ただけで、これだけになっているわけです。」

「ですから、全世界的にどれだけのことが行われているか、これは分からないですね。」

 

「(今回のパナマ文書と日本の企業や個人との係わりはどうなっているのかという問いに対して、)」このパナマ文書ではまだ400程度しか明らかになっていません。」

「ただ法人などを使った場合、日本人がどのように関係しているかまだ分かりませんのでこれからいろいろ出てくると思います。」

「いずれにしても、パナマの一つの文書だけでこれだけ400もやっているわけですよね。」

「で、ケイマン諸島などには日本が既に61兆円くらいの投資があるわけですから、そういうのも考えると日本人もどの程度関係しているか、これは我々分かんないですね。」

 

さて、今回ICIJによると、パナマ文書のリーク元となったパナマの法律事務所にとっての最大の市場は中国でした。

パナマ文書によって中国でも最高権力者、習 近平国家主席の姉の夫がタックスヘイブンの企業のオーナーになっていることが明らかになりました。

腐敗の撲滅を掲げてきた習主席ですが、パナマ文書で名前があがった姉の夫は香港にある高級マンションの一室をその娘が設立した会社が所有しています。

習主席とのつながりはあるのか、中国の人々も高い関心を寄せていますが、厳しい情報統制が敷かれています。

中国の検索サイトで「パナマ文書」と入力しても閲覧出来ませんでした。

そんな中、人々はなんとか情報を引き出そうと「姉の夫」で検索、その回数は3日間で13万件に達しました。

しかしその後、「姉の夫」さえも規制されました。

こうした状況について、神田外国語大学の興梠 一郎教授は次のようにおっしゃっています。

「(習主席は)腐敗撲滅運動を先頭に立ってやっている人ですから、それはやっぱり徹底的に封鎖しないと彼の政権運営に関わりますしね。」

「これからもダンマリを通すっていうかね、議論させない、議論しない、これが終わるのを待つ。っていう。」

 

パナマ文書の報道をきっかけに、アイスランドでは首相が、そしてスペインでも閣僚が辞任に追い込まれるに至りました。

イギリスではこれまでタックスヘイブンなどの問題に対して厳しい姿勢を取ってきたキャメロン首相自身に疑惑が浮かび、国民の怒りが高まっています。

リーマンショック以降、社会保障が削減される一方で消費税が増税されています。

国民の不満はタックスヘイブンで利益を上げていた指導者に向かっているのです。

 

パナマ文書はロンドン中心部の不動産売買の実態を明らかにしました。

政治家や企業の資産隠しを告発してきた市民団体のジョージ・ターナーさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「この辺りに見えるほとんどの建物は海外の会社に買われています。」

 

これまでこうした会社は実質的に誰のものなのかが分かりませんでしたが、パナマ文書で詳細が明らかになったのです。

ロンドン中心部の多くの不動産が世界各国の首脳や親族が係わるタックスヘイブンの会社によって購入されていたのです。

ICIJによると、アラブ首長国連邦のハリファ大統領が係わる会社がロンドンで購入した不動産は日本円で総額1兆8000億円に上ります。

一方、ロンドンの1部屋10億円の高級マンションは、パキスタンのシャリーフ首相の娘の会社が4つの部屋を所有していることが明らかになりました。

この辺りの住宅は夜になると人影はほとんどなく、家の明かりも点いていません。

住むためではなく、会社名義の不動産にして投資することが目的だと見られています。

ジョージ・ターナーさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「住居として使われていません。」

「夜が真っ暗なのも単なる金庫だからです。」

 

海外から大量の資金が流れ込んできた結果、ロンドンの不動産価格は高騰を続けています。

この10年でおよそ2倍に跳ね上がりました。

市民にとってロンドンで家を持つことは増々難しくなっています。

ロンドン市民は番組のインタビューでそれぞれ次のように答えています。

「この辺りにも新しいマンションが建てられていますが、最低でも1億5000万円で、近くで働いているけど買えません。」

 

「これまでロンドンに何世代も住んできた人たちも追い出されています。」

「私たちは今、不安で仕方ありません。」

 

さて、以下はNHKの松木 昭博ロンドン支局長による解説です。

タックスヘイブンで運用されていた富裕層の資金がロンドンに流れ込んで不動産の高騰の一因になっているという驚くべき実態がパナマ文書によって明らかになったのです。

この事実は、持つ者と持たざる者との格差や不公平感を拡大させています。

その流れに世界の首脳や親族が課税を逃れながら加担してきたというわけですから、怒りは収まりません。

海外からの活発な資金の流入はイギリス経済を支え、ロンドンを世界の金融センターにしてきました。

しかし、その発展の恩恵は必ずしも一般市民には還元されていません。

 

この問題が明らかになった後の世論調査では、キャメロン首相が首相に相応しいかという支持率は17ポイント下がって32%まで低下しました。

ただ、取引に違法性は確認されておらず、辞任にまで至る可能性は今のところ高くはないといいます。

キャメロン首相は失った信頼を取り戻そうと、タックスヘイブンの企業の情報開示を進めるなど課税逃れの対策を強化しようとしています。

世界の資金を吸い寄せてきたロンドンの不動産や金融取引の透明性をどこまで高められるのか、世界の金融をリードしてきたイギリスの国のあり方が問われています。

 

以上、松木ロンドン支局長による解説でした。

 

今回の問題を受けて、国連や世界銀行などの国際機関が連携して課税逃れへの対応の強化を打ち出しましたが、こうした状況について青山学院大学の学長、三木さんは次のようにおっしゃっています。

「こういう国際社会の対抗策っていうのは、これまでもOECDを中心にいろんな規制が行われてきたんです。」

「しかし、その都度新しいスキームが生み出されて、また逃げていく、でまたそれを規制する。」

「そういういたちごっこがずうっと続いてきているんですね。」

「ですから、今回の問題を受けていろいろ情報公開をもっと進めるとかいろんな提案が出ていますが、またそれを逃れる手がいろいろ出てくるだろうと思いますね。」

「ですから、そろそろいたちごっこよりももっと積極的に国際社会はこういう富裕者が行っている金融取引に課税をしていくような方向に行くべきだろうと思っています。」

「庶民が取引する消費税ではなくて、富裕者が行っている金融取引に課税するという発想に転換すべきではないかなあと個人的に思いますね。」

 

「(今、1%の人たちに世界の富の半分が集中していて、増々その格差が広がっている中で、今回パナマ文書がこれだけ衝撃を与えているが、あらためて突き付けていることは何かという問いに対して、)今、資本主義諸国はこぞって法人税率の引き下げをやっていますが、そんなことをやっている時期ではないんじゃないかと思いますね。」

「つまり、資本主義社会というのはどうしても格差が生み出されるんですよね。」

「それを税制を通じて縮小して安定した社会を築いていくのが資本主義社会における税制の役割なんですよ。」

「ところが、その税制が全く機能しなくなっている。」

「このままいくと、資本主義社会は大丈夫ですかっていうのが今問われ始めていると。」

 

以上、番組の内容を長々とご紹介してきましたが、私なりに要点を以下に整理してみました。

・世界には多くのタックスヘイブンと呼ばれる国々や地域が存在している

・その中で、今回はたまたまパナマ文書というかたちでタックスヘイブンの実態の一部が明らかになった

・タックスヘイブンを使った隠れた資産運用は違法ではない

・世界の富裕層によるタックスヘイブンを利用した資産運用により、富裕層は増々豊かになり、格差が拡大しており、その結果世界のわずか1%の人たちに世界の富の半分が集中している

・こうしたタックスヘイブンの利用者の中には国家元首など世界の権力者やその家族も含まれている

・こうした状況に、真面目に納税している人たちは税負担の不公平感を強く感じている

・ロンドンの不動産価格の上昇に見られるように、タックスヘイブンを利用して得られた資金の一部が世界的な投資に向けられ、その結果一般庶民の暮らしに影響を及ぼしている

・こうしたタックスヘイブン問題の対策は国際的に進められてきているが、その都度新しいスキームが生み出されていたちごっこ状態が続いている

・そこで、富裕者が行っている金融取引に課税するという発想に転換すべきという意見が出ている

・資本主義社会ではどうしても格差が生み出されるので、それを税制を通じて縮小して安定した社会を築いていくのが資本主義社会における税制の役割である

・ところが、タックスヘイブンの存在によりその税制が全く機能しなくなっている

・このままいくと、資本主義社会が崩壊する危険性をはらんでいる

 

それにしても、世界中のわずか1%の人たちに世界の富の半分が集中しているという現実は人類全体の暮らしのアンバランスを感じます。

ちなみに、別な統計によれば、OECD(経済協力開発機構)の2015年の調査によると。先進国で所得が多い上位1割の富裕層と、下位1割の貧困層の所得格差は10倍近くとなり、1980年代の7倍から拡大しています。(6月28日(火)付け読売新聞朝刊記事より)

ですから、先進国の中でも格差社会が進んでいるのです。

しかも、適切な対策が実施されなければ、この傾向は増々拡大していくことは明らかです。

 

さて、私が強く感じるのは、No.2400 ちょっと一休み その375 『資産家がお金を貯め込むだけでは罪!』でもお伝えしたようにお金は有効に使ってこそ価値があるのです。

庶民感覚からかけ離れた大金を投入したマネーゲームや大金を銀行に貯め込んでいるだけでは人道的な観点から罪だと思うのです。

 

こうした観点からも、タックスヘイブンは二重の意味で、不正ではなくても人類全体の幸福追求の方向性にはそぐわない排除されるべき対象だと思うのです。


 
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