2016年07月03日
No.3432 ちょっと一休み その549 『気になる超未来の地球とは その6 地球の究極の未来』

誰でも超未来の地球とはどんな状態になっているかとても気になると思います。

そうした中、3月17日(木)放送の「コズミック フロント☆NEXT」(NHKBSプレミアム)のテーマは「地球 超未来への旅」でしたので6回にわたってご紹介します。

6回目は、地球の究極の未来についてです。

 

2015年、ノーベル物理学賞を受賞した東京大学宇宙線研究所の梶田 隆章所長はニュートリノに質量があることを観測によって証明しました。

この発見のきっかけは別の実験を行っている時に得られました。

その別の実験の目的こそ地球の寿命の予測につながり得るものでした。

実験装置があるのは岐阜県飛騨市にある研究施設のトンネルの奥、地下1000mのところです。

ニュートリノを観測した巨大な装置、スーパーカミオカンデです。

スーパーカミオカンデの巨大水槽、壁には1万個の光センサーが取り付けられています。

ニュートリノが水の分子と衝突して発する光を捕え、大発見につなげました。

 

さて、当初予定していた目的ですが、その答えはスーパーカミオカンデの前身の施設、神岡地下観測所のパンフレットにありました。

タイトルには「陽子崩壊の観測」と書かれています。

陽子は原子を構成する粒子の一つです。

酸素には8個、水素には1個の陽子が含まれています。

陽子はとても安定しているため、通常変化することはありません。

ところが最新の理論では、陽子は自ら崩壊すると予測されています。

その結果、陽子は1個の陽電子と2個の光子に分かれるといいます。

これが陽子崩壊という現象です。

陽子崩壊が起こることは、元素の種類が変わることを意味します。

例えば、8個の陽子を持つ酸素が崩壊すると、7個の陽子を持つ窒素原子に変わります。

崩壊が進むと、最終的には陽子1個の水素原子に変化、更に最後の陽子が崩壊すると原子は消えてしまいます。

東京大学宇宙線研究所の塩澤 眞人教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「全ての陽子は素粒子に壊れてしまう。」

「後に残るのは、原子だったり光であったり、ずっと宇宙を漂っているというかたちになると思いますね。」

「我々人間でも地球でも銀河でもそうですね、永遠ではないということは帰結として出てきますね。」

「つまり、全ての陽子はいつかは壊れてなくなってしまうと。」

「そういったことで、全ての万物はいつかは消えてなくなってしまう。」

「だから宇宙には終わりがある、未来永劫安定ではないということは言えると思いますね。」

 

地球も無数の陽子から構成されているため、やがて陽子崩壊によって小さな粒子や光子に変わっていきます。

つまり、地球は長い時間をかけて萎んでいきます。

そして、最後の陽子が崩壊した時、物体としての地球は完全に消滅してしまうのです。

 

陽子崩壊の観測は新しい物理学の理論を証明することから多くの研究者が期待しています。

スーパーカミオカンデに対する期待の大きさを示すものがあります。

研究者たちが残した寄せ書きです。

そのうちのお一人、2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部 陽一郎さん(1921〜2015)は1984年11月16日に次の英文メッセージを残されています。

 

Like the sleeping Beauty,I shall make up after a hundred years to see the Kamioka results on proton decay.

(和訳:カミオカンデにおける陽子崩壊の結果を見るために私は眠れる森の美女のごとく100年後にもう一度目覚めるだろう。)

 

スーパーカミオカンデでは24時間休みなく陽子が崩壊した時に発するかすかな光をモニターしています。

巨大水槽の中で陽子崩壊が起きると、崩壊によってできた光子と光子がリング状の青い光を発します。

リング状の青い光は同時に3つ、特定の角度で放出されます。

つまり、3つのリングがセンサーで確認出来れば、陽子崩壊が起きたことを意味します。

では、陽子崩壊はどのくらい時間が経つと起きるのでしょうか。

陽子を沢山集めれば短期間で寿命を求めることが出来るといいます。

物質の寿命は科学的には半減期と呼ばれています。

ある物質の半減期が1000年の場合、早く消滅するものや長く残るものもありますが、1000年後には半分になります。

減っていくペースを数学的に表すと、右下がりの放射線状になり、1年後には物質の数は全体の1000分の1減っていることになります。

つまり、1000個の物質を集めて1年後に1個減れば、半減期は1000年と計算出来ます。

半減期の長い陽子の場合、もっと多くが必要です。

スーパーカミオカンデにある水の陽子の数は10の33乗個、もし1年に1回陽子崩壊が起きれば、半減期は10の33乗年と割り出せます。

10年以上も観測を行っていますが、まだ陽子崩壊は起きていません。

そのため半減期は少なくとも10の34乗年以上あることがが分かりました。

 

10の34乗年はちょっと実感が湧かないほどの長い年数です。

アメリカ、ミシガン大学のフレッド・アダムス教授は、途方もない時間を実感するため、ある例えを考え出しました。

アダムスさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「目で見て分かり易くするため、10億年を1cmで表してみます。」

「地球は誕生してから45億年なので長さにすると5cmほどです。」

「陽子崩壊の影響が現れるのは、今から10の34乗年以上経った時のことです。

「この時間はとてつもない長い時間です。」

「10億年を1cmに例えると、その距離は1000万光年になります。」

「地球から230万光年離れたアンドロメダ銀河の更に4倍以上の距離です。」

「1cmを10億年に置き換えると、陽子崩壊が起きる10の34乗年後は地球を飛び出し、太陽系を超えて、銀河系も超えてアンドロメダ銀河も超える1000万光年になります。

「今後、地球にはこれまでに経験したことのない様々な出来事が起こるでしょう。」

「宇宙はまだ幼少期にあります。」

「地球の進化もまだ始まったばかりなのです。」

 

このように、地球の一生は気の遠くなってしまうほど長いのです。

人類のスケールをはるかに超えた地球の超未来を知ることにどんな意味があるのでしょうか。

自分の専門分野を離れ、超未来の姿を思索する宇宙物理学者がいます。

自然科学研究機構の機構長、佐藤 勝彦さんです。

佐藤さんは1980年代に宇宙の最初に急膨張があったというインフレーション理論を提唱し、宇宙の誕生の解明に大きな役割を果たしてきました。

今、興味を抱いているのが宇宙と地球のはるかな未来です。

70歳を迎えた今も未来を知りたいという欲求が佐藤さんを突き動かしているのだといいます。

佐藤さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「私はこれまで宇宙の創生とか進化の理論を研究した者なんですね。」

「しかしですね、未来ということは論文にならないんだけどもやはり将来を知りたい、自分はこれからどうなるんだろうか知りたいと、この気持ちは人間なら誰でも持つことだと思うんですよね。」

 

佐藤さんは、超未来の宇宙を短編のSF小説「ビッグクランチからの脱出」に表しました。

ビッグバンから1999億年後、人類の記憶を宿した未来の生命体がかつての地球付近を旅する物語です。

佐藤さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「私たちは今何の役にも立たないような未来のことも知りたいんだと。」

「それが生命体として存在している我々の大きな理由じゃないかと思うんですね。」

「単なる人類の未来だけではなくって、更にこの世界そのものを知りたい、未来を知りたい。」

「そういうことで、私も1000億年後も1兆年後も生きたい、その運命を知りたい気持ちですよね。」

「やはり、想像することで更に自分の気持ちを広げていきたいと思っておりますね。」

 

100年以上前に地球の未来に思いを巡らせたH.G.ウェルズ(1866〜1946)が描いた未来は現代科学が予測するものととても似ていました。

現代の研究者たちもまた想像力と科学の知識で地球の遠い未来のことを考えています。

私たちはどこへ向かうのか、そして地球の未来は、人類の好奇心は果てしなく広がっています。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

誰もが地球の究極の未来について知りたいと思っていると思います。

そして、こうした人類の飽くなき“好奇心”が様々な発明に結びつき、あるいは芸術、文化を発展させてきたと思います。

また、天文学など様々な学問やテクノロジーを進化させてきたと思います。

ですから、“好奇心”は私たち人類の活動の原点、あるいは拠り所ではないかとあらためて思いました。

 

人類はどこまで進化し、どこまで生存しているか誰にも分かりません。

しかし、“宇宙の進化の生き証人”として、宇宙の寿命の尽きる時まで人類が存続してその時を見届けられたらとふと思いました。


 
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