2016年06月04日
プロジェクト管理と日常生活 No.439 『ヨーロッパを代表する知性の指摘する課題・リスクとその対応策 その2 無極化』

3月9日(水)放送の「BS1スペシャル」(NHKBS1)のテーマは「ジャック・アタリが語る 混迷ヨーロッパはどうなるのか?」でした。

統合を理念に掲げて統一を進めてきたヨーロッパは今激震に見舞われています。

中東から押し寄せる難民受け入れをめぐるEU内での意見の対立、ギリシャの経済危機を発端に統一通貨ユーロの問題、テロとの闘いなど、山積する問題に直面しています。

番組では、こうした問題や課題について、経済学者で思想家でもある、ヨーロッパを代表する知性のアタリさんが持論を展開されておりました。

そこで、番組を通して、アタリさんの指摘する課題やリスクとその対応策について4回にわたってご紹介します。

2回目は、無極化についてです。

 

前回ご紹介した人類のノマド化とともに世界が直面する課題として、アタリさんはもう一つの予測をしています。

それは超大国の覇権に変化が起こることです。

第二次世界大戦後、世界一の豊かさを誇ってきたアメリカに衰退の兆しが訪れています。

2007年に起きたサブプライムローンの破綻、それ以前からアタリさんはアメリカの経済的繁栄に転機が訪れると指摘しました。

アタリさんは、2009年のインタビューで次のようにおっしゃっています。

「今回の危機で既に始まっていますが、アメリカ支配の崩壊です。」

「勿論、アメリカそのものは残りますが、唯一の存在ではなくなります。」

「アメリカは、インフラ整備、水やエネルギーの確保、そして膨大な借金を返済するために世界から撤退するでしょう。」

「アメリカは内向きになってゆくのです。」

 

かつて超大国として湾岸戦争で世界各国を指揮したアメリカが軍事的なリーダーシップを取ることからも今大きく後退しています。

IS(イスラム国)に対する軍事作戦では空爆に加えて地上部隊の展開が欠かせません。

2014年9月、アメリカはシリアへの空爆を開始しました。

しかし、アメリカは大規模な地上部隊の派遣を否定し続けています。

 

こうした状況について、アタリさんは次のようにおっしゃっています。

(超大国アメリカの覇権が一段と弱くなり、世界が無極化しているが、今後世界情勢はどう変化していくのかという問いに対して)

「これまでヨーロッパには世界に目を向け、リーダーとなる国が常に存在していました。」

「イタリア、フランドル、オランダ、イギリス、アメリカ・・・」

「今日、日本はリーダーになることには関心がありません。」

「中国もそうです。」

「この先千年以上この状態が続くでしょう。」

「アメリカはもはや超大国ではなく、しかもその代わりはいないという事態です。」

「今は、ある大国が弱体化する中、その後を継ぐ国がないという状況です。」

「そうした事態は過去一度しかありません。」

「ローマ帝国の終焉です。」

「3世紀末、ローマ帝国の末期にはどの国もローマ帝国の代わりにはなれませんでした。」

「混沌とした時代が10世紀も続きます。」

「そこでは誰もがローマ人の価値観のままでした。」

「宗教、言語、身なりなどです。」

「けれどもリーダーとなる国は現れない。」

「現在の状況とまるで同じです。」

「もはや超大国は存在しません。」

「でも誰もがアメリカ人のような暮らしをしています。」

「しかし、誰もリーダーとして世界をけん引していないのです。」

「これは非常に危険な時期です。」

 

(超大国が存在しなくなり、無極化する世界の中で生き残るために、今各国のリーダーにはどのような資質が求められるかという問いに対して)

「お互いの状況を理解することがリーダーにとって重要です。」

「他者の成功は自己の成功の条件でもあるということです。」

「私はそれを“自己中心的な利他主義”と呼んでいます。」

「“利他主義”が自分の利益にもつながる、これは非常に重要な点です。」

 

さて、ここまで番組の内容をご紹介してきましたが、プロジェクト管理において、リーダーの存在がとても重要であるように、ある目的を持ったどんな組織においてもリーダーの存在は欠かせません。

例えば、何か問題が発生して解決のために緊急に判断を下さなければならない場合、リーダーの責任において決断しなければ組織の存続が危ぶまれるからです。

しかし、一方で、国際政治のように、多くの国々がそれぞれ自国の国益を最優先して渡り合う中では、アタリさんのおっしゃるように実質的なリーダー国の存在が重しになって様々な状況に対処していくことにより世界情勢のバランスが保たれるのです。

ですから、2014年のロシアによる武力でのクリミヤ併合や中国による南シナ海進出などは、まさに世界の実質的なリーダー国としての超大国、アメリカの衰退を表していると思われます。

 

こうしたリーダー不在となりつつある世界情勢において、アタリさんは各国リーダーの資質として“利他主義”を求められております。

こうした考え方はある意味で観念的であり、全ての国のリーダーが“利他主義”をベースに外交を進めることはとても困難に思えます。

というのは、いくら国のリーダーがこうした考え方を持ち合わせていても国民の意識は遠い将来の問題や課題、あるいはリスクよりも今直面している問題の解決や国益を重視する傾向が強いからです。

ですから、各国のリーダーが“利他主義”をベースに国際政治を展開するためには、まず国民の理解が求められるのです。

そういう意味で、アタリさんの指摘されているように、まずリーダーがお互いの状況を理解することが重要だと思いますが、それだけでは不十分なのです。

リーダーが自国民に対してこうした状況の説明責任を十分に果たすとともに、国民への十分な情報公開をすることが求められるのです。

 

更に、今世界が共通して抱えている問題として世界各国のリーダー、および国民が共通認識を持つべきものとして以下の4つが挙げられると私は思います。

1.地球環境問題

2.エネルギー問題

3.経済・金融問題

4.世界平和

 

そして、残念ながら必ずしも全ての国のリーダーがこうした問題に積極的に対応しているわけではありません。

しかし、一方で独裁国家においても支配者は国民の声を全く無視するわけにはいきません。

ですから、あらゆる手段を通して、各国の国民が正しい情報を入手出来るような状況を作り出すことがとても重要だと思います。

あらゆる国の国民の多くが本来進むべき方向性に目覚めて行動に移せば、必ずそうした方向へと世界は変わっていくのです。


 
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