2016年05月24日
アイデアよもやま話 No.3398 “アイデアエコノミー”が抱えるジレンマ!

5月11日(水)付けの日経BP社のネット記事で、アイデアエコノミーという耳慣れない言葉を目にしたのでご紹介します。

 

今や、電子部品のコモディティ(汎用品)化とモジュール(部品集約)化が進み、部材を購入し組み立てれば誰でもテレビ事業に参入出来るようになりました。

米国の液晶テレビメーカー、VIZIO(ビジオ)はその象徴といいます。

社内では商品企画だけを手掛け、電子部品は台湾や韓国から調達し、台湾企業に生産委託し、中国の工場で組み立て、米国で販売するのです。

これだけの業務をわずか100人ほどの社員でこなしています。

 

こうした事態は家電業界に限らず、斬新なアイデアをスピーディにサービス化し、市場を席巻するアイデアエコノミーと呼ばれる潮流が世界規模で進展しています。

前回もご紹介したタクシーを所有しない世界最大級のタクシー会社といわれるウーバーの台頭はその好例です。

 

要するに、これまでは素晴らしいアイデアがあっても、実用化には研究開発費、あるいは生産技術が高いハードルとなって断念せざるを得なかったのが、電子部品のコモディティ(汎用品)化とモジュール(部品集約)化、およびインターネット関連技術の活用により、誰でもアイデア次第で容易に新規参入出来る分野が増えてきた状況がアイデアエコノミーなのです。

 

一方、こうした経済を活性化させるインフラ、アイデアエコノミーにはリスクもあります。

実は、冒頭記事のタイトルに“アイデアエコノミーの恐怖”とあったように、既存の製造業やサービス業といった業界からすれば、従来に比べて圧倒的な低コストのアイデアエコノミーはまさに恐怖なのです。

同時に、これまでの業界の従業員の立場も危うくなります。

アイデアエコノミーは様々なテクノロジーを駆使することにより、結果的に徹底的な人手の削減をもたらすからです。

 

ですから、先進国の多くの企業にとって、アイデアエコノミーはまさに恐怖なのです。

しかし、一般消費者からすれば、アイデアエコノミーは低価格で提供してくれるのですから大歓迎です。

こうした状況の中で、従業員であると同時に消費者であるという一般の人たちは、低賃金、あるいは失業のリスクと低価格での商品やサービスの享受というジレンマを抱えてしまいます。

 

いずれにしても、アイデアエコノミーの流れを止めることは出来ません。

そして、これまで何度となくお伝えしてきたように、この流れはAI(人工知能)やロボット、あるいはIoT(Internet Of Things)と相まって今後ともどんどん加速していきます。

ですから、利便性を追求していくと同時に、何らかのかたちで雇用の確保を維持していかなければ、一部の人たちに安定した雇用が集中してしまい、格差社会は必然的に世界規模で増々広がってしまうのです。

 

これまでの歴史においても、産業革命のように新しい産業が誕生するたびに失業者が出てしまいました。

でも、そのたびに新しい産業による雇用創出でつじつま合わせ以上の雇用機会がもたらされ、その結果、多くの人たちが豊かな社会を享受出来てきました。

ところが、アイデアエコノミーの時代は、以下の点でこれまでとは大きく異なるのです。

・あまりにも変化が速すぎること

・雇用創出よりも失業者数の方が圧倒的に多いこと

 

ということで、アイデアエコノミーの時代は、一部のアイデア力のある人たち、あるいは産業界にとってはとても夢のある時代ですが、その他の多くの人たちにとっては仕事に就きにくい悪夢の時代になる可能性をはらんでいるのです。

そうならないためには、何らかの抜本的な対策が求められます。

有効な対策がなされなければ、いずれ格差社会の圧倒的に多くの弱者による反乱が起き、大きな社会不安をもたらすことは間違いありません。

いよいよ人類は、テクノロジーの進歩の極みにおける課題解決を迫られつつあるように思います。


 
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