以前、アイデアよもやま話 No.3382 ウーバーによるタクシー革命!でアメリカのウーバー・テクノロジーズが提供している、スマホを使った新たな配車サービス、ウーバー(Uber)が急速に台頭していることをお伝えしました。
そうした中、3月15日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でウーバーが過疎の町を救う可能性について取り上げていたのでご紹介します。
一般のドライバーがマイカーを使ってお客を運ぶライドシェアが世界中に広がっています。
その代表格とも言えるのが、アメリカ発祥のウーバーです。
ウーバーのライドシェアは世界各地のお客のニーズを集める一方で、タクシードライバーたちが仕事を奪われるとして抗議運動を起こしています。
日本ではこれまでライドシェアは認められてきませんでしたが、そこに変化が起き始めているようです。
京都の北に位置する京丹後市丹後町は人口5600人、65歳以上の高齢化率40%の過疎の町です。
この町に暮らす84歳の女性は、息子夫婦と同居していますが、昼間は一人でいることが多く、生活に苦労しているといいます。
電車は通ってなく、自宅から300m離れたバス停は坂の上なので交通の便が悪いというのです。
その上、バスは1時間以上の間隔での運行です。
かつて、町にあったタクシー会社は8年前に撤退しました。
なので、すぐにどこかに行きたくても我慢するしかないのです。
公共交通がほとんどないエリアは“交通空白地域”と呼ばれ、地方を中心に広がっています。
こうした町の状況を変えようと、立ち上がったのが地元のNPO法人「気張る!ふるさと丹後町」に勤める東
和彦さんです。
東さんは、ボランティア10人ほどと共に1年半前からコミュニティバスを運行しています。
しかし、市が提供した車両は1台だけです。
また、「どこでも行けるようにして欲しい」という声が沢山出ていました。
そこで、新たな取り組みがスタートしました。
東さんに協力するのはウーバージャパンです。
ウーバーの持つシステムを使い、4月からライドシェアを展開する予定です。
実は、日本でも“交通空白地域”に限り、ライドシェアは認められているのです。
ウーバージャパンの高橋 正巳社長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「今後、日本でこういった展開が重要になってくるのではないかと感じて、弊社の仕組みが新しいかたちで活かせるところに非常に可能性を感じましたし、・・・」
ある日、ウーバーのアプリを高齢者が使えるかテストが行われました。
テストに参加した78歳の男性も2つのボタンだけの操作に納得されていたようです。
タブレットやスマホで依頼すれば、1番近くを走る車がやってくる仕組みです。
運転手の自家用車を使うため、NPOは車両を購入する必要がありません。
なので、料金はタクシーの半額程度に設定されています。
しかも、クレジット決済なのでその場で支払う必要がありません。
また、今回運転手として名乗りを上げたのは、地元住民19名、利用者が支払う料金の約7割が収入になります。
名乗りを上げた中の一人、町民の男性(65歳)は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「基本的には無職、バイトは週3回、その合間を縫って何か出来れば、・・・」
また、別な町民の男性(43歳)は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「新聞販売業をしているんです。」
「日中空白の時間がありますので、・・・」
ウーバーはこの町だけでなく、富山県南砺市などからも同様の依頼を受け、ライドシェアを広げようとしています。
こうした状況について、ウーバージャパンの高橋社長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「それは我々としても非常にやりがいもありますし、今後いろんな展開が考えられる取り組みなので、どんどんチャレンジして取り組んでいきたいというふうに思っています。」
ウーバーが強気になる裏側には、安倍政権の後押しもありました。
3月11日、“交通空白地域”限定ですが、“訪日外国人向けライドシェア”のサービス解禁を認める方針が閣議決定されたのです。
ところが、それに対して猛反発しているのがタクシー業界です。
3月8日の反対集会、「全自交労連 ハイタク労働者総決起集会」にはおよそ2500人が集まりました。
全自交労連の伊藤 実中央執行委員長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「基本的に安倍政権はライドシェアを成長戦略として捉えているんですが、人命と成長を引き換える話じゃないと思うし、・・・」
「そこ(ライドシェア)にはアプリを提供するということでウーバーが介在しているわけですよ。」
「そうすると、いずれ外堀が埋まってくるんじゃないのかなと。」
「最終的には都市部に拡大していくっていうことを考えているでしょうし。」
労働組合は、タクシー用の免許を持たないドライバーが増えれば、事故が起きやすくなると主張しています。
また、丹後町のような“交通空白地域”のケースでもライドシェアには否定的です。
しかし、タクシー業界が一枚岩と言えない事実があります。
ウーバーは2014年、東京都内でスマホアプリを使った配車サービスを開始しました。
高級感のある車を格安で利用出来ると人気を集めています。
実は、こうしたサービスを支えているのが中小のタクシー会社なのです。
なぜ、批判の矛先であるウーバーと提携するのか、番組では提携企業の運転手に話を聴くことが出来ました。
「日本交通とか大和とか国際とかグループに所属すれば、それだけネームバリューでお客は乗ってくれるじゃないですか。」
「小さい会社は生き残っていくのが大変なんですよ。」
ウーバーを敵として見なし、ライドシェアの拡大を妨げたとしても、生き残っていくのは大手だけ、反対運動への見方は冷ややかです。
ライドシェアは近い将来、都市部まで広げる可能性があるのか、タクシー業界を所管する国土交通省・自動車局の坂井
英隆企画調整官は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「いわゆるライドシェアの提案というのは、何かあった時の責任は個々のドライバーの方が負うと。」
「安全安心の担保がなされてないので問題があると考えております。」
「全てが悪いと思っているわけではなくて、安全安心が確保されるかたちでサービスが提供される必要があるというふうに考えていると。」
ウーバーが展開するライドシェアは、事故などの責任をウーバーが取らず、ドライバーだけに背負わせるのが問題だと指摘します。
ただ、ウーバーの進出先は既に世界70ヵ国に広がり、日本人だけでなく、訪日外国人からも解禁を求める声が上がっています。
今後、ライドシェアはどこまで広がるのか、その行方が注目されます。
番組コメンテーターの、大和総研チーフエコノミスト、熊谷 亮丸さんは、次のようにコメントされております。
「基本的な方向性は、やはり拡大していくべきである。」
「これは過疎地への対応だとか、観光立国という、そういう観点からは拡大する必要があるわけですが、他方で日本の特殊性というのを一定程度配慮しないといけない。」
「一つは、日本の場合にはタクシーの質が非常に高くて、非常に普及している。」
「最近の稼働率で見ても、実車率が5割を切っていると言われていますから供給過剰で車が余っているわけですよね。」
「ですから、そのあたりを考えると、まずは地方で段階的、試験的に規制の緩和をやるということですが、都市部については、ここは例えば安全に対する規制の強化、もしくは既存の業者との競争条件に対する配慮、こういうことを考えて、かなりゆっくりと規制緩和することが必要なんじゃないかと思います。」
「まずは、実験的にゆっくりと過疎地でやるということですね。」
実際に過疎地においては電車やバスの便はよくありません。
一方、料金の高いタクシーは敬遠されがちです。
そうした“交通空白地域”における移動手段としてライドシェアはとても理に適っていると思います。
というのは、料金が安く、運転手が地元の方々であれば、安心して利用することが出来るからです。
更に、地元の範囲であれば、カーナビに頼らなくても運転手は最適ルートで目的地まで運転していけます。
また、安全については、自動ブレーキの標準装備車限定というように安全装備を義務付ければこれまでに比べて格段に事故を起こすリスクが低くなります。
また、副次効果として、ささやかではではありますが、ライドシェアの運転手という新たな職業を地元にもたらします。
ただし、まだ地元でタクシーが稼働しているところについては、タクシー会社との料金面などでの調整が必要になります。
ですが、こうした課題はライドシェアの世界的な普及に伴い、徐々に解決されていくと思われます。
こうした課題の解決策のキーポイントは、お客様である乗客の満足度向上が第一だからです。
ということで、国が今進めている“交通空白地域”限定でのライドシェアの取り組みには基本的に大賛成です。