2016年04月20日
アイデアよもやま話 No.3369 ”町工場”の逆襲!

大手メーカーが次々に製造拠点を人件費の安い海外へと移転していくのに伴い、下請け企業が仕事を失い、存続が危ぶまれている状況は以前から話題になっています。

そうした中、1月19日(火)放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)で「町工場の逆襲」をテーマに取り上げていました。

そこで、番組を通してこうした下請け企業の新たな取り組みについてご紹介します。

 

東京・墨田区は町工場がひしめく“ものづくり”の町です。

ところが、墨田区の町工場は、40年前には約9700軒ありましたが、2012年には約2800軒に減っています。

原因は、大手メーカーの製造拠点が次々に海外に移ったことです。

 

そうした中、今、日本の“ものづくり”を守ろうと、町工場を支援する動きが出てきました。

合言葉は“下請けからの脱却”です。

“ものづくり”のアイデアはあるけれど技術力がない会社、技術力はあるけれどアイデアがない会社、こうした会社にこれまでにない新しい製品を生み出してもらおうという試みです。

 

精密板金加工やプレス加工などを専門とする株式会社浜野製作所の浜野 慶一社長(53歳)は町工場の技術力を知ってもらうことで新たな取引先を開拓しようと「町工場の見学ツアー」を企画しました。

参加者の多くは、メーカーやベンチャー企業の社員などです。

新製品の開発に活かせる技術がないかと参加者はみな真剣です。

浜野社長は、このツアーへの取り組みについて番組の中で次のようにおっしゃっています。

「どんどん我々を取り巻く環境が変わってきて、中々この地域で仕事が成り立たなくなってきた。」

「何か新しいこの地域に適した活動をしていく・・・」

 

そんな浜野製作所が1年前に作った施設があります。

「ガレージスミダ」です。

ここは“ものづくり”のアイデアはあるけれど技術力がない人たちの相談を受ける施設です。

浜野製作所が中心となり、墨田区内の町工場と連携、必要な技術を支援しようというものです。

今、「ガレージスミダ」には次々と若者が訪れています。

こちらの施設では、若い企業では購入出来ないような高価な機械を使わせてもらえます。

「ガレージスミダ」の狙いについて、浜野社長は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ベンチャー企業が頑張って商品開発してもらえれば、我々もそれが仕事になりますし、地域の町工場に協力してもらって、モノを作っていますので、彼らの新しい商売にもなるということで、地域の町工場が元気になっていくような施設になればいいなと思っています。」

 

ここから誰もが驚く画期的な製品が生まれようとしています。

その中には、株式会社ホープフィールドで製作した電動ねこ車「E-cat kit」があります。

E-cat kit」に乗って農場に行き、働いて乗って帰ってくることが出来ます

 

そして今、ベンチャー企業の株式会社チャレナジーが「ガレージスミダ」を利用して製品開発しています。

社長の清水 敦史さん(36歳)が開発しているのは、実用化されれば世界初となる“夢の製品”といいます。

垂直軸型マグナス風力発電機、最大の特徴はプロペラが無いことです。

円筒翼と呼ばれる3本の棒を内蔵モーターで回転させます。

そこに風が当たると、風車全体が回り出し、発電する仕組みです。

マグナス効果という原理を利用したものです。

 

実は、一般的なプロペラ型風車は、微風では回転しづらく、十分に発電出来ません。

一方、強風では風車が過剰に回転してしまい、倒壊事故につながる危険性もあります。

そのため、強風の日にはプロペラが回らないよう停止させてしまい、発電が出来ません。

しかし、垂直軸型マグナス風力発電機は、原理上は微風でも強風でも発電出来るといいます。

 

元々、大手電機機器メーカー、キーエンスのエンジニアだった清水さんは、福島の原発事故を目の当たりにし、自然エネルギーに注目、新たな風力発電の研究を始めました。

2014年3月には、ベンチャー向けのビジネスコンテストで優勝、国の助成金も獲得しました。

それを機に、社を立ち上げた清水さんは、アイデアをかたちにするため「ガレージスミダ」の門をたたいたのです。

そして、2014年9月17日、いよいよ本格的な試作機を作り、実験を行うことになりました。

浜野製作所の職人たちにも参加してもらい、準備を進めました。

ところが、必要としていた部品の一つが注文していたメーカーにないことが分かりました。

すると、浜野製作所の職人たちが動き出し、新たにその部品を作ってくれたのです。

こうして、5日間を費やし、ようやく完成が見えてきました。

昨年10月16日、いよいよ墨田区内の施設を借りての実験が始まり、無事回転翼が回ることを確認出来ました。

昨年11月24日、東急建設技術研究所(相模原市)の施設を借り、いよいよ性能実験を行いました。

風洞実験を通して、試作機がどれだけ発電出来るのか、実用化に向けて大事なデータを取るのです。

この実験から1週間後、清水さんは沖縄県南城市にいました。

今年の夏、ここに試作機を設置し、実際の台風で実験することになったのです。

台風の被害が多い沖縄、清水さんたちの活動に共感した地元の企業がこの土地を使って欲しいと申し出てくれたのです。

清水さんは、夏に向け、町工場の職人たちと更に大きな試作機の開発を始めます。

清水さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「町工場の技術とか日本発の技術で、これまで災害だったものをエネルギーとして捉えられる、そういった世界に変えていきたいと思います。」

「必ず成功させます。」

 

なお、番組ではこの他にも、大小様々な大きさのバネで好きなかたちを作ることが出来る「スプリンク」という商品を開発した五光発條株式会社(横浜市)も取り上げていました。

バネのブロックとも言える「スプリンク」は、東急ハンズ新宿店の展示販売でもお客の関心を集めたようです。

五光発條は1971年に創業したバネの専門工場です。

自動車や医療関係のメーカーから仕事を請け負い、精密バネを呼ばれる小さなバネを作っています。

三代目社長の村井 秀敏さん(44歳)は、下請けとしてバネを作るだけではこの先厳しいと考え、初めて自社製品を開発したのです。

 

東京・渋谷区に村井さんが製品開発の際に通ったコンサルティング会社、株式会社enmono(エンモノ)があります。

元富士通の営業マン、三木 康司さんと自動車メーカーの元スズキのエンジニア、宇都宮 茂さんの二人が運営しています。

そんな二人が始めたのが「自社製品開発セミナー」です。

技術はあるものの、何を作ればいいかアイデアがない、そんな町工場など中小企業の経営者向けセミナーなのです。

ちなみに、その内容は、1日12時間の講義が4日間、製品の企画から販売戦略、原価計算などです。

 

実は、バネの村井さんもこのセミナーでアイデアが閃いたのです。

このセミナーからは、他にも次のような製品が生まれています。

どこからでも書類を自由に抜き差しするファイル(商品名:「NOUQUE」(ヌーケ))

精密プレス加工、株式会社キョーワハーツが開発

iPhone用アナログパイプスピーカー「商品名:「IBRASS」( アイブラス)」

  金属曲げ加工、株式会社ミナミ技研が開発

・足に装着することで座ったり歩いたり出来る椅子(商品名:「archelis(アルケリス)」(試作品))

  板金加工、株式会社ニットーが開発

・アルミの切削による欄間のコピー(初の自社製品による技術力のアピールが狙い)

  アルミの削り出し加工、株式会社フジタ(富山県高岡市)が開発

 

素晴らしいアイデアを持ったベンチャー企業があっても、ヒト・モノ・カネが十分でないので、アイデアをかたちにするには大変な困難が伴います。

そうした中で、「ガレージスミダ」のような存在は、夢を持ったベンチャー企業にとってとてもありがたい存在だと思います。

そして、こうした中には、画期的な製品を生み出す未来の大企業誕生の可能性を秘めているベンチャー企業もあるのです。

しかし一方で、過去の栄光を背負った大企業と言えども、いずれ時代の波から取り残されて衰退していく時が必ずやってきます。

 

ですから、常に企業活動が最大限に活発化した状態であるためには、こうした企業の新陳代謝を促すためのインフラが必要なのです。

そういう意味で、「ガレージスミダ」のような存在とともに、国や地方自治体がこのインフラ作りを主導するかどうかは別として、少なくともアイデア溢れるベンチャー企業が最大限に活躍し易いように時代と共に規制や支援のあり方の見直しをしていただきたいと思います。

一方、既存の下請け企業の中には、優れた技術力があってもアイデアがなく、独自の製品開発力が乏しいというのが現状のようです。

そういう意味で、下請け企業から独自のアイデアを引き出すコンサルティング会社、enmono(エンモノ)のような企業は貴重な存在だと思います。

 

取引先である大手メーカーの生産拠点の海外移転の流れを止めることは出来ません。

ですから、下請け企業が生き残るためには、これまで依存していた大手メーカーに頼らなくても大丈夫なような独自の生き残り戦略が必要なのです。

そうは言っても、中小企業が単独でアイデア力、技術力、販売力、資金力の全てを十分に備えているところはほとんどないと思います。

また、ビジネス環境はテクノロジーの発達に伴い、今後ともスピーディにどんどん変化していきます。

 

こうしてみてくると、企業規模に関係なく、それぞれの企業が必要とするアイデア力、技術力、販売力、あるいは資金力などを持った企業を容易に探し出せるようなマッチングサイトなどが必要であることが分かってきます。

こうした環境がきめ細かく整備されることによって、アイデア力のあるベンチャー企業の成長の可能性が高まると思うのです。


 
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