No.3360 ちょっと一休み その537 『日本は多民族国家!?』で、日本は多民族国家であるとお伝えしました。
そうしたところ、4月3日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ)で「日本人のルーツ発見! 〜“核DNA”が解き明かす縄文人〜」をテーマに取り上げていました。
そこで、2回にわたって“核DNA”が解き明かす縄文人についてご紹介します。
1回目は、縄文人の意外なルーツについてです。
今からおよそ1万6千年前、日本列島に暮らし始めた私たちのご先祖様がいました。
縄文人です。
縄文人はどこからやってきたのか、私たちとどんな関係があるのか、これまで謎の多かった縄文人の姿が今明らかになりつつあります。
その謎を解き明かすカギとなったのが“核DNA”です。
ほとんど残っていないと考えられていた縄文人の遺伝情報が発掘された骨から解読されているのです。
そこから見えてきたのは縄文人の意外なルーツです。
他のアジア人と比べると、遺伝的に大きく異なるというのです。
更に、縄文人の持つ意外な体質までも明らかになってきました。
縄文時代は今からおよそ1万6千年前から3千年前まで、およそ1万3千年にわたって続いていました。
主に狩猟採集の時代で、地理的には北海道から沖縄まで広く生活していたと考えられています。
今回、縄文人の“核DNA”の解析に初めて成功しました。
これまでも解析はされてきましたが、それはDNAのほんの一部でした。
一般的に、DNAは核の中にあるDNA、すなわち“核DNA”を指しています。
ところが、これまで分析されてきたのはミトコンドリアという器官の中にあるDNAなのです。
1つの細胞の中に数百から数千ありますが、ミトコンドリアDNAの塩基は約1万6千、それに対して“核DNA”の塩基は約30億個もあります。
ということは、情報量の多い“核DNA”の解析が出来れば、謎に迫ることが出来ますが、ミトコンドリアと違って、核は細胞の中に1個しかないので残りにくく、解析も難しいのです。
ところが今回、技術革新によって縄文人の“核DNA”の解析に成功したのです。
2014年、縄文人の“核DNA”の解析に初めて成功した研究チームのリーダーは、国立遺伝学研究所の斎藤
成也教授です。
これまで古代人のミトコンドリアDNAの分析などから日本人のルーツに迫ってきました。
斎藤さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「この貴重な縄文人の骨があるんだから、今までのようなミトコンドリアDNAだけではなくて、核のDNAも是非やりたいと思っていたわけですね。」
生命の設計図、DNAはあらゆる細胞の核の中に存在しています。
DNAを構成するのは、延々と並ぶ4種類の物質、塩基と呼ばれ、A,T,G,Cの4つで表されます。
DNAは、生きている人であれば、唾液などから大量に採取することが出来ます。
しかし、古代の人の場合は、骨に残されたDNAを使うしかありません。
ところが、その多くは分解が進み、ほとんど残っていないため、分析出来る可能性は極めて低いと考えられていました。
そこで、斎藤さんは縄文人の“核DNA”を解析するため、ある作戦を立てました。
全国各地にある縄文遺跡の中でも骨が多く残っている場所、その中でもDNAが分解されずに残っている可能性の高い、寒冷な地域に狙いを定めたのです。
こうして選ばれたのが福島県三貫地貝塚です。
1950年代に発掘された三貫地貝塚は、今からおよそ3千年前の縄文遺跡です。
狙いは、外気に触れることなく守られた歯の内部、そこでツヤがあり、保存状態の良い奥歯に絞りました。
こうして、最終的に成人男女二人の歯からDNAを取り出し、様々な困難の末に“核DNA”を取り出すことに成功したのです。
番組ゲストの国立科学博物館人類研究部長、篠田 謙一さんは、次のように解説されています。
ミトコンドリアDNAは母方のDNA情報だけを受け継ぎますが、“核DNA”は両親から受け継いでいるので、私たち一人の体の中には沢山いる祖先のDNAがみんな入ってきているということになります。
ですから、ミトコンドリアDNAを調べても、ある一つのルートを調べるだけなんですけども、“核DNA”を調べると、私たちの体の中に入っている様々な先祖のDNAを調べることが出来るのです。
さて、縄文時代が終わって弥生時代になると、大陸から渡来系弥生人と呼ばれる人たちが日本に渡って来ました。
そこで、私たちは縄文人と渡来系弥生人の子孫ではないかとこれまで考えられてきました。
そういったことも“核DNA”を調べるとはっきり分かるのです。
しかし、今回、解析に成功した縄文人と違い、渡来系弥生人のDNAは未だ解析されていません。
そこで、これら東アジアの人々のDNAデータを渡来系弥生人に見立てて分析を行いました。
現代の東アジアの人たち500人の遺伝的な特徴を2次元にプロットしてみると、私たち現代日本人(本州)は、他の大陸の国の人たちから少し離れたところに位置付けられます。
この意味するところは、縄文人のDNAを持っているからだろうと推察されています。
実際に、縄文人のDNAをプロットしてみると、日本人から更に離れたところに位置していることから、縄文人のDNAがあるから私たち現代日本人は大陸の人たちから離れているということになるのです。
ですから、縄文人と渡来系弥生人が混血して今の私たちが出来上がっているというのです。
ここにプロットした縄文人の“核DNA”のうち1万ヵ所以上を調べたので、この1万ヵ所のどのくらいが縄文人と現代日本人が共通なのかを調べると、私たちが縄文人からどのくらいのDNAを受け取っているかが分かってきます。
およそ20%のDNAが縄文人から私たち現代日本人につながっているといいます。
更に、縄文人のDNAから縄文人がどこからやってきたかということまで分かるのです。
20万年前、アフリカで誕生し、世界中に移動して行った人類、この中にアジアに向かった集団がいました。
その後、この集団、原アジア人は大きく東南アジア人の祖先となる集団と東アジア人の祖先となる集団に分かれたと考えられています。
渡来系弥生人は、東アジア人から別れ、日本列島にやってきました。
しかし、縄文人がどうやって来たのか謎が残っていました。
これまで骨の形態からは東南アジア人に近いとされていましたが、別の解析からは更に北方の人々に近いという説も出ていました。
どちらに起源があるかは論争が続いていたのです。
斎藤さんは、今回縄文人のDNAを分析、すると驚きの結果が出たのです。
縄文人は、東南アジア人と東アジア人が分岐するよりも前に、アジアの共通祖先から分岐していたのです。
縄文人は、より古い時代に日本列島にやって来て、独自の道を歩んだ可能性もあるというのです。
斎藤さんは、縄文人はユーラシアのどこから来たのかも分からなくなったので、また振り出しに戻ったと考えています。
今回の番組を通して、縄文人のルーツに対する謎が深まってきている様子をうかがい知ることが出来ました。
一方で、縄文人に対してロマンを感じます。
いったい、アフリカから世界中に移動を始めた人類が縄文人として日本に定住するようになるまでどのようなプロセスがあったのでしょうか。
また、“核DNA”の中に、今を生きる私たち一人一人の中に人類誕生以来のそれぞれの歴史が刻み込まれていることを思うと、とても不思議な気持ちになってきます。