これまで、よく日本は単一民族国家と言われてきました。
大和民族が人口の大多数を占める、一民族、一国家、一言語というわけです。
そうした中、2月14日(日)放送(昨年12月27日(日)放送の再放送)の「教科書が変わる!?日本人のルーツをさぐる」(NHK総合テレビ)で日本人のルーツをめぐる壮大な謎について取り上げていました。
そこで、日本人のルーツに焦点を当ててご紹介します。
沖縄県石垣島、その一角に研究者たちを驚かす白保竿根田原洞穴遺跡があります。
2013年に開港した新石垣空港、建設に伴う調査で、古いものでおよそ2万年前の旧石器時代の人骨が発掘されたのです。
旧石器時代と言えば、日本列島に人類が住み始めた時代です。
これほど大昔の人骨が見つかることは日本では奇跡に近いことなのです。
日本列島には、旧石器時代の遺跡が1万ヵ所以上もあります。
ところが、人骨が見つかっているのは、沖縄県の他には静岡県で骨の一部が見つかっているだけです。
その理由は、日本列島の大半を覆う土の性質にあります。
太古の昔から火山列島だった日本は、酸性の火山灰で分厚く覆われています。
なので、地中に埋まった骨は数百年もすると、酸で溶かされてなくなってしまうのです。
では、なぜ沖縄では大昔の人骨が溶けずに残っているのか、その秘密は沖縄のあちこちにある琉球石灰岩です。
琉球石灰岩は、もともと海底のサンゴだったものです。
石灰岩はアルカリ性、これが土壌の酸を中和してくれるのです。
また、静岡県の貝塚の貝もアルカリ性なので人骨が見つかっているのです。
そうした中、富山県の北陸新幹線の高架の真下から、新幹線の建設前におよそ6000年前の縄文時代の91体もの人骨がほとんど全身揃い、しかも良い状態で発掘されたのです。
縄文時代と言えば、私たちの先祖が日本各地に定住し始めた頃です。
その秘密は、人骨が発掘された現場の環境にあるといいます。
この現場近くには縄文時代の人たちが貝殻を捨てていた小竹貝塚があるのです。
貝殻の成分もサンゴの石灰岩と同じアルカリ性、そのお蔭で土壌の酸が中和されたのです。
さて、驚いたことに、人骨の骨や歯の中心部分からDNAを取り出すことが出来、そこに記された大量の遺伝情報を最新技術で読み取ることにより、これらの骨の持ち主のご先祖様のルーツが明らかになったというのです。
番組ゲストの国立科学博物館 人類研究部長の篠田 謙一さんは、次のようにおっしゃっています。
「DNAは安定な化学物質なんですね。」
「ですから、ある条件が整えばそれなりに長い時間保存出来るということが分かっています。」
「特にこの4、5年なんですけど、分析そのものの技術も相当進んで来てるんですね。」
「現在では、一番古い人骨ですと、40万年くらい前の人骨からDNAが取られています。」
「(40万年くらい前というと、)原人と呼ばれています。」
そもそも私たちは父と母の両方からDNAを受け継ぎます。
中には、母親からそのまま受け継ぐ特別なDNA、すなわちミトコンドリアDNAがあります。
私たち人類はおよそ20万年前、アフリカで誕生しました。
その最初の母親のミトコンドリアDNAが子孫に受け継がれ、世界に広がっていきます。
実はその間、DNAの遺伝情報が時折変化するような状況が起きました。
すると、そのたびに世界各地に違ったタイプのミトコンドリアDNAを持つ人が現れます。
ということは、富山県で発掘された人骨から取り出されたミトコンドリアDNAのタイプを調べると、それが世界のどこで最初に現れたタイプか分かるのです。
それが母方のルーツと推定出来るのです。
実際に、富山県で発掘された91体の人骨の中でDNA分析出来たのは、13体でした。
その13体の人骨から5つのタイプのミトコンドリアDNAが発見されました。
この5つのタイプがどこで誕生したかを調べた結果は以下の通りです。
A :北アジア(バイカル湖周辺)
G :ロシア・シベリア周辺
M9 :南方(日本とチベットに分かれる)
M7a:沖縄周辺(現在の沖縄の4人に1人)
N9b:富山県小竹貝塚で一番多く出た
こうした状況について、篠田さんは、次のようにおっしゃっています。
「縄文人のルーツを考える時に、今まで割と狭い地域からわぁっとやって来てというふうに考えていたんですけども、どうも縄文人て一言で言っても相当いろんなところから恐らく入って来て、北の方の人、南の方の人、そういう人が日本列島の中で会ったんだと。」
日本人全体を調べると、現代日本人のミトコンドリアDNAはおよそ20タイプがあるといいます。
そして、日本人の33%はD4のタイプといいます。
ただし、これらのタイプも細かく分けることが出来ます。
例えば、D4は更に縄文時代、そして弥生時代に日本列島に入ってきた人とに分けることが出来ます。
そして、原始的な生活をしていた縄文人と後からやって来た、農耕文明の弥生人と争いをしなかったことがDNAタイプの多様性を生んでいると考えられています。
さて、このように見てくると、元を正せば、日本は多民族国家であることが分かります。
ミトコンドリアDNAのタイプから分かるように、日本は決して単一民族国家ではないのです。
更に、世界的な視点で見れば、No.441
ちょっと一休み その54 『人類皆兄弟!』 でもお伝えしたように、“人類皆兄弟”なのです。
ですから、こうした観点からすると、現在の民族間の争いも長い人類の歴史から見れば、遠い親戚同士の争いということになります。
私たちは地球上のどこの住んでいようと、皆近かれ、遠かれ、元を正せば、どこかでつながっている親戚、すなわち“人類皆兄弟”なのです。
こうした意識を世界中のより多くの人たちが持つことによって、多少なりとも紛争の芽を取り除くことにつながるのではないかを思います。