2016年03月26日
プロジェクト管理と日常生活 No.429 『福島第一原発事故から5年 その2 根拠のはっきりしない廃炉計画』

福島第一原発事故から5年、先日来、様々な角度から関連記事が各種報道により取り上げられております。

そこで、4回にわたってプロジェクト管理の観点から原発関連の問題点についてお伝えしたいと思います。

2回目は、根拠のはっきりしない福島第一原発の廃炉計画についてです。

 

3月9日(木)放送の「時論公論」(NHK総合テレビ)のテーマは「東日本大震災5年  試練続く福島原発 廃炉への道」(水野 倫之NHK解説委員)でした。

そこで、まず番組を通して根拠のはっきりしない廃炉計画に焦点を当てて以下にご紹介します。

 

前回お伝えした廃炉作業を困難にしている変更管理の不備とともに根拠がはっきりしないのが事故から40年で廃炉を完了させる計画です。

廃炉は建屋を解体後、放射性廃棄物を処分して完了します。

廃炉作業に伴って敷地内には毎月数千トンずつ放射性廃棄物が溜まり続けていますが、最も量が多いのが防護服です。

毎日数千着が捨てられ、コンテナ6万6千個分が敷地内のいたる所に積み上げられています。

保管場所の確保も難しくなることから、東電(東京電力)は焼却設備を建設し、今月中には本格運転に入る計画です。

しかし、燃やしても放射性の灰は残り、ドラム缶に入れて敷地内に保管しなければならず、処分方法は決まっていません。

放射性廃棄物の中には枝葉など火災につながるものも多く、管理するにもかなりの労力が必要です。

そして、最も厄介なものの一つが高濃度汚染水を処理した後のフィルター類です。

62種類の放射性物質が吸着しているため濃度が極めて高く、放射線を遮るステンレス製の容器のまま敷地の一角にトレーラーで集められ、ラックに仮置きされています。

まだスペースはありますが、毎年1千本ずつ増えていく見通しで、処分出来る目途はありません。

工程表では、こうした廃棄物の処分について来年基本的な考えを出す方針が示されていますが、処分のための安全基準作りもまだこれからです。

5年後の2021年に溶けた燃料の取り出しに着手し、35年後の2054年には廃棄物も処分して廃炉が完了出来るというのはとても根拠がある計画には見えないと指摘しています。

東電は以前から容易に事態の深刻さを認めようとせず、見通しの甘いところがあります。

汚染水処理が技術的に難しいにも係わらず、安倍総理に短期間での処理を約束し、工程厳守のあまり昨年作業員の死亡事故が起きて、作業全体が遅れることになりました。

 

そして、先月も事故から2ヵ月間認めようとしなかった炉心溶融(メルトダウン)について、今になって判断基準を示したマニュアルが見つかり、事故から3日後には判断出来たことを明らかにしました。

当時、放射線量から見てもメルトダウンは明らかでしたが、東電は過小評価したと言われても仕方ない炉心損傷と言い続けていました。

早くからメルトダウンと発表していれば、より深刻さが伝わり、社内だけでなく関係機関の対応も変わっていたかもしれません。

 

こうした失敗を繰り返さないためにも、まずは厳しい現実を直視しなければなりません。

そして、時間はかかっても安全第一に着実に廃炉していけるように廃炉計画達成に向けた詳しい道筋とその根拠を示す必要があります。

そして、それが難しい場合には、速やかに実態に合った計画に見直す柔軟さも求められます。

 

廃炉作業はいつまでに目途がつくのかはいまだ避難を強いられている人たちの帰還の判断にも影響します。

廃炉の本当の困難はこれからです。

政府や東電はトラブル情報は勿論、現場は今どうなっていて見通しはどうなのか、本当のところを説明し、理解を得ながら廃炉作業を進めていかなければなりません。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

前回お伝えした廃炉作業を困難にしている変更管理の不備だけでなく、東電はドキュメント管理も不備があったようです。

事故から2ヵ月間認めようとしなかったメルトダウンについて、先月になって判断基準を示したマニュアルが見つかり、事故から3日後には判断出来たことを明らかにしたというのですから、東電は未だに“安全神話”から抜け出しているとは思えません。

 

そして最も重大なことは、水野解説委員も指摘されているように、現実を直視せず、見通しが甘いという東電の体質です。

こうした体質が改善されない限り、計画通りの廃炉計画の進行は期待出来ません。

 

プロジェクト管理の原点は現状把握です。

現状の把握が不十分であったり、現状を誤って把握していれば、それをベースにした計画も危ういものとなります。

是非、東電にはこうした基本に立ち返って廃炉計画を進めていただきたいと思います。

 

私は、福島第一原発事故の前に東電本社に伺って、第一線の担当者の方にいろいろと質問させていただいとことがあります。

事前に私の質問ポイントをお伝えしていたところ、私が理解し易い様にわざわざ図表を描いて下さっており、感激したことを今でも覚えています。

ですから、私の存じ上げている東電の現場の方々は、とても親切で有能であるという印象を持っています。

 

ですから、組織の風通しが良くなり、顧客志向が徹底されれば、東電の組織全体が変わり、きっと顧客からの信頼を回復出来ると私は期待しております。


 
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