2016年03月20日
No.3342 ちょっと一休み その534 『地球温暖化の新たな危機 その4 海の酸性化による生物の異変』

これまで地球温暖化関連については何度となくお伝えしてきました。

そうした中、1月10日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ東京)で「地球温暖化の新たな危機! 海洋酸性化」をテーマに取り上げていたので5回にわたってご紹介します。

4回目は、海の酸性化による生物の異変についてです。

 

前回、CO2吸収で進む海の酸性化についてお伝えしましたが、海の酸性化が進むと大気中のCO2が増える以外にも問題があるといいます。

弘前大学理工学部地球環境学科の野尻 幸宏教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

海洋酸性化の問題は気温上昇の問題と並んで地球温暖化の双子の問題と言われています。」

「その2つは同時に進行していきます。」

「で、そのために今、世界の地球温暖化に係る研究者が最も注目を集めている課題の一つです。」

「海水というのは元々アルカリ性でして、現在のpHが8.1の弱アルカリ性です。」

「しかし、これは既に産業革命以前のpH8.2と比べると、0.1低下してしまったというのが現在の状態です。」

「海水のpHが0.1下がるということは、海水の酸性度の指標である水素イオン濃度に換算すると(産業革命前に比べて)3割増えたということになります。」

「(このまま)十分な対策が取られない場合には今世紀末にはpHは0.3程度下がってpH7.8ぐらいに至ります。」

「これは先の水素イオン濃度に換算すると(現在の)約2倍になります。」

 

海が酸性化することで深刻な影響を受ける生物がいます。

それはサンゴです。

酸性化の影響で将来サンゴが生息出来なくなるかもしれないというのです。

サンゴは海の中にあるカルシウムイオンと炭酸イオンが反応して出来る炭酸カルシウムで骨格を作っています。

しかし、海にCO2が溶け込むとその一部が炭酸イオンと反応し、炭酸水素イオンに変わっていきます。

そのため炭酸イオンが減っていき、サンゴの骨格になる炭酸カルシウムが作られにくくなってしまうのです。

 

国立環境研究所の山野 博哉博士は、日本の近海で酸性化が進んだ場合のサンゴの生息域をシミュレーションしました。

CO2の排出がこのまま続けば、海水温の上昇と酸性化の影響によってサンゴが生息出来ない海域が次第に広がり、2070年代には遂に日本の近海から姿を消してしまう可能性があるといいます。

山野博士は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「正直なところ、非常に驚きました。」

「ここまで気候変動の影響が大きいとは全く予想しておりませんでした。」

 

また、弘前大学の野尻教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「世界で見ても、100年後までにはサンゴ礁の形成に適当な海が激減するというふうに言われています。」

「pHが7.8以下になるとサンゴ礁形成に悪影響ということが分かってきています。」

「そういうことで、このままCO2の排出が続けば今世紀末にはこの話が現実になるという可能性があります。」

 

そして、土屋NHK解説委員は、次のようにおっしゃっています。

「世界の海で暮らしている生物種のうち4分の1がサンゴ礁で暮らしているんですよ。」

「ですから、その生息域が失われてしまうというのは大変なことですよ。」

 

酸性化によるサンゴ礁への影響が分かる貴重な場所が見つかりました。

伊豆諸島の式根島の沿岸のpHは8.1という平均的な海域でサンゴが生息しています。

ところが、少し離れた海域では火山活動により海底から泡のようにCO2が湧き出ています。

このあたりのpHは6.9〜7.8で、世界ではパプアニューギニアの海域など6ヵ所でしか見つかっておらず、かなり珍しい場所といいます。

なので、本来この辺りには沢山生息しているはずのサンゴが見当たらないのです。

更に、貝類もほとんどいないといいます。

弘前大学の野尻教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「私たちの研究グループでは、いろいろな海洋生物に海洋酸性化の影響が出るのかどうか、実験的に研究しています。」

「ウニの例では、現在のpH8.1で飼育したウニと今世紀中に予想されるようなpH7.9で飼育したウニの幼生の大きさを比較すると、腕の長さが短くなるというようなことが分かってきました。」

「従って、これは今後近い将来に予想される酸性化でも生物に影響が出るということを示しています。」

 

なお、過去にも大規模な海洋酸性化が起きたことがあるといいます。

2億5000万年前と6500万年前に海洋生物の大量絶滅があったということが知られています。

その原因については、火山性のCO2の大量排出、あるいは隕石の衝突とか、いくつかの原因で海洋酸性化が起きたと推定されています。

6500万年前というと、隕石の衝突で恐竜が絶滅した時代といわれていますが、その時期に海洋生物も大量絶滅したその中身を調べてみると、炭酸カルシウムを作るような生き物に一番強い影響が現れているということで、海洋酸性化の影響による大量絶滅ではないかと疑われています。

 

海の酸性化がウニの生息に影響を及ぼしており、世界の海で暮らしている生物種のうち4分の1はサンゴ礁で暮らしているというのです。

ですから、ウニが生息出来なくなるということは、多くの生物種の生存も危うくなってしまいます。

過去の同様な状況は、火山の爆発や隕石の衝突というような天災が原因でもたらされましたが、今起きていく海の酸性化は明らかに私たち人類の活動が原因なのです。

このことを私たち人類は重く受け止めなければならないのです。

 

次回の5回目は、海洋酸性化による食物連鎖への影響についてお伝えします。


 
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