以前から地球環境保持のような地球規模の課題については、一部の国だけでの対応には限界があると思っていました。
また、リーマンショックなどを引き起こして世界経済を混乱させてきたマネーゲームが実態経済に影響を与えないようにするための有効な対策はないのかとも思っていました。
そうした中、1月14日(木)放送の「視点・論点」(NHK総合テレビ)で「地球規模課題とグローバル・タックス」をテーマに取り上げていたのでご紹介します。
なお、今回の論者は横浜市立大学の上村 雄彦教授です。
1秒間にサッカーのフィールド1つ分が消えている森林破壊、6秒間に1人の子どもが飢餓や栄養失調で亡くなっている飢餓・貧困問題、その他に温暖化問題や格差問題など地球規模の課題は一般に知られているよりはるかに深刻です。
こうした地球規模の課題を解決する方法として、今国際社会で盛んに議論されているグローバル・タックスという新しい処方箋があります。
地球規模の問題が起こっている要因はたくさんありますが、少なくとも次の3つの要因はおさえておく必要があるといいます。
一つは、グローバル化の進展とともに、大金を株、債券、通貨などに投資し、売値と買値の差額で儲けるマネーゲーム経済がとてつもなく膨張していることです。
2012年、マネーゲーム経済はおよそ10京2100兆円となり、実体経済の12倍にも達しました。
マネーゲーム経済の目的は短期的な利益をあげることですが、国も、企業も、マネーゲーム経済に逆らうことは出来ません。
なぜならこれに逆らうと、国債が売られ国は経済破綻、株が売られ企業は倒産するからです。従って、国も企業も、環境を破壊しようが、労働者の人権を踏みにじろうが、儲け続けなければなりません。
そのような膨張しすぎた金融は抑制しないといけません。
しかし、世界を動かしているのはマネーゲーム経済で儲けている少数の1%の金持ちです。
最後に、巨額の資金不足があります。
地球規模課題を解決するためには、貧困対策、保健、教育などに38兆円、途上国の気候変動対策に96兆円、合計で年間130兆円以上の資金が必要です。
しかし、世界の政府開発援助をすべて足しても18兆円、温暖化に流れている民間資金も23兆円程度です。
このように、膨張したマネーゲーム経済、1%の支配、巨額の資金不足を解決することなしに、地球規模問題の解決は難しいと言わざるを得ません。
そこで登場するのがグローバル・タックスです。
これは、言うならば、グローバル化した地球社会を一つの「国」とみなし、地球規模で税制を敷くことです。
そして、その議論は大きく3つに分けられます。
まずは「漏れを防ぐこと」、すなわちタックス・ヘイブン対策です。
タックス・ヘイブンとは、「そこにお金をもっていけば、税金がかからない国や地域のこと」ですが、タックス・ヘイブンに秘匿されている資金は実に2520兆円〜3840兆円に上ります。
このような不透明なお金の流れを透明にし、税金の漏れがないようにするのが最初の議論です。
次に、実際に税金をかける議論です。
この観点から捉えると、グローバル・タックスは「グローバルな資産や国境を超える活動に税金をかけ、悪い活動を抑制しながら、税収を地球規模課題の解決に充てる税制」といえます。
最後に、税金をかけ、お金を集め、使うための仕組みを創る議論があります。
このように、グローバル・タックスは3つの議論がありますが、2つ目の課税の議論をする時に、よく「グローバル連帯税」とか「国際連帯税」という言葉を用います。
グローバル・タックスには、大きく3つの効果があります。
まず、大きな資金を創ることです。
さまざまなグローバル・タックスの税収をすべて合計すると、理論上、実に300兆円近い税収が得られます。
これは地球規模問題を解決するために必要な資金の2倍以上の額になります。
次に、税金には政策効果があります。
たとえば、地球炭素税では、エネルギーを使えば使うほど税金がかかるので、なるべく使用を減らそうとしたり、金融取引税では、取引をすればするほど費用がかかるので、投機的な取引は抑制されます。
最後に、地球社会の運営の民主化です。
いまの少数の強者や強国によって運営され、大多数の弱者や小国の意見はあまり反映されない地球の運営が、もっと民主的な運営に変わる可能性があります。
なぜなら、現在の国際機関は各国から出される拠出金を財源としているので加盟国で物事が決定されますが、グローバル・タックスを財源とする国際機関は、より多様で多くの人びとの意見を反映しなければならない運命にあるからです。
このように、グローバル・タックスは、巨額の税収、政策効果、地球社会の運営の民主化という大きな可能性を秘められています。
「確かにいい話かもしれないけれど、実現は無理では」と思われるかもしれません。
しかし、実は、すでに一部では航空券連帯税という形で実現しています。
飛行機に乗ることの出来る豊かな人々に課税し、貧しい人々に再分配するグローバル・タックスです。
フランス、チリ、韓国など14カ国が実施しています。
フランスの場合、フランスを飛び立つすべての国際線の乗客にファースト・ビジネスクラスの場合は約5000円、エコノミークラスには500円の税金をかけます。
税収は、UNITAIDとよばれる国際機関の財源となり、UNITAIDは連帯税という安定した財源を用いて、HIV/AIDS、結核、マラリアの薬を大量かつ長期的に購入することで、薬の値段を劇的に下げ、これまで治療を受けることができなかった途上国の貧しい人々が治療を受けることを可能にしています。
いまやHIV/AIDSの10人中8人の子どもたちが、UNITAIDのサポートで治療を受けることが出来るようになっています。
フランスや韓国に行かれた方はこのようなかたちで国際貢献をしているのです。
今、最も注目を集めているのが金融取引税です。
もしこれを主要な国々が実施すれば、マネーゲーム経済を抑えながら、年間80兆円近い税収が上がると試算されています。
勿論、金融業界の抵抗がありますから、そんなものはしょせん「夢物語」だと考えられてきました。
しかし、歴史が動きました。
昨年、フランス、ドイツ、イタリア、スペインなど10カ国が金融取引税を実施することで大筋合意し、6月の最終合意をめざして現在最終段階に入っています。
日本においても、2008年に「国際連帯税創設を求める議員連盟」が立ち上がり、2009年には、国会議員、研究者、NGO、業界、そして外務省、財務省、金融庁、環境省をオブザーバーとするグローバル連帯税推進協議会が創設されました。
協議会は、日本政府に対して、まずは航空券連帯税を実施し、続いてヨーロッパと協調しながら金融取引税を導入するよう提言を行っています。
そして、税収は地球規模課題の解決に使うとともに、一部はエボラ熱など感染症が日本に入ってくるのを水際で止めるためのインフラ整備に使うよう提案しています。
地球規模課題が深刻化する今こそ、これまでになかった新しい考え方が必要です。
それがグローバル・タックスです。
実現は難しいと思われていたグローバル・タックスですが、現在実現に向けて動いています。
今年は5月に日本でG7伊勢志摩サミットが開催されます。
その時に、グローバル・タックスという有望な処方箋を提示し、G7各国が導入するように導いていくことこそ、日本がとるべき本当のリーダーシップだと思います。
そのためにも、私たちはグローバル・タックスの意義を知り、実現を働きかけていくことが大切だと考えます。
以上、横浜市立大学の上村教授による地球規模課題とグローバル・タックスについての説明をご紹介してきました。
マネーゲームにより一瞬にして大金を手にする人たちがいる一方で、どんなに働いても年収が200万円前後の非正規労働者がいたり、あるいはマネーゲームにより実体経済が翻弄されて何年もの間その影響に苦しむという社会はどう見ても健全な社会とは言えません。
そうした中、地球環境問題やタックス・ヘイブン問題、マネーゲームによる影響の抑制、あるいは格差問題の解決につながるグローバル・タックスというアイデアはとても素晴らしいと思います。
なので、是非今年は5月に開催予定の日本でG7伊勢志摩サミットをグローバル・タックスの国際的な導入の突破口にして欲しいと思います。