2016年03月06日
No.3330 ちょっと一休み その532 『地球温暖化の新たな危機 その2 海の熱吸収機能の異変』

これまで地球温暖化関連については何度となくお伝えしてきました。

そうした中、1月10日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ東京)で「地球温暖化の新たな危機! 海洋酸性化」をテーマに取り上げていたので5回にわたってご紹介します。

2回目は、海の熱吸収機能の異変についてです。

 

前回、海には地球温暖化を左右する大きな役割があるとお伝えしましたが、今、その海に異変が起きているのです。

昨年9月、イギリスの気象庁が衝撃的なレポートを発表しました。

ここ10年あまり安定していた気温が再び上昇傾向に変わり、地球温暖化が急速に進む可能性を示したのです。

実は、地球上では温暖化が進んでいるとされながら、気温に変化が表れない期間が続いていました。

ところが、2年前から突然上昇傾向に転じたのです。

その理由について、気象庁の石原 幸司調査官は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「原因の1つとしては、2014年夏から続いております大規模なエルニーニョ現象があったと考えております。」

 

エルニーニョ現象とは太平洋の赤道付近で海面水温が平年より高くなる現象です。

この現象は1年ほど続き、気温が上昇することが知られています。

ところが、今回の気温上昇には更に大きな海の変化が係っていると考えられるのです。

それが太平洋で10年周期で起こる海面水温の変動です。

2000年から2012年にかけての太平洋の海面水温パターンは、太平洋の中央部以西が平年より高く、アメリカ大陸付近では低くなっています。

ところが最近、2014年から逆に太平洋の中央部以西が平年より低く、アメリカ大陸付近では高くなっています。

このように海面水温のパターンはおよそ10年の周期で変化します。

この現象を太平洋10年規模振動(PDO)と言います。

これまでの観測から最近のようなパターンになった時に気温が上昇傾向になることが知られています。

 

海面水温のパターンが気温上昇に影響するのはなぜなのか、その理由について、東京大学大気海洋研究所(千葉県柏市)の渡部 雅浩准教授は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「PDOのパターンが2000年から2012年の状態から2014年以降の状態に反転しますと、それまで海洋の少し深いところに熱が運ばれていたものが運ばれにくくなります。」

 

まだメカニズムは解明されていませんが、2000年から2012年までのようなパターンの時は、大気の熱が海に取り込まれる傾向が強くなることが分かっています。

このお蔭で10年あまりの間気温上昇が抑えられていたと考えられています。

海による熱の吸収が弱まり、海面水温が上がれば連動して気温も上昇します。

今の状況が続けば、世界の平均気温は今後も最高の値を更新し続けると考えられています。

土屋 敏之NHK解説委員は、次のようにおっしゃっています。

「気温の上昇というのは停滞する時期と急激に上がる時期が繰り返しながら、でも長期的には上がり続けていくという状況なのです。」

「(100年で1℃くらいの上昇で危険なのかという問いに対して、)なんとなく実感がないんですけども、そのわずかな変化が大きな影響をもたらすんですよ。」

「例えば、今既に産業革命前に比べて世界の平均気温は1℃くらい上昇していると見られているんですけども、それに伴って例えば世界のいろいろな山岳地帯にあった氷河が消え始めています。」

「で、これが更に1℃ぐらい上がるだけでも極端な気象現象、例えばハリケーンですとか干ばつとかそう言ったものがもっと極端に深刻化すると見られています。」

「それが更に4℃上昇ということになると、世界的な食糧危機だったり、沢山の生物が絶滅してしまうという恐れもあります。」

「ですから、COP21(パリで開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で決まった中で、産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えるように努力するということも盛り込まれているんです。」

「(既に産業革命前から1℃上がってしまっているので今後0.5℃以内に抑えるのは可能なのかという問いに対して、)率直に言って非常に難しいと思います。」

「というのはCOP21に向けて世界各国がこれだけ削減しますと言う目標を出しているんですが、それを全部達成したとしても3℃くらいは上昇してしまうだろうと計算されているんです。」

 

今回ご紹介したように、自然の摂理として海面水温のパターンがあり、周期的に世界の平均気温も上下しています。

ところが、豊かさを追求し続ける私たち人類の活動が今や自然の摂理を破壊し、海の熱吸収機能に異変をもたらすまでに至っているのです。

そして、COP21で出された世界各国の目標を全て達成しても3℃くらいまで上昇してしまうという危機的な状況に私たち人類は置かれているのです。

ですから、今を生きている私たち人類はこうした状況に対してもっともっと危機感を持つべきだと思うのです。

 

次回の3回目は、CO2吸収で進む海の酸性化についてお伝えします。


 
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