昨年12月22日(火)付け読売新聞の夕刊記事のタイトル記事に思わず目を見張りました。
これまで何度となく繰り返し「持続可能な社会」の必要性についてお伝えしてきましたが、教育界でも「持続可能性」に関する教育の必要性が問われてきたのです。
そこで、あらためてネット検索してみたら、「持続可能性」に関わる教育については、ESD(Education for Sustainable Development)という言い方が世界的に普及してきているというのです。
今、世界には環境、貧困、人権、平和、開発といった様々な問題があります。
ESDとは、これらの現代社会の課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことにより、それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと、そしてそれによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動だといいます。
つまり、ESDは持続可能な社会づくりの担い手を育む教育なのです。
なお、ESDは、長年にわたり持続可能な開発において重要な役割を担っていると認識されてきました。
教育の向上及び再方向付けは、既に1992年にリオデジャネイロ(ブラジル)で開催された国連環境開発会議にて採択されたアジェンダ21の目標の一つであり、その第36章では「教育、意識啓発及び訓練の推進」について示しています。
持続可能な開発へ向けた教育の再方向付けは、2002年のヨハネスブルグ(南アフリカ共和国)の持続可能な開発に関する世界首脳会議の後に宣言された国連持続可能な開発のための教育の10年(2005〜2014年)の下、多くの取組の焦点となりました。
さらに教育は国連気候変動枠組条約(1992年)及び生物多様性条約(1992年)、国連砂漠化対処条約(1994年)という、重要ないわゆるリオ3条約の要素といいます。
私はこれまで何度となく「持続可能な社会」の必要性についてお伝えしてきましたが、その主な観点は地球環境とエネルギーについてでした。
でも、考えてみれば、本来世界中の人たちが地球に優しく、自分たちも心地よく日々を暮らせるような「持続可能な社会」とは、地球環境やエネルギーの問題の解決のみならず、地域の持続可能性、貧困の解消、人権の尊重、福祉の充実、平和の維持といった要件も満たされなくてはならないのです。
読売新聞の記事から、ESDの具体的な取り組みの一例として、オーストラリアで推進している気候変動に関する環境プロジェクトの開発と実践について以下にご紹介します。
このプロジェクトでは、小学5年から中学3年までの子どもたちを対象として、自然の観察と研究から開始し(第1ステージ)、観察研究を発表し合い(第2ステージ)、その観察研究に基づくカリキュラムを開発・実践・評価し(第3ステージ)、学習者のネットワークを形成し(第4ステージ)、気候変動に関する対話的な討論(第5ステージ)を行っています。
この5つのステージの循環によって、この学習プロジェクトは成功を収めてきたといいます。
では、日本におけるESDへの取り組みはどうでしょうか。
記事の中で、学習院大学の佐藤 学教授は、次のように訴えておられます。
福島第一原発の事故は、持続可能性が教育の根本目的の一つであることを認識させた。
福島の調査を行った私は、政府が国際的に発信してきたESDが「クリーンなエネルギー」を喧伝する原子力発電の推進と呼応していたことを反省し、持続可能性の教育を教育の中心目的とする必要性を痛感している。
持続可能性は、今日の社会と教育が資本とテクノロジーの暴走にどう立ち向かえるか問うている。
持続可能性の教育は、「目的の哲学(for)」と「内容の知識(of)」と「考え方・生き方(about)」の3分野にわたる教育である。
「科学」と「知恵」と「生き方」を統合する教育実践が求められている。
また、立教大学の阿部 治教授は、記事の中で次のように訴えておられます。
「人と自然」、「人と人」、「人と社会」の関係が今のままでは私たち自身と暮らす社会が持続出来ない。
ではどんな関係であれば持続出来るのか。
持続可能な関係を「想像」し、想像した関係を「創造」する二つの「そうぞうりょく」を育む「総合的な環境教育」を私は20年ほど前に提案し、その延長線としてESDを提案した。
私は「総合的な環境教育」を、日常生活の中で自然や人と触れる「直接体験学習」、自然と社会の仕組みを知り、人と自然、人と人との関係で生じている問題とその解決策を学ぶ「知識・技術学習」、人と自然、人と人との関係を持続可能にしていく「行動・参加学習」の3段階に分けている。
いずれにしても持続可能な社会をつくる力の育成は教育の主要な目的の一つになっている。
こうしたESDの教育を通して、「持続可能な社会」の実現は世界共通の問題解決が必要であることを理解し、その取り組みを通して国際的な連帯意識を高める効果が期待出来ます。
そういう意味から、ESDは国際的な枠組みの中で世界各国が情報共有しつつ、協力して取り組むべきとても大事な教育だと思います。