昨年12月15日(火)付け読売新聞の朝刊で知的財産(知財)に関する記事が掲載されており、元特許庁長官の知財評論家、荒井
寿光さんが知財(知的財産)侵害の「やり得」について警鐘を鳴らしていましたのでご紹介します。
アメリカの特許オークションや企業買収時の特許の価値は、1件当たり6000万円が相場です。
世界中で特許侵害を巡る訴訟が増え、判決で出される損害額賠償も高額化しています。
ところが日本では、知財訴訟件数は減少しています。
その理由は、裁判には時間がかかり、賠償額も少ないことだといいます。
一般財団法人知的財産研究所の調べによると、日本の特許侵害訴訟の賠償金支払いは、1000万円以下が約39%に上り、賠償金はアメリカの40分の1程度です。
知財訴訟件数は、知財に目覚め権利意識の強い中国でアメリカの約2倍、日本の約40倍になっています。
今後は中国で、日本企業が知財訴訟に巻き込まれるケースが増えると予想されます。
一方、最も信頼出来る知財訴訟制度を持つ国に関するイギリスの知財専門誌のアンケート調査(2015年7・8月号)によると、世界の専門家の37%がアメリカ、35%がドイツと回答していますが、日本はなんと3%に過ぎません。
アメリカ、韓国の有力企業は日本で特許を取得しても裁判で守られないとして、日本での特許出願を控える方向に転換しているといいます。
自民党知財戦略調査会は、先ごろ知財紛争処理システム検討会を設置しました。
当事者が不利な書類を隠すことで生じる知財裁判での証拠の偏在、あるいは侵害が認められても賠償額が少ないための侵害する側の「やり得」、こうした点を議論するとともに、損害賠償制度の見直しも必要だと荒井さんは訴えております。
日本の知財裁判は、書面審査がほとんどで、実質的な口頭審査はないといいます。
原告の主張を受けて、権利侵害の証拠の提出を求める命令が求められることも少ないといいます。
更に、命令に応じなくても制裁がほとんどないというのです。
裁判所の広範な裁量裁判によって少額の損害賠償しか認められないのでは、中小・ベンチャー企業は、特許取得の意欲が起きません。
裁判所は的確な命令を出し、裁判迅速化法の厳格な運用をすべきであると荒井さんは訴えております。
アメリカでは、故意の侵害には損害額の3倍までの賠償支払いが課せられています。
知財保護の強化という観点から損害賠償額の算定もビジネスの実態に合わせる必要があると荒井さんは訴えております。
日本は1990年代後半から知財立国を目指して産官学が一体となって制度改革に取り組んで来ました。
2005年に知的財産高等裁判所を創設するなどアジアのモデルとまで言われ、知財立国という言葉は当時流行語にまでなりました。
しかし10年後の今、知財の活用は停滞し、中国、韓国の追い上げにあっています。
産学連携もアメリカと比べようもないほど貧困です。
世界一の実力とされている中小企業ですが、知財戦略はほとんど機能していません。
中小企業をサポートする国家の制度がまだ不十分といいます。
戦略さえ機能すれば、日本の知財立国はゆるぎないものとなり、世界にも大きく貢献出来るので、日本の知財制度を再構築すべきだと訴えて記事は終わります。
政府が知財立国を本気で推進したいのであれば、荒井さんの提案を参考に本腰を入れて制度改革に取り組むべきだと思います。
安倍政権は、アベノミクスの一環として成長戦略を掲げてきましたが、具体的に推進すべきは、知財立国のベースとなるこうした制度改革だと思うのです。
現状のままでは、中小・ベンチャー企業が価値ある特許を国内で取得しても、その価値は正当に評価されず、知的財産として保護されないのです。
こうした状況は、技術立国を目指す日本にとって大変由々しきことだと思います。