2016年03月01日
アイデアよもやま話 No.3326 熱音響システムで廃熱のリサイクル!

12月13日(日)放送の「夢の扉」(TBSテレビ)で画期的な熱音響システムについて取り上げていたのでご紹介します。

 

音からエネルギーを取り出すという不思議な装置があります。

大気も汚さず、新たな資源も使わない、更に日本全体で使用する年間の電気量、1兆kwh以上に匹敵する力を秘めているといいます。

未だ解明されていない音の力を引き出し、新たなエネルギーを生み出すのは若き科学者、東海大学の工学博士、長谷川 真也さん(37歳)です。

それはあまりにも難解な理論のため、その実用化の過程で多くの科学者がさじを投げたのです。

 

目に見えない音が作り出すエネルギーの未来が見えてきました。

音でエネルギー革命を起こせ、熱から冷やす研究に大手企業が注目し、自動車・ガス・建設会社と共同開発を行っているといいます。

 

試験管の中にスチールウールを入れ、その片側に熱を加えると音が出ます。

これが熱音響現象と言って、熱が音に変わる現象です。

熱エネルギーが音エネルギーに変わる不思議な熱音響現象、詳しい原理は分かっていませんが、次のように考えられています。

 

スチールウールの片側を熱すると温度差が生まれます。

この時、熱い空気は冷たい方へ、冷たい空気は熱い方へと移動、温度差が大きくなるとこの移動が激しくなり、試験管全体の空気が振動し、音が発生するといいます。

 

長谷川さんがゼミの学生たちと楽しんでいるバーベキューで飲み物を冷やす際にこの現象を利用しています。

コンロの下に熱音響エンジンという装置があります。

その構造はエンジン本体とパイプだけです。

そして、エンジン本体には蓄熱器があり、無数に空いた穴がスチールウールと同じ働きをします。

この部分の片側を加熱し、温度差が生じると音を生み出します。

密閉しているため何も聞こえませんが、パイプの中は離陸するジェット機の1000倍以上もの音波が出ているといいます。

特殊な装置で中を観察すると、空気が行ったり来たり、振動しているのがよく分かります。

こうして発生した空気の振動は音となり、冷凍機の方へと伝わります。

冷凍機を分解してみると、こちらにも蓄熱器が入っています。

蓄熱器は温度差を加えると、音を発生させることが出来ますが、逆に音を入力すると温度差を作ることが出来ます。

つまり、バーベキューの熱で飲み物を冷やせるのは、熱で音を生み出し、その音を使って温度差を作り、その冷たくなる部分を利用していたからなのです。

 

更に、発電機を取り付ければ、発電装置としても利用出来るというのです。

使うのは、スピーカーやリニアモーターなど音の振動を電気に変えられるものです。

熱から音を生み出し、その音から冷凍したり発電出来る熱音響システムには世の中を大きく変える力があるのです。

これまで利用が難しかったあるエネルギーを活かせるからです。

それはとても身近なところにあります。

例えば、キッチンで使うナベや自動車エンジンには化石燃料を使った時に、言わば“エネルギーのゴミ”である廃熱が必ず出ます。

長谷川さんは熱を音に変える熱音響システムで廃熱のリサイクルに挑んでいるのです。

 

こうして、廃熱を再びエネルギーに変換出来れば、次のような未来像を描くことが出来ます。

例えば、自動車で廃熱の発生場所に熱音響システムを取り付ければ、発電したり、クーラーに利用すれば、理論上燃費を約3割アップ出来るといいます。

同様に、家庭のガス設備に取り付けて発電すれば、ガス料金据え置きのまま家庭内の電気を賄うことも出来るといいます。

 

この熱音響システムが実証されたのはわずか20年ほど前で、その実用化は遠い先と考えられていました。

ところが、熱音響工学の創始者で理学博士の富永 昭さんや世界初の熱音響エンジンの開発者で理学博士の矢崎 太一さんは、長谷川さんの研究に接し、近い将来の実用化に大いに期待しています。

 

これまで実験をすれば、手探りで行うため1日がかりでした。

そこで、長谷川さんは瞬時に性能を解析出来るシミュレーション・プログラムの製作に挑みましたが、これは多くの科学者がさじを投げた超難問でした。

ところが、長谷川さんは難解な数式と戯れること1年でプログラムを完成させました。

パイプの長さ、太さ、蓄熱器の位置や形状など、100項目を超えるデータを入力すると瞬時にその性能をアウトプットします。

 

そして、このプログラムによってある弱点が克服出来ました。

それは温度です。

これまで300℃以下ではシステムとして動かなかったのです。

実は、廃熱の8割以上は、300℃以下なのです。

もし、これら全てを使えるエネルギーに変えられれば、膨大な資源となります。

 

長谷川さんの夢は、今や国のプロジェクトとして動き始めました。

海上技術安全研究所、第三舶用工業、東海大学という産官学の連携で行われる共同開発プロジェクトです。

今回、海上技術安全研究所での実証実験で利用するのは、船舶などに利用されているエンジンの廃熱です。

排気ガスが流れるダクトの途中には長谷川さんのプログラムで設計した廃熱を音に変える装置、その先には冷凍するための装置があります。

 

この実証実験で、廃熱が150℃に達すると、熱音響エンジンが動き出しました。

そして、300℃付近に達すると、冷凍機はマイナス5℃まで下がりました。

更に、330℃付近ではマイナス48.6℃を記録しました。

熱音響エンジンが実際の廃熱でも活用出来ることを世界で初めて実証しました。

その後、漁船にも搭載し、更なる検証を行いました。

将来的にはエンジンの廃熱だけで水揚げした魚の冷凍も可能になると見込まれています。

 

ところが、こうした成功は長谷川さんにとって入り口に過ぎません。

この廃熱のエネルギーを何倍にも増幅させるという驚くべき計画があります。

長谷川さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ご飯食べている時もお風呂に入っている時も、この事しか考えていない。」

僕、分かんないこととか考え続けたり、答え出すのが楽しくて、よく分からんというのは最高に面白いですね。」

 

そして、再び画期的な実験に挑むことになりました。

大手自動車用タイヤホイールメーカーとの工場廃熱のリサイクルの共同開発です。

こうした工場などの産業部門から出る廃熱は電力に換算すると年間およそ1兆kwh以上で、日本で使用する年間電気量とほぼ同じといいます。

この膨大な廃熱をエネルギーに変えることが出来れば、生産コストが下がり、工業製品の値段が安くなるといいます。

 

家庭にはうれしいことですが、一つ問題があります。

工場を見回してみると、廃熱はいろんな所に分散しています。

これらをそのまま集めることは難しく、再利用が出来ない大きな原因となっています。

ところが、長谷川さんはその問題を解決出来るばかりか、エネルギーを倍増出来るというのです。

熱音響エンジンを各場所に取り付け、音に変えてしまえば、パイプをつなぐだけで簡単に集められるのです。

更に、低密度であまり使えない熱エネルギーを少しずつ取り出して巨大なエネルギーとして取り出せるというのは熱音響エンジンだけだといいます。

熱音響エンジンは、熱を音のエネルギーに変えるだけではなく、熱でエネルギーを増幅することが出来るというすごい特性があるのです。

 

でも、まだ実証した例はありません。

実験では4ヵ所に散らばる廃熱を想定し、熱音響エンジンを直列につなぎ、末端に発電機を配置しました。

廃熱の代わりに電熱線を使い、300℃で加熱し続けます。

プログラムから導き出された数値は1基で1.8倍になるといいます。

4基ならば、エネルギーを1.8の4乗で約10.5倍に出来ると見込んでいました。

そして、実験結果は約11倍を達成しました。

 

排熱量が多ければ、工場内の電気を熱音響エンジンで全てまかなうことも将来的には夢ではないといいます。

長谷川さんは、番組の最後に次のようにおっしゃっています。

「今はいろんな企業の方が興味を持って下さっていて、実用化の機運というのは日本だけでなく世界的に高まっているので、今このタイミングで企業様とうまく連携して実システムを構築出来れば実用化出来ると僕は思います。」

 

こうして、長谷川さんは休む間もなく、既に次の実験に取かかっています。

 

そもそも産業部門から出る廃熱を電力に換算すると年間1兆kwh以上という事実に驚きです。

逆に言えば、それほど省エネをすべき余地が残っているということです。

また、1兆kwh以上ということは日本で使用する年間電気量とほぼ同じなのですから、もし将来的に産業部門に全て熱音響エンジンが導入されれば、地球温暖化問題もエネルギー問題も共に解決出来てしまいます。

ですから、熱音響エンジンはまさに画期的な発明と言えます。

 

また、こうした装置の開発に取り組まれている長谷川さんの心のあり方はとても参考になると思います。

分からないことがあるとクヨクヨして悩まずに、逆にその状況を楽しんで、その解決にワクワクしながら取り組むという姿勢こそ人それぞれどんな状況にあっても最高の人生の楽しみ方だと思うのです。


 
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