先日、日本のロボット工学者、石黒 浩大阪大学教授の講演を聴く機会がありました。
石黒さんは、外見や動きが人間そっくりのアンドロイドの研究で世界的に注目されております。
講演では、アンドロイドの研究を通して、人間とは何か、あるいはアンドロイドが働く場合の賃金設定などとても興味深い内容が盛り沢山でした。
デパートの高島屋で洋服の販売員としてアンドロイドを使用する実証実験では、販売員別売上高ランキング3位というほどの成績を収めたといいます。
また、現在のアンドロイドの製作には2000万〜3000万円のコストがかかるといいます。
ですから、世界中の大富豪と言われる人たちはその気になれば既にマイアンドロイドを手に入れることが出来る時代に入ったのです。
こうした興味深い内容の連続でしたが、残念ながら時間切れで、最も期待していたテーマ「1000年後のロボット」については聴くことが出来ませんでした。
さて、講演の中で、石黒さんは、アンドロイドは人間の暮らしを豊かにするために開発されるので、人間に危害を及ぼすことはない、アンドロイドが人間を攻撃するのは映画などの世界の話であるというようなことをおっしゃっていました。
そこで、今回は人類が存続するうえでのリスク管理の観点から本当にアンドロイドは人間を攻撃しないかどうかについて考えてみたいと思います。
確かに、今私たちがアンドロイドに注目しているのは、いかに人と同じような表情をすることが出来るか、あるいは人と自然なかたちでコミュニケーション出来るかといったところです。
アンドロイドが人と自然に会話が出来、人の良き相談相手になってくれたり、人に代わっていろいろと身の回りの世話をしてくれるようになれば申し分ありません。
しかし、これまでの歴史が証明しているように、核兵器や化学兵器、あるいは最近注目を集めているサーバー攻撃など、人類は最先端のテクノロジーを駆使して兵器への応用技術を開発し、実際に多くの人たちに悪影響を及ぼしてきたり、多くの犠牲者を出してきました。
そして、このような状況を今後とも全く無くすことはほとんど不可能です。
なぜならば、アイデアよもやま話 No.3308 フリッツ・ハーバーにみる科学の二面性 その2 “毒ガス開発の父”と呼ばれる天才科学者!でもお伝えしたように、テクノロジーの活用には常に善悪の二面性があるからです。
テクノロジーの悪用は兵器に限ったことではありません。
一般の人でも容易にアンドロイドを購入出来る時代になれば、自分の気に入らない人に危害を加えたり、殺すことにさえアンドロイドを利用する人が出てくるリスクは大いにあります。
ですから、今のうちからそうしたことの起きないような対応策、あるいはアンドロイドが罪を犯した場合の責任についてのルール作りが求められるのです。
石黒さんはアンドロイドの未来について楽観視されているようですが、私はアンドロイドの活用に期待を寄せる一方でリスクの大きさを考えずにはいられません。
もし、アンドロイドが人と共存する社会において、アンドロイドが人に危害を加えるような事件が起きれば、社会は大混乱に陥るからです。
さて、そもそもアンドロイドはロボットの一種であり、ロボットには既にAI(人工知能)が搭載されつつありますから、これまでの話はアンドロイドをロボット、あるいはAIに置き換えても同様のことが言えると思います。