2016年01月29日
アイデアよもやま話 No.3299 行き場を失った原発事故のゴミ その3指定廃棄物を巡る動向!

昨年11月21日(土)放送の「NHKスペシャル」(NHK総合テレビ)のテーマは「「東日本大震災」追跡 原発事故のゴミ」で、行き場を失った原発事故のゴミについて取り上げていたので3回にわたってご紹介します。

3回目は、指定廃棄物を巡る動向についてです。

 

原発事故によるゴミに悩んでいるのは福島県だけではありません。

東北から関東の広い地域で除染で出るゴミとは異なる種類のゴミも発生しています。

国はこうしたゴミを指定廃棄物と呼び、厳重な保管を義務付けています。

福島県と比べると、量も少なく、その多くが比較的汚染の濃度が低いものですが、今回の取材で各自治体が処分を巡って苦悩している実態が浮かび上がってきました。

 

今回の取材で、福島第一原発からおよそ260km離れた神奈川県横浜市の学校にも原発事故のゴミが保管されているが分かりました。

コンクリートで遮蔽された部屋に置かれているのは、雨水を溜めるタンクに沈殿していた泥です。

数量的には830kgが5つに分かれて入っています。

濃度を測ったところ、国の基準である8000ベクレル/kgを上回っていました。

そのため、指定廃棄物として厳重な保管を続けています。

8000ベクレル/kgという国の基準、国はゴミを処理する作業員の年間の被ばく量が1ミリシーベルトを下回るように定めたとしています。

これは、胃のX線検診の3分の1程度の被ばく量だとされています。

この基準を超える指定廃棄物は、福島県以外は11都県に235件存在しています。

放射性廃棄物を含む草木や汚泥、焼却灰などです。

その中に意外な場所がありました。

原発事故直後の空間放射線量は低いのに指定廃棄物が発生していた場所があるのです。

群馬県の前橋水質浄化センターでは、2011年に国の基準を超える程の汚泥が見つかりました。

これ程の濃度の汚泥がなぜ発生したのか、東京大学の森 敏名誉教授は研究を続けてきました。

森さんが注目したのは汚水を浄化する仕組みです。

下水処理場では、汚水の中の有機物を微生物に食べさせて分解し、水を浄化していきます。

微生物は有機物を取り込む際、栄養となるカリウムと似た元素の放射性物質、セシウムも取り込みます。

下水処理場には広い地域から下水や雨水が集まり、浄化され川に流されます。

下水に含まれる放射性物質はごく微量ですが、微生物はそれをせき止めるように体内に取り込み、セシウムは3200倍に濃縮されていました。

やがて、微生物は死に、放射性物質とともに汚泥となって沈殿していたのです。

本来濃度の薄かった下水が思いも寄らぬかたちで8000ベクレル/kgを超える指定廃棄物に変わっていたのです。

前橋市以外にも指定廃棄物が発生した浄化場が45ヵ所ありました。

原発のゴミは想像を超えた変化と広がりを見せています。

こうした指定廃棄物はまとめて処分する場所がないため、現場で管理せざるを得ない状況です。

前橋市も今は国の基準を超えるものは出ていませんが、これまでに出た汚泥の管理のため下水処理場の敷地に3000万円をかけて保管庫を作りました。

 

指定廃棄物をどこで処分するのか、国は原発事故の直後に方針を定めました。

処分はそれぞれの県で行うこととし、特に発生量の多い県には国が処分場を作ることにしたのです。

 

国が考える処分場の仕組みは以下の通りです。

ワラや汚泥などの指定廃棄物をそこで燃やします。

残った灰を厚いコンクリートで遮蔽して地下に保管、周囲を粘土層で固めて空間を設けるなど、二重三重の漏えい対策も施します。

長期間管理し、放射性物質の濃度が自然に下がるのを待つ計画です。

一部の県では、処分場の候補地を絞り込みました。

人口密度や気候などを考慮し、山間の土地などが選ばれました。

 

宮城県で処分場の候補地になった加美町では、国は国有地になっている田代岳の山頂に建設を考えていました。

現地調査に入ろうとする環境省の職員を住民がもう1年以上阻止しています。

加美町は、住民の8割が田畑を所有しています。

農業を取り巻く環境が厳しさを増す中、山からの湧水を利用したコメ作りに賭けてきました。

処分場が出来、万が一放射性物質が漏れる様なことがあれば、今の生活は成り立たたなくなると懸念しています。

 

処分場の建設が予定されている5つの県で、計画が進んでいるところは未だ一つもありません。

更に、指定廃棄物を各県が引き受けるという国の方針に異議を唱える自治体も現れました。

その一つ、栃木県で処分場の候補地となった塩谷町では、2014年に町の総意として指定廃棄物は県外に出し、そこで管理するべきだという要望書をまとめ、国に提出しました。

ゴミを持ち出す先として提案したのは、福島第一原発周辺でした。

これに対し、国は現在の確定処分の方針は変えられないとしています。

環境省の井上 信治副大臣は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「やはり、福島の方々はとりわけ大変なご負担をかけているわけですから、そのことをしっかり考えなければいけないと。」

「福島県の意向といたしましても、県外のものまで受け入れるのは出来ないということでありましたから、そういう意味では現実的にも非常に困難だと。」

「やはり各県で1ヶ所、きちんと処分場を作らせていただいて安全に管理をしていくことが私はいいと思います。」

 

東京湾の一角にも千葉県内の指定廃棄物を集める処分場の候補地があります。

しかし、ここも住民の反対などで計画は進んでいません。

今回の原発事故によって誰も想定していなかった未知のゴミと向き合わざるを得ない自治体や人々の苦悩、そしてこの問題の難しさが実感されると番組キャスターの鎌田 靖さんはコメントしています。

 

一方、指定廃棄物の処分が行き詰まる中、それぞれの自治体ではゴミの処分を巡って今様々な模索が続いています。

岩手県一関市でも市街の各地で8000ベクレル/kgを超えたゴミが厳重に管理されています。

しかし、住宅地の近くにいつまでも置いておくわけにはいかないと処分の方法に頭を悩ませてきました。

そこで、一関市が国や県と協議して決めたのが混焼と呼ばれる方法でした。

一関市のゴミはほとんどが燃えやすい稲わらや牧草、きのこの原木などです。

焼却すると放射性物質はそのまま灰の中に残ります。

混焼では一般ゴミと8000ベクレル/1kg以上の指定廃棄物を混ぜて焼却、すると灰の量が増えることで1kg当たりの濃度が下がります。

一関市は混焼によって一般ゴミとして処分出来る8000ベクレル/kg以下に下げる土や粘土で何重にも覆い、地下に埋めようと考えました。

しかし、住民は納得しませんでした。

基準を超えるゴミを薄めて処分するという市の方針に疑問の声が続出しました。

市と住民の議論は(番組の放送された)今も平行線のままです。

 

更に、今回の調査で意外なことが分かりました。

国の基準、8000ベクレル/kgより低いのに処分出来ないままのゴミが大量にあったのです。

神奈川県横浜市にもそうしたゴミが保管されていました。

コンテナに入っているのは、市内で出た汚泥、およそ3万立方メートルです。

横浜市は100ベクレル/kgを下回らない限り処分をしない方針です。

その最大の理由は住民感情への配慮でした。

2011年、横浜市はこの8000ベクレル/kg以下の汚泥を埋め立てて処分しようとしました。

ところが、海に漏れ出すのではないかと不安の声が続出、処分を凍結せざるを得ませんでした。

それから4年、汚泥の厳重な保管が続いています。

これまで保管にかかった費用は26億円、放射性物質が自然に100ベクレル/kg以下に下がるには最長で150年かかると言われています。

アンケートからは同じように8000ベクレル/kg以下のゴミを処分出来ずにいる自治体が67に上ることが分かりました。

行き場を失った大量のゴミに苦悩する現場、出口の見えないままの状態が今も続いています。

 

番組キャスターの鎌田さんは次のように語りかけています。

「たとえ国が基準を設けてそれを下回れば安全に処分出来るといっても人々の放射性物質への不安はやはり根強いものがあります。」

「誰も経験したことのない未知のゴミだからこその難しさがここにもあるのです。」

「しかし、今回の取材で福島だけでなく東日本の広い範囲でゴミの処分が行き詰まっている状況を見てきた時、私たち一人一人がこの問題の当事者であり、その現実から目を背けることは出来ないことを思い知らされたような気がします。」

「一体、誰がどのようにゴミを引き受けるのか、これまでの方策の見直しも含めて私たちはこの議論を真剣に始めなければならない時期に来ているのではないでしょうか。」

 

膠着したゴミの問題を少しでも前進させようという取り組みが福島県飯舘村で始まっています。

減容化という技術の開発です。

1300℃を超える高温でゴミから放射性物質を分離、ゴミの体積を20分の1に減らし、管理しやすくします。

この技術を推奨してきた東京大学先端科学技術研究センターの児玉 龍彦教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「今の一番の問題は出口がないとみんな思っているわけですよね。」

「だから誰か人に回すしかない。」

「だから出口がはっきりどうなっているかっていうところの技術を作って、それを一歩一歩示していけるかどうか・・・」

 

しかし、この減容化もコスト面など実用化までには課題が多いのが現状です。

それでも児玉さんはこうした技術開発を進めることでゴミの引き受け手の可能性を広げることが大事だと言います。

そのうえで、誰がどう引き受けるのか、東京も含め広い地域で議論すべきだと次のようにおっしゃっています。

「遠くのよそに押し付けちゃえばいいっていう格好での大都市のエゴみたいなもののままでは片付かない問題があるんじゃないか。」

「そこ(福島)の燃料は東京の電力に使われてきたんだったらば、東京もしかるべき負担を負うという考えがきっと必要になると思っています。」

 

私たちの前に立ちはだかる未知なるゴミ、福島第一原発から14km、ゴミが思わぬかたちで処分されている場所がありました。

福島県浪江町のある牧場で放牧されているのは全て放射性物質に汚染されて出荷が出来なくなった牛です。

せめて天寿を全うさせてやりたいと世話が続けられています。

この牛たちの命をつないでいるのは東日本各地から集められた、汚染され処分出来ずにいた牧草でした。

 

以上、行き場を失った原発事故のゴミについて3回にわたってご紹介してきました。

福島第一原発周辺を中心に除染で出るゴミの処分だけでなく、東北から関東の広い地域で出る、その多くが比較的汚染の濃度が低い指定廃棄物の処分も思うように進んでいない状況です。

それでも、番組を通して関係する自治体や研究者の方々は知恵を絞って少しでも前進させようと一生懸命取り組んでいただいている様子の一端をうかがい知ることが出来ました。

 

最後にご紹介した福島県浪江町で放牧されている、放射性物質に汚染されて出荷が出来なくなった牛が汚染され処分出来ずにいた牧草を食べている姿、そしてそうしてでも天寿を全うさせてあげたいと世話をする牧場主の気持ちを思うととても切なくなります。

 

毎週土曜日に発信している「プロジェクト管理と日常生活」をテーマとしたブログで、リスク管理の中のコンティンジェンシープランについて何度かお伝えしてきましたが、もし原発事故発生時のコンティンジェンシープランについて真摯に検討していれば、恐らく日本国内での原発推進はあり得なかったと思います。

今、現政権は原発再稼働に向けて突き進んでいますが、福島第一原発のゴミ処分が今のような状況であることについて、どのように評価されているのでしょうか。


一刻も早く“脱原発”に政策転換をし、その分の資金を再生可能エネルギーの研究開発に投入して少しでも早く持続可能な社会の実現を目指すべきだと思うのです。
それぞれの市販化は既にされているのですから、後はそれぞれの技術の改善あるのみのところまで来ているのですから。


 
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