昨年11月21日(土)放送の「NHKスペシャル」(NHK総合テレビ)のテーマは「「東日本大震災」追跡
原発事故のゴミ」で、行き場を失った原発事故のゴミについて取り上げていたので3回にわたってご紹介します。
2回目は、原発事故のゴミ処分計画が進まない理由についてです。
なぜ計画は進まないのか、NHKはその現場を取材しました。
このプロジェクトを担う環境省の現地事務所、福島環境再生事務所には各省庁や民間企業から500人もの職員が集められています。
プロジェクトのカギとなる用地確保の現場で調査しているのは、用地を所有する地権者の所在です。
全国に避難している地権者を一人一人探し出す作業が続けられています。
地権者の数は2365人に上ります。
このうち半数近くは連絡先が把握出来ていません。
更に、そのうちの600人近くが既に死亡し、相続手続きがなされていないことが明らかになりました。
この場合、枝葉のように分かれた相続権を持つ人を探して全員から承諾を得る必要があります。
明治時代などかなり以前に死亡していると、子どもだけでなく孫やひ孫など100人を超えることも少なくないといいます。
今後どれだけの人を探し出さないといけないのか、把握されていません。
地権者にたどり着けたとしても、まだ多くの課題があります。
ある日の大熊町にある中間貯蔵施設の建設予定地で環境省が行う土地の価格の算定調査では、今も放射線量が高く、1日の作業時間は数時間に限られるといいます。
そしてスギやヒノキの太さを測っていす。
1本1本に価値があるため、正確に把握しなければ土地の価格が決まらないのです。
膨大な手間と時間がかかる作業に人手が追い付かないといいます。
用地の確保に最も重要になるのは地権者の同意です、
震災前は大熊町で暮らしており、今は福島県会津若松市内の仮設住宅で避難生活を送っているある夫婦の地権者は、番組の取材に次のようにおっしゃっています。
「やっぱり帰るところがなくなるっていうのが一番辛いよね。」
「大熊町から追い出されるようで。」
「よく、「中間貯蔵施設を早く作ってそこに持って行け」と言う人たち、まあそれは「持って行け」と言いますよね」
「だけど、そうするにはそこに住んでられる人、何千人っていう人、その人たちが全部追い出されるっていうことなんですよ。」
「なかなか賛成という気持ちにはなれないし、今でも同じですよ。」
「だけども、よく県も福島県の復興のためにという話出ますよね。」
「復興させるには、やっぱり除染したものをどこかに片づけなくちゃならない。」
地権者たちは思い決断を迫られているのです。
一方、日々全国の地権者を訪ね歩く環境省の職員たち、これまでに国が同意を得られた地権者の数は2365人中わずか14人に留まっています。
当面の保管場所である中間貯蔵施設の建設すら進まない現実、最終的な処分の計画はまだ何も示されていません。
中間貯蔵施設建設の計画が行き詰まる中、積上がっていく除染用ゴミ、遂には抱えきれなくなる地域も出始めています。
各地で当初3年としていた仮置き場の契約が期限を迎えつつあります。
その一つ、福島県南相馬市馬場地区では5万個のゴミを保管する仮置き場は今年2016年3月15日に契約が切れます。
土地を貸している住民たちは元の農地に戻し、農業を再開したいとし、契約を更新しないと決めています。
そこで南相馬市は苦渋の決断をしました。
馬場地区にあるゴミを市外の他の地区に引き受けてもらうことにしたのです。
運び出す先は小高区、除染のゴミはこれまで発生した地区ごとに管理してきました。
外に持ち出すのは県内では初めてのことです。
小高区は福島第一原発から20キロ圏内にあり、津波の被害にも遭いました。
今も全住民が避難しています。
しかし、この地域も今年春の帰還を目指しています。
住民にとって、他の地区のゴミが持ち込まれるという話は寝耳に水でした。
仮置き場の更新をしないと決めた馬場地区の住民は、結果として他の地域に押し付けてしまうことに複雑な思いを抱いています。
汚染された土の保管を巡って地域に広がる波紋、南相馬市の市長は、当面住民の善意と我慢に頼らざるを得ないといいます。
さて、福島第一原発事故で、地上に降り注いだ放射性物質の除染などで回収されたのは全体の3.33%に過ぎないという試算があります。
未だ手つかずの場所が多いのが現状です。
以上、原発事故のゴミ処分計画が進まない理由についてご紹介してきました。
私たちは何気なく、原発事故のゴミなどどこかの施設に集めてまとめて処分してしまえば程度に思ってしまいがちです。
でも、今回ご紹介したように、それぞれの置かれた立場からの思惑から解決の糸口すら見つけることが大変難しいのです。
こうして見てくると、今更ながらに原発の“安全神話”という安易な考え方に則った従来の原発の推進政策に懲りずに進められている現政権による原発の再稼働政策に反対せずにいられません。