以前、アイデアよもやま話 No.3160 世界初のロボットが働くホテル!で世界初の接客のほとんどをロボットが行うという、ハウステンボス(長崎県佐世保市)内の「変なホテル」についてご紹介しました。
そうした中、昨年11月18日(水)放送のニュース(NHK総合テレビ)でオープンから4ヵ月後の現状と課題について取り上げていたのでご紹介します。
この「変なホテル」、東京大学や国内外のメーカーと協力して、経費の削減などロボットの新たな可能性を探ろうという狙いで立ち上げました。
ホテルの客室数72部屋、現在80台のロボットで客室のサービスをほぼ賄っています。
国内でも例がないこの試み、背景にはホテル業界の人手不足があります。
海外からの観光客の増加を背景に客室数は増え続けていますが、従業員数は減少傾向にあります。
今後、労働人口が更に減っていく中、ホテル業界にとって労働力の加損は逼近の課題でした。
このホテルでは、ロボットを導入したことで20人必要だったスタッフを5人まで減らすことが出来ました。
更にロボット化したことは宿泊費の大幅な削減にも大きな効果をもたらしました。
一方で課題も見えてきました。
ホテルを利用した1万人以上の宿泊客から寄せられたアンケート結果では、客室ロボットのチュ−リーちゃんが対応出来る言葉数が少なく、きめ細かい対応が出来ていないという声が最も多くありました。
そして、その多くがホテル業界がターゲットにしているシニア世代だといいます。
機械操作に弱いシニア世代に満足のいくサービスをどう提供していくかについて、ホテルの役員はある日、具体的な対策案について話し合いを行いました。
テーマになったのは、客室ロボットのチュ−リーちゃんの改良です。
現在はごく限られた7パターンの要望にしか反応することが出来ません。
シニア世代の要望に応えられるようにどういう機能を増やすか意見を出し合いました。
そして、今年3月までに会話のパターンを大幅に増やすことに決めました。
このロボットホテルの支配人、友弘 和真さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「可能性があるロボットですから、そこをいかにコンシェルジュ化出来ていくか、それが次の課題かな、という気がしますね。」
経営の効率化には大きな効果を上げつつも、きめ細かい接客という壁に直面するロボットホテルですが、今後新たな可能性を切り開いていけるのか、現場の模索は続きます。
ホテルの稼働率はおよそ9割と人気になっていますが、今はロボットという目新しさで訪れるお客がほとんどで今後リピーターをどれくらい取り込めるかでこの実験の真価が問われるとホテルでは見ています。
さて、そもそも客室ロボットのチュ−リーちゃんの対応が7パターンしかないというのが少なすぎると思います。
でも、この問題は今後ともAIによる対応の実績の積み重ねによって徐々に改善されていくと思われます。
言わば、新人の客室係が経験を積み重ねて成長していくようなものです。
そして、人の客室係と客室ロボットには決定的な違いがあります。
それは、人の客室係にはどうしても経験年数によるサービスレベルの差が出てしまいますが、客室ロボットは共通のAIにより常に最新で最高のレベルのサービスを提供出来るという違いです。
これも言わば人手による作業と産業用ロボットによる作業の違いのようなものです。
ということで、このホテルでのロボットによるサービスレベルはデータの蓄積とともに数年後にはかなりのレベルに達していると期待出来ます。
そして、このような実績こそが国内外の他のホテルとの差別化につながるのです。
ですから、「変なホテル」の世界初の試みは、ホテルに限らずあらゆるサービス業界でのロボット普及の先駆けとなる大きな可能性を秘めていると思われます。
こうした試みから見えてくる近未来のイメージですが、一言でいえば先進国と途上国との労働コストの逆転です。
ここで言うところの労働コストとは、人件費とロボットとの合算コストです。
AIも含めたロボット関連技術は今後ともどんどん進化していきます。
ですから、ロボット購入費の低減化は徐々に図られていきます。
しかもロボットにはほとんど休みなく働けるなどいろいろなメリットがあります。
一方、途上国では経済成長とともに人件費は増加していきます。
ですから、いずれ従業員を雇うよりもロボットを導入した方がコスト削減につながる状況を迎えることになるのです。
そうなると、増々客室ロボットに、より低コストでどのようなサービスを提供させるかという人のアイデア勝負になるはずです。
ですから、より高度なスキルと想像力を併せ持ったアイデアパースンが増々求められるようになるはずです。
このように、技術の発達とともに、従来の仕事は人手を介するものからAIやロボットへとどんどん移行していきますが、コアとなる部分については人のアイデアにゆだねられ続けると思われます。
ですから、徐々にこうしたスキルを持つ人材の育成に重点を置いた研修制度を取り入れていくことが求められるのです。