これまで人工知能(AI)については何度となくお伝えしてきました。
そうした中、3月3日(火)放送の「クローズアップ現代」(NHK総合テレビ)で“AI社会”の行方をテーマに取り上げていたのでご紹介します。
人の言葉を認識するロボットや公道での実験が進む自動車の自動運転、今コンピューターが人間のように判断するAIの技術が目覚ましい進歩を遂げています。
最先端を行くアメリカではこれまで人間にしか出来ないと思われていた知的労働まで担い始めています。
スポーツの試合展開に応じて瞬時に作られていく解説、記者ではなくAIが作成しているのです。
今後数十年の間におよそ65%の職業がAIに置き換わるという研究結果も出ています。
そうした中で、今AIの技術開発に向けられる投資はかつてないほど活発です。
AIから生み出される新しいビジネスの芽、それが更に投資を呼び込み、技術革新につながる好循環を生んでいます。
コンピューターが音声や画像を的確に認識出来るようになったり、膨大なデータから必要な情報を瞬時に取り出せるようになり、AIはこれまで人間にしか出来ないと思われていた領域にまで進出しています。
今年1月に開催された世界経済フォーラム「ダボス会議」でもAIが社会にもたらす影響の大きさに注目が集まり、負の側面としては、多くの仕事が失われるのではないかという懸念の声が聞かれました。
イギリスのオックスフォード大学の研究では、10〜20年でなくなる可能性が高いとされる職種を以下のように挙げています。
・電話でのセールス
・データ入力作業
・証券会社の事務
・スポーツの審判
・銀行の窓口業務
・自動車の運転業務
より速く、より効率的に考えられるようになり、生産性を向上させると見られるAI、働くことの意味や社会のあり方までも変える可能性を秘めています。
その最前線のアメリカでAIを使ったシステムを開発しているベンチャー企業、オートメーテッド・インサイツ社では膨大なデータを基にコンピューターが自動で文章を作成する仕組みを開発しました。
バスケットボールの試合で、選手がシュートを放とうとした瞬間プレイの解説情報が瞬時に作られます。
データを基に選手の調子を表現しています。
この技術を応用したシステムは100社以上で導入され、年間10億を超える記事を生み出しています。
ロビー・アレンCEOは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「スポーツの記事だけでなく金融や不動産など様々な業界のデータを取り込むことで魅力的な記事を作れるようになりました。」
「データ分析や計算能力を考えると機械は人間よりもずっと優れています。」
昨年、この技術を導入した世界有数の通信社、AP通信でAIを活用したのは企業の決算を伝える記事でした。
あたかも人間が書いたような原稿に仕上がっています。
こうした決算記事の作成は膨大なデータを調べなくてはならないため、記者にとって大きな負担となっていました。
この技術を導入した結果、決算記事の出稿本数は10倍に増加、更に記者は空いた時間をより高度な仕事に充てられるようになりました。
ある社員は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「単純な作業をなくすことが出来たことで記者たちは外で取材し、より重要な記事を書く本来業務に専念出来るようになりました。」
こうしてAIの普及は記者の雇用を大きく変えると見られています。
専門家は今後30年の間に記者の仕事の多くがAIに置き換わり、働き方が二極化していくと見ています。
メリーランド大学のニコラス・ダイアコポラス教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「将来的には記者の仕事にも格差が生まれていくと思います。」
「AIの記事をチェックするだけの記者と機械には書けない記事を執筆出来るジャーナリストに分かれていくでしょう。」
急速に進化するAIの技術ですが、まだ乗り越えなければならない壁もあります。
アメリカの大学入試や卒業認定で使われている小論文をAIが採点するシステムです。
人間と同じレベルで採点出来るとして、全米で1500以上の教育機関が活用しています。
AIはどのように採点しているのか、その仕組みは以下の通りです。
AIは文章の長さや語彙の数など、人が考えた採点の条件と過去の論文データを照らし合わせて具体的な判断基準を作っています。
こうした複数の基準を用いることで論理的な構成などを正確に判断出来るとされています。
ところが、言語学者のレス・パールマン博士はこのシステムには限界があると指摘しています。
AIは文章の内容まで理解して採点しているわけではないと言います。
ある大学院の入試で使われる小論文の模擬試験で、パールマン博士は機械が評価する条件を満たしただけの全く意味を持たない特殊な文章を作成しました。
これをソフトの解答欄に入力して送信ボタンを押しました。
すると数秒後、採点結果が送られてきました。
なんと点数は6点満点でした。
文章の価値を正しく評価されているのか、現場では不安が広がっています。
さて、まだ発展途上のAI、カリフォルニア大学バークレー校の世界的な権威であるスチュアート・ラッセル教授は、最近開発された新技術、ディープラーニングが進化のカギを握っていると言います。
ディープラーニングとは、AIが独自に判断基準を見つけ出す技術です。
例えば、自動採点システムではあらかじめ人間が採点の条件を与えなくても大量の論文を読み込むことで自ら判断基準を見つけることが出来るようになるといいます。
ラッセル教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「10年後には言語をもっとよく理解出来るシステムが実現出来るでしょう。」
「人間の価値観を理解して物事を判断出来るようになるのはこれからです。」
こうしたAIの進歩の背景について、番組ゲストの東京大学の松尾 豊准教授は以下の2つを挙げています。
1.コンピューターの進歩
2.データ量の増大
また、AIによってなくなる傾向のある職業の要件について、次のようにおっしゃっています。
・やることが比較的決まっていることこと
・正確性が要求されること
一方、なくならない傾向が強い職業の要件については、次のようにおっしゃっています。
「職業がなくなる、なくならないというのは少し違っていると思ってまして、例えば同じ仕事でも昔からあるんだけれども、やることが変わっているという仕事って多いと思うんですよね。」
「例えば、教師という仕事はこれからデータが溜まってくるとどういう生徒にどういう教え方をすると良いのかどんどん増えてきますから、コンピューターがより教えるのがうまくなる、こういう人にはここでつまづき易いのでこういう教材を教えるといいんじゃないか(という具合に)。」
「ただし、生徒をやる気にしたり、生徒の夢は何ですかと問いかけてそこに至るまでの道を一緒に考えてあげるとか、そういう役割というのは人間がやるしかないですし、そういった比率がどんどん増えていくというように思います。」
要するに、職業がなくならない要件云々というよりも、同じ職業でも仕事の質が変わる可能性があるということなのです。
では、具体的にどのような質のものに変わるかについて、以下の2つを挙げています。
・よりクリエイティブシティの高いもの
・判断が必要とされるもの
今回お伝えしたいメインテーマはディープラーニングですが、やはりそのキーを握っているのは人間だと思います。
というのは、AIが独自に判断基準を見つけ出すといってもその判断基準のベースは以下の2つだと思うからです。
・基本的なアルゴリズム
・過去のデータ
基本的なアルゴリズムについては、定期的にあるいは不具合の発生のたびに見直しが必要です。
また、具体的にどのようなデータをコンピューターに入力するかを決めるのも人間です。
そして、ある職業、あるいは職種の業務全体のトータルプロセスを考えて、人間とAIとの最も適切な役割分担を決めるのも人間なのです。
こうした枠組みの中でこそ、ディープラーニングはAI進化のカギと言えるのです。
要するに、飽くまでも生活全般の主体は人間なのです。
その人間がそうした意識が希薄になってしまうと、AIに仕事を奪われる、あるいはAIに支配されるというような、人間にとってとても住みにくいとんでもない社会になってしまう可能性をディープラーニングなどAIの進化は秘めているのです。
ですから、飽くまでもAIのみならずロボットなどは人間の豊かさのための一つに手段であるというのが大前提であることを忘れてはならないのです。